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老齢基礎年金額の改定 ~特例水準の解消に向けて~

コラム コラム

  国民年金制度は、全国民が加入対象の制度で、国民の老齢・障害・死亡に関して必要な給付を行う制度です。特に65歳から給付が始まる老齢基礎年金については多くの人の老齢期の生活資金の基礎となります。

  長寿国の日本では老後期間が長く、その生活を支える上で最も重要で身近であるはずの年金制度ですが、年金制度についてよくわからないといった声がよく聞かれます。最近では年金制度そのものの信頼が低下してきており、保険料の納付率も6割を切っている状況です。

  年金制度は本来はとてもシンプルな制度なのですが、度重なる法改正により様々な特例が設けられたり、既得権が保護されることにより、全国民が同一の条件ではないという複雑な制度になっています。また「あと1年早く生まれていればもらえていたのに・・・」というように、生年月日で区切られるものも多く、世代間の不公平感が大きくなってしまっています。

物価スライド特例措置

  年金額は、原則的には物価変動率や名目手取り賃金変動率により、毎年見直されます。平成12年度から平成14年度の3年間で物価が累積1.7%下落したにもかかわらず、年金の引下げを行わないという特例措置がとられました。

  平成16年に法改正がありましたが、物価スライド特例措置による額を優先的に支給するとしたため、現在まで特例措置が継続しており、平成25年度においては、本来の法定額と物価スライド特例措置による差が2.5%と拡大しています。(下図参照)


特例水準の解消

  平成12年度から平成14年度の物価下落分を年金額に反映させなかった特例措置が、平成16年の法改正を経ても解消されず、結果として現在まで継続されてきました。「もらいすぎの年金」が長いこと支払われ続けたのです。

  その一方で、保険料を負担している現役世代は平成16年の法改正で保険料水準固定方式が導入され、国民年金加入者は平成17年4月から保険料が毎年280円ずつ、厚生年金保険加入者は平成16年10月から保険料率が毎年1,000分の3.54ずつ引き上げられ、平成29年まで上がり続けます。(会社員の方は来月10月分の給与から厚生年金保険料が上がります。)

  「もらいすぎの年金」を支給し続けることは年金財政にとっては大きなマイナスです。そして現役世代の負担が毎年増え続けている中で、「もらいすぎの年金」を支給し続けることは世代間の不公平感が大きくなり、年金制度の信頼を損なうものでもあります。

  そこで、この特例水準の解消に向けて今年の10月から平成27年4月までの間に、3段階に分けて年金の受給額が引き下げられることになりました。具体的なスケジュールは、ます来月平成25年10月に1.0%引下げ、次に平成26年4月に1.0%引下げ、最終的に平成27年4月に0.5%引下げ、2.5%の特例水準を解消します。

今後の年金額について

  上記のとおり、平成25年10月に1.0%、平成26年4月に1.0%、平成27年0.5%の引下げを行うことにより、年金額は次の図のようになります。(平成26年以降は未定、今年の年金額に基づいて計算しています。)


  平成27年には、現在よりも年金額が20,100円(月額1,675円)も少なくなります。年金額の減額は、老齢基礎年金だけでなく、障害基礎年金や遺族基礎年金も減額となります。現時点ではまだ決定していませんが、消費税の増税が行われる可能性は高いでしょう。

  年金額の減額に消費税の増税と、高齢者の暮らしに重く負担がかかりますが、現役世代の負担はもっと大きいことを理解していただき、本来の法定額での受給を受け入れていただきたいと思います。

終わりに

  国民年金法16条の2には、「政府は、財政の現況及び見通しを作成するにあたり、国民年金事業の財政が、財政均衡期間の終了時に給付の支給に支障が生じないようにするために必要な積立金を保有しつつ当該財政均衡期間にわたってその均衡を保つことができないと見込まれる場合には、年金たる給付(付加年金を除く。)の額を調整するものとし、政令で、給付額を調整する期間の開始年度を定めるものとする。」と規定されています。

  実は、平成17年度から財政均衡期間(100年間)にわたってその均衡を保つことができないと見込まれる場合の『給付額を調整する期間』に入っており、平成50年度までの34年間にわたり給付額が調整されます。給付額の調整とは減額のことです。

  つまり、政府は本来なら減額をしなければならない年金額を減額せず年金財政をより悪化させたことになり、実は年金財政がちょっと危ういということを政府は知っておきながら、年金制度は大丈夫と言い続けているわけです。

  現時点では、まだ年金制度は破綻しているとまでは言えません。しかし「100年安心」なんていう言葉は信じられなくなっていることは事実です。

  「財政の現況及び見通し」の作成は平成26年度に行われますが、政府は年金制度の現状と将来の見通しについて包み隠さず公表し、弥縫策で誤魔化すようなことがないようにしてもらいたいものです。そして私たち国民一人ひとりも、年金制度を含む社会保障制度の在り方についてしっかりと関心を持ち、議論に参加していくことが大切です。

《野﨑 悟志》
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野﨑 悟志

野﨑 悟志

<保有資格> ・CFP ・1級ファイナンシャルプランナー技能士(資産設計提案業務) ・証券外務員Ⅱ種 ・年金アドバイザー2級 ・消費生活アドバイザー 寄稿者にメッセージを送る

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