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日本は「若者が高齢者を支える社会」から「高齢者が若者を支える社会」へ

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日本は「若者が高齢者を支える社会」から「高齢者が若者を支える社会」へ

自民党の若手議員たちが提唱している「こども保険」


小泉進次郎氏(自民党筆頭副幹事長)をはじめ、自民党の若手議員たちが「こども保険」の導入を提唱している。

人口減少傾向が顕著な日本を持続可能な社会としていくために、また社会保障制度を賄う財源を考えていくためにも、「こども保険」の制度設計を含めた実現可能性を議論することは大変有意義であると筆者は思う。

ご存知の読者も多いと思うが、「こども保険」については賛否両論が出ており、まさに総論賛成・各論反対となっているテーマである

幼児教育や保育を手厚くすべきだという点では多くの国民が同意するものの、財源をめぐって意見が割れている

安倍政権が、国民の負担増につながる社会保険料の引き上げに踏み込むことは政治的に難しく、企業からも反発が大きいことから「こども保険」導入をめぐっては政府内での議論が難航する見通しである。

また、全国紙の社説でも「こども保険」に対しては慎重論が多く、消費増税で財源を作るのが筋という論調が目立っている

「こども保険」制度のポイント

小泉氏らが提唱している「こども保険」制度のポイントは以下の通りだ。

・ 「こども保険」として、事業主・勤労者ともに給与にかかる社会保険料率を0.1%上乗せ(自営業者等の国民年金保険加入者は月額830円を負担する想定)することでおよそ3,400億円の財源を確保できると試算

・ 未就学児に1人当たり月額5,000円を支給し、子育て世帯の負担軽減を目指す

・ 将来的には上乗せ分を0.5%に引き上げて1兆7,000億円を確保し、子育て世帯への助成を月2万5,000円程度へ拡大することで、保育・幼児教育の実質無償化を図る

「子どもたちのことを社会全体で支えるというメッセージをしっかり伝える」とともに、将来世代からの借金となる国債発行を回避できることが「こども保険」の利点だ。

しかしながら、小さな子どもがいない世帯にとっては、保険料の負担だけが増えることになるので、制度実現に向けた議論の中で不公平感が上がることが予想される。

尚、小泉氏は、負担だけが増えることになる「就学中の子どもがいない世帯」の理解は得られると楽観的な意見を述べている。


将来の社会保障制度は若い世代がどれだけいるかにかかっている

子どもがいない人も、将来、社会保障の給付を受ける側になる。

将来の社会保障制度の持続性を担保するのは若い世代がどれだけいるかにかかっている。

したがって「若い人を支援するということは、子どもがいる、いないに関係なく社会全体の持続可能性につながるということを説明していく必要がある」と力説しており、筆者もこの考え方に賛成だ。

将来の年金・医療・介護の質とサービス量を決めるのはこどもの数であるので、国民の中に無関係な人はいないというわけである。

幼児教育の無償化は、短期的には女性労働力の増加に繋がり、長期的には出生率の上昇へ貢献することが見込まれるので、雇用改革と組み合わせて日本経済の潜在成長力を引き上げることも期待できるだろう。

こども保険の対案として検討されている「教育国債」

一方、こども保険の対案として検討されている「教育国債」は、大学を含む高等教育無償化に必要な財源を国債発行によって賄うものだ。

この構想では、子ども世代全体が成人になった後に自らの税金で高等教育の費用を返済することになるので、あくまで借金として将来にツケを回すことになるとの批判も多い。

しかし、現役世代と企業の負担増となる子ども保険よりも、資産を持つ高齢者にも財源を負担してもらえること(子どもの教育のためなら、相続時の優遇措置等があれば、無利子の国債でも購入して貰いやすい)を考えると「教育国債」の方が筋がいいという見方もある

子育てや教育は未来への投資になり経済波及効果も2倍を越えているとの試算もある。

建設国債で財源を賄う公共事業よりはるかに効率がいいので、教育費の財源には国債が適しているという専門家の意見には一理ある。

教育費用無償化の財源はこども保険よりも教育国債へ傾いている

先般、安倍首相は今後の社会保障政策についてこれまでの高齢者中心から「全世代型」に見直す意向を表明し、そのための施策として幼児教育の無償化などを挙げ、財源として教育に使途を限定して国債を発行する「教育国債」も検討する考えを強調していた。

日本経済新聞によるインタビュー(2017年9月12日)で、安倍首相ははっきりと意向表明をしているので、教育費用無償化の財源はこども保険よりも教育国債へ傾いているのかもしれない

財務省的には「国債より保険で教育費用を賄うべし」となるのだろうが…。

筆者は、安易な消費増税や教育国債の発行による財源確保よりも、小泉進次郎氏が提唱する筆者は「子ども保険」を支持したい。

消費税の歴史を振り返る

消費税の歴史を振り返ってみると、消費税率を8%にするためにいったい何年かかったことだろう

1986年の竹下政権時に消費税法が成立し翌1987年4月から3%の消費税が導入された。

その後、細川政権時に税率7%の国民福祉税構想が発表され、その翌年には撤回されるなどのスッタモンダを経て、1997年の橋本政権時に消費税率は3%から5%へ引き上げられた。

それから14年後の2012年6月、野田政権時に、民主・自民・公明の3党合意(社会保障と税の一体改革)に基づき、消費税率を2014年に8%、2015年に10%に引き上げる法案が可決成立した。

第二次安倍政権になってからの2014年4月に、ようやく現在の消費税率8%になったのだ。

2度にわたって延期されている税率引き上げ

ところが、当初予定されていた2015年10月の10%への税率引き上げは、2度にわたって延期され、2019年10月の引き上げきも実現するかどうかは甚だ疑わしいと言わざるを得ない。

仮に10%への引き上げが実現しても、そこで生まれる財源はすでに先食いされている。

国民年金の国庫負担引き上げ分や社会保障安定化に向けた国の借金返済等、大半の増税分の使途は決まっているのだ。

つまり、消費増税でこども向けの財源を作るなら、少なくとも税率11%以上が必要だ。

10%を超える消費税率になるのはいったいいつになるだろう。それを待っていたら日本の少子化は止まらない

新たな財源である富裕層の「年金返上」


現実策として考え出されたのが、こども保険という保険方式なのだ。

また、小泉進次郎氏が「こども保険」の社会保険料上乗せとは別の新たな財源として、企業経営者に「年金返上」を呼びかけ始めたことは大変興味深い。

すでに、経団連や経済同友会の役員の方々へは説明をしたという。

こども保険の枠組みの一つとして、企業経営者を含む富裕層が自主的に年金給付を受ける権利を放棄し、その分も財源に加えるという考えはなかなか面白くチャレンジングな提案だと筆者は思う。

ちなみに、複数の企業経営者が実際に返上に応じたということだ。

万一、年金返上後に生活が苦しくなった場合は、申告をすれば年金給付金を取り戻せる仕組みを導入することや、返上者には厚生労働大臣表彰や叙勲などをする案も考えられているそうだ。

安定性に欠ける個々人の善意に頼るような制度ではないか

ただし、小泉進次郎氏のような影響力のある政治家に、正面から年金返上を要請されたら、企業経営者たちは、風評リスク人望リスクも含めて、なかなかノーとは言いづらい。

寄付やボランティアの文化が未成熟な日本で、年金返上の動きがいったいどんな広がりを見せるのかは予想しづらいが、少し心配なこともある。

社会制度の問題を個人的な善意に頼るのはある意味で筋が悪く危険ですらあるからだ。

個々人の善意に頼るような制度は安定性に欠けるし、もしかしたら、いずれ善意の強制が始まるかもしれない。

また「年金返上」額の競争が始まる事態になりかねない。そもそも、年金返上を叙勲に結びつける発想自体が危険という見方はあろう。

いったん年金受給権が確立した後にその権利を返上した場合の効果も不明だ。

本人が死亡した時や障がい時の取り扱い、さらには一定の収入がある者の年金減額制度や相続財産の評価などいろいろ複雑な問題に発展しそうだ。

生活困窮を理由に年金を復活させるとなると、その手続きや制度設計はさらに複雑になる。

したがって、「年金返上」ではなく本人が受け取った年金を「子ども保険基金」の様な基金へ寄付するような制度にする方がいいかもしれない

「若者が高齢者を支える社会」から「高齢者が若者を支える社会」へ

いずれにしても、日本は「若者が高齢者を支える社会」から「高齢者が若者を支える社会」へそろそろ発想を転換すべき時代に入っていると筆者は考えている。

一定の資産を保有している、あるいは経済的に余裕のある高齢者が、積極的かつ自由意志で若者世代の子育てや教育のための財政支援をできる仕組みづくりが求められているのだ。

高齢者への医療・介護・年金への財政支出を今のまま年々増大させておく余裕はもはやこの国にはないし、人口減少を食い止める施策の導入はもう待ったなしだ

折しも、安倍首相は、2017年9月28日に召集される臨時国会の冒頭で衆議院解散に踏み切る見通しとなった。

2019年消費税率10%への引き上げ時の増収財源の使い道について、「国の借金返済等から幼児教育無償化など子育て支援の充実に変更することを争点」に掲げる方針と報道されている。

解散総選挙の行方がどうなるかは予断を許さないが、与野党間の選挙戦を通じて高齢者へ偏った社会保障のあり方を変えるきっかけになることを強く願いたいものだ。(執筆者:完山 芳男)

《完山 芳男》
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完山 芳男

完山 芳男

独立系FP事務所 FPオフィスK 代表 米国公認会計士(ハワイ州)、日本FP協認定CFP(国際上級資格)、1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格) 慶応義塾大学商学部卒業。大手自動車メーカーや外資系企業等の経理財務部勤務を経て、カリフォルニア大学バークレーへ1年間留学し、ファイナンスを履修。帰国後、米系・欧州系企業において経理責任者を務める。2004年愛知県名古屋市にて、独立系FPとして事務所を開所し現在に至る。 寄稿者にメッセージを送る

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