個人の不動産売却に関しては、原則所得税15.315%・住民税5%かかりますが、所得にそのまま税率をかけると高額な納税となることが多いため、所得に対する特別控除などの特例が複数あります。

ただこの特別控除に関しては、所得を考慮した社会保障制度でそのまま活用できるものとそうならず不利になるケースがあるので、整理します。

不動産譲渡の特例


タイプとしては、大きく分けて

A.特定居住用財産の買換え特例
 ・・・譲渡所得に対する課税を将来に先送り

B.居住用財産の買換えの場合の譲渡損失の損益通算の特例
 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例
 ・・・譲渡損失が生じた場合に他の所得と損益通算

C.居住用財産の買換えの場合の譲渡損失の繰越控除の特例
 特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除の特例
 ・・・譲渡損失が生じた場合に将来に繰越

D.譲渡所得が大きく引き下げられる特別控除

の4つ(BとCは制度としては同一ですが、損失を当年分で相殺するか翌年以降で相殺するかで区分)あります。それぞれについて簡単に触れます。

Aは、10年超住んでいた持家を売って譲渡所得が発生したとしても所定の要件を満たす場合、購入した新居を売却した際に課税を繰り延べる制度です。

旧居の売却代金が5,000万円でも新居の購入費用が7,000万円であれば、7,000万円の家を売却した時に課税されます。

B・Cは5年を超えて暮らしていた家を売って譲渡損失が発生し、所定の要件を満たした場合は、同じ年度に生じた給与所得等と損益通算、もしくは将来の年分に繰越をすることができます

例えば平成26年分の譲渡損失100万円は、同じ年分の給与所得300万円と相殺したり、3年後の平成29年分給与所得300万円と相殺したりして総所得金額を200万円に圧縮できます。

Dの典型が、持ち家を売った場合に使える居住用財産の3,000万円特別控除です。譲渡所得3,000万円でも無税になるということです。

A・Bは社会保障で大きく不利になることは無いのですが、問題はCの繰越控除・Dの特別控除は、社会保障制度によって活用できるかできないかが変わるということです。

健康保険・介護保険制度


社会保険もしくは被用者保険とも言われる給与天引きの健康保険・介護保険については、給与・賞与額のみに左右されるのでここでは触れません。

国民健康保険・後期高齢者医療保険・介護保険の各保険料やそれらの加入者が支払う医療費・介護サービス費の負担割合、1カ月間の医療費や介護サービス費の上限を定めた高額療養費制度・高額介護サービス費制度も所得に基づいて決められます。

「旧ただし書き方式の所得」「住民税課税所得」「合計所得金額」のいずれに基づくかが問題です。

「合計所得金額」に基づくものは、特別控除や損失の繰越控除が適用されず不動産売却した翌年は大きく不利になります。

特例が適用されるもの

国民健康保険料(税)・後期高齢者医療保険料
70歳以上の医療費窓口負担割合(1割または2割の負担が、所得により3割に上昇)
高額療養費制度・高額介護サービス費制度の自己負担上限額

特例が適用されないもの

65歳以上の介護保険料 
介護サービス費負担割合(1割または2割)

介護保険は、40~64歳に関しては国民健康保険料(税)に介護分として含まれます。

介護サービスを利用されている方は負担割合が1年間上昇し、さらに65歳以上の方であれば介護保険料も上昇する可能性があるため注意が必要です。

また介護サービス費の負担割合に関しては、本人以外に65歳以上の同一世帯員が不動産を売却した場合も、影響を受け上昇する可能性があります。

なお、平成30年8月以降は3割負担になる人も出てきます(詳細は下記参照)。

 参考記事:平成29年5月成立予定の介護保険改正法では「現役世代」と「シニア世代」両方で負担が増える人が出ます

すまい給付金/保育料・高校授業料軽減

住宅資金に関わるものと教育費に関わるものを一括にしていますが、このグループは住民税所得割に基づく算定(保育料)または所得制限(保育料以外)になるものです。

住民税所得割とは所得に応じた税額のことですから、税負担をおさえるための特別控除や繰越控除は当然考慮されています。

従ってこれらの制度に関して不利になることはありません。

また奨学金の返還額が所得に左右される「所得連動返還方式」も、住民税の課税所得に応じたものなので同様です。

児童手当・児童扶養手当


中学生までの子供がいる際にもらえる児童手当や、母子家庭向け世帯にもらえる児童扶養手当ですが、所得制限が設けられていて制限を超えると減額されます。

これらの手当における所得制限においては、損失の繰越控除があれば控除後の金額で判定しますが、特別控除については控除しない金額で判定します。

ですので、上記Cのような譲渡損失の繰越控除を利用していた場合は、児童手当等の所得制限においても反映されます。

しかし、Dのような居住用財産の3,000万円特別控除によって税負担を抑えていた場合は、残念ながら児童手当や児童扶養手当は1年間減額される場合もあります。

最後に

不動産譲渡の特例は、複数あわせて利用できないことがあります。複数活用できる中で選択する場合は、税負担だけでなく利用する社会保障制度も考えておくと良いです。(執筆者:石谷 彰彦)