なぜ医療費が増えているのに「協会けんぽ」は9年連続で黒字なのか? その理由をお話しします。

会社員の方が加入する健康保険は、各都道府県に支部がある全国健康保険協会が運営する「協会けんぽ」と、企業などが設立した健康保険組合が運営する「組合健保」の、2種類に分かれております。

前者には中小企業の従業員とその扶養家族が、また後者には大企業の従業員とその扶養家族が、主に加入しておりますが、実際にどちらに加入しているのかは、健康保険証などを見ればわかります。

先日に新聞を読んでいたら、協会けんぽに関する、2018年度の決算見込みについて記載されておりました。

それによると2018年度は過去最高の黒字額となり、また9年連続で黒字を記録したそうです。

かなり前から医療費が増えて、社会問題になっておりますから、協会けんぽの決算がこのような結果になったことに、大きな驚きを感じました。

しかも2017年度の決算で、約4割の組合健保が赤字になったと報道されていたため、ますます驚きを感じます。

協会けんぽの決算が良かった理由や、組合健保との格差が広がった理由について考えてみると、次のようになります。

協会けんぽが 9年連続で 黒字な理由

協会けんぽの決算が良かったのは、社会保険の適用拡大と賃上げが要因

パートやアルバイトなどの短時間労働者に対する、社会保険(健康保険、厚生年金保険など)の適用が、2016年10月から拡大されました。

そのため

・ 「月収が8万8,000円以上」
・ 「1週間の所定労働時間が20時間以上」
・ 「学生ではない」
・ 「雇用期間の見込みが1年以上」
・ 「従業員数が501人以上の企業に勤務」

という5つの要件を、すべて満たした場合には、短時間労働者でも社会保険に加入します。

また2017年4月からは、「従業員数が501人以上の企業に勤務」という要件が少し変更されたため、労使(労働者と使用者)の合意がある場合には、従業員数が500人以下の企業でも、社会保険に加入するようになりました。

こういった改正を受けて、健康保険の保険料を納付する方は、以前より増えているのです。

ここ数年は健康保険の保険料を納付する方だけでなく、それぞれが納付する保険料の金額も増えております。

その理由として社会保険の保険料は原則的に、賃金(月給と賞与)の金額に比例して増える仕組みになっているうえに、ここ数年は人手不足などにより、賃上げが実施されているからです。

協会けんぽの決算を報道していた上記の新聞は、保険料を納付する方の増加と、それぞれが納付する保険料の増額により、協会けんぽの保険料収入が増えたため、黒字額が過去最高になったと分析しておりました。

この分析には納得できるのですが、組合健保でもこの2つの現象が起きているのですから、なぜ赤字の組合健保が増えているのかという、疑問が残ります。

後期高齢者支援金の計算方法の変更が、組合健保の負担を増やしている

原則として75歳から加入する、後期高齢者医療の財源の内訳は、患者の負担を除くと、後期高齢者が納付する保険料が約1割、現役世代からの「後期高齢者支援金」が約4割、公費が約5割になっております。

そのため健康保険の加入者が納付する保険料の一部は、後期高齢者支援金として使われているのです。

近年は高齢化が進んでおりますから、協会けんぽと組合健保のいずれについても、後期高齢者支援金のための支出が、年々増えているのです。

これに加えて2017年度からは、後期高齢者支援金の計算方法が「加入者割+総報酬割」から、「完全総報酬割」に変更されました。

この中の加入者割で計算する場合、加入者の人数が多いところほど、後期高齢者支援金の負担が大きくなります

それに対して総報酬割で計算する場合、加入者の月給や賞与の金額が高いところほど、後期高齢者支援金の負担が大きくなります。

協会けんぽと組合健保を比較してみると、中小企業の従業員が主に加入する協会けんぽより、大企業の従業員が主に加入する組合健保の方が、加入者の月給や賞与の金額が高いのです。

そのため「加入者割+総報酬割」から「完全総報酬割」への変更は、

協会けんぽが負担する後期高齢者支援金を減らし、組合健保が負担する後期高齢者支援金を増やす

という結果になりました。

これが協会けんぽと組合健保との格差が広がった、理由のひとつではないかと思います。

協会けんぽと組合健保との格差が広がった、理由

協会けんぽの保険給付費に対しては、国庫補助(税金の投入)がある

社会保険の適用が拡大されたり、後期高齢者支援金の計算方法が変更されたりしたのは、数年前の話ですから、9年も連続で黒字が続いているのは、何か別の要因がありそうです。

協会けんぽと組合健保の大きな違いとして、協会けんぽの保険給付費には、国庫補助(税金の投入)があるのですが、組合健保の保険給付費には、国庫補助がありません。

また9年連続の黒字が始まる直前の2009年度に、協会けんぽは赤字に陥ったため、保険料率を引き上げすると共に、国庫補助率を13.0%から16.3%に引き上げしました。

ここからは継続的に黒字が続いておりますから、国庫補助が引き上げされたことが、9年連続で黒字になった要因のひとつと考えられます。

組合健保の付加給付がなくなったら、民間の医療保険でカバーする

協会けんぽは都道府県の支部ごとに、保険料率が変わってくるのですが、その平均は10%程度になります。

そのため後期高齢者支援金の負担増などにより、それぞれの組合健保の保険料率が、協会けんぽの平均保険料率を超えてしまうと、組合健保の解散が検討されるようです。

実際に組合健保が解散する場合、これの加入者とその扶養者は、協会けんぽに移行するため、無保険になることはありません。

また解散する組合健保の保険料率は、協会けんぽの平均保険料率を超えている場合があり、こういったケースでは協会けんぽに移行した後に、保険料が安くなる可能性があります

ただ組合健保の中には、法律で定められた「法定給付」の他に、「付加給付」を実施したり、例えば人間ドックを受けた時などに、補助金を支給したりしているところがあり、協会けんぽに移行した後には、これらを受けられなくなってしまうのです。

そのため組合健保の解散が決定した場合には、協会けんぽに移行した後に受けられなくなるものを、早めに受けておいた方が良いのです。

また付加給付がなくなれば、病気やケガになった時の保障が、今までより手薄になるので、それに不安を感じるようだったら、民間の医療保険の保障を、充実させた方が良いと思います。(執筆者:木村 公司)

この記事を書いた人

木村 公司 木村 公司(きむら こうじ)»筆者の記事一覧 (199)

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。
【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種
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