先日Yahoo!ニュースを読んでいたら、「解雇の金銭解決制度」の導入について、厚生労働省の検討会が議論を開始したと記載されておりました。

解雇の金銭解決制度とは、労働審判や裁判などで解雇が不当、つまり「解雇してはいけません」となった場合でも、会社が一定額の補償金を支払えば、復職させずに済む制度になります。

裁判をやってまで争うケースというのは、会社と労働者の信頼関係はすでに壊れており、復職が認められても、解雇される前と同じように働くというのは、かなり難しいのではないでしょうか?

そうなるとお金で解決というのは、会社と労働者のどちらにとってもメリットがあると思うのですが、労働組合側は「お金を支払えば解雇できる」という風潮が広がると、警戒感をみせております

ただ個人的にはお金を支払って解決というのは、現在でも行なわれていることであり、それを法律で制度化するだけなのですから、労働組合側の懸念は現実のものにならないと思うのです。

また法律で制度化されれば、手続きが早く済むようになるので、お金をもらって1日でも早く、新たな人生を歩みたいと考えている方には、むしろメリットだと思うのです。

解雇の効力が不確定でも健康保険証は返却する


復職するにしても、お金で解決するにしても、最終的な結論がでるまでには、ある程度の期間がかかります。そのため私はこのニュースを読んだ時、結論がでるまでの健康保険の取り扱いはどうなるのかと、考え込んでしまいました。

なお健康保険と厚生年金保険はセットで加入しますので、これは健康保険の問題であると同時に、厚生年金保険の問題でもあります。

いったんは解雇されたのだから、健康保険証は返すべきだという考え方もあれば、まだ解雇の効力がはっきりしていないのだから、返す必要はないという考え方もあります

これについて健康保険法には特に記載がなく、厚生労働省の通達(昭和25年10月9日保発68号)によって処理されているようです。

※通達の内容については、次のページを参考にしました
労組書記長(←元)社労士 ビール片手にうろうろと~
http://blog.goo.ne.jp/hisap_surfrider/e/aaf7ed2bc5748dc456a05556a896fbb9

その通達によると解雇行為が、明らかに労働法規や労働協約に違反している場合を除き、事業主から資格喪失届の提出があった時は、協会けんぽや組合健保は一応資格を喪失したものとして、それを受理する扱いになっております。

協会けんぽや組合健保が資格喪失届を受理するなら、事業主は労働者に対して、健康保険証の返却を求めても良いということであり、労働者の側はそれに応じなければなりません。

しかし労働委員または裁判所が解雇無効の判定を行い、その効力が発生した時は、その判定に従い解雇された時に遡って、資格喪失の処理が取り消されます。

つまり資格喪失届の提出はなかったものとされるので、協会けんぽや組合健保から事業主を経由して、健康保険証が戻ってくるのです。

解雇の金銭解決制度は無保険状態を短縮する


健康保険証が手元に戻ってきて、また使えるようになるのは良いことですが、事業主に健康保険証を返却してから、手元に戻ってくるまでの間、無保険の期間が生じてしまいます。

これについて厚生労働省の通達は、無保険の期間に全額自費で診療を受けた場合、資格喪失の処理が取り消された後に、自己負担である医療費の2割~3割除く、医療費の8割~7割を、「療養費」という現金給付で支給するとしております。

このように後日現金で還付してもらえるとしても、病気がちな家族と同居している方は、医療費の立て替えの負担が、大変になると思うのです。

ですから解雇の金銭解決制度が法律で制度化され、お金による解決の手続きが早く済むようになるのは、こういった無保険状態の短縮にもつながるという、メリットがあると思うのです。

なおこの通達が出された時とは法律が変わり、現在は無保険状態を回避するため、いったんは住所地の市町村が運営する国民健康保険に、加入できるようになりました。

ただ解雇が無効になった場合、解雇された時に遡って健康保険の資格喪失が取り消されるのですから、本来は納付する必要のない国民健康保険の保険料を納付して、また本来は受けられない国民健康保険の保険給付を、受けていたことになります。

そのため保険料の還付を受けると同時に、国民健康保険から支給された医療費の8割~7割を、現金で返すという面倒な手続きが発生するのです。

そう考えると解雇の金銭解決制度が法律で制度化され、お金による解決の手続きが早く済むようになるのは、法律が変わった現在でもメリットがあると思います。(執筆者:木村 公司)