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5月23日、日本株急落とその対応
「日経平均株価やTOPIXに連動するインデックスタイプの投資信託やETFは簡単なので、初心者向きの運用手段である。」とよく言われますが、(日経平均史上ワースト10に入る)株価急落を期に改めて考えてみると、このセオリーに疑いが生じました。
5/23の夜、そして翌日に多くの方から受けた問いかけは、下記3つです。
(2) 今日の急落は世界株安のきっかけとなるのか?それとも、気にせずに見過ごせばよいものなのでしょうか?
(3) 今持っている株は売ってしまった方がよいのでしょうか?
では、それぞれの問いかけに対する答えは何でしょうか?
(1) 株価急落の原因は何か?
「アベノミクス効果で株価が急騰していたところで、中国経済指標の悪化および長期金利1%乗せのニュースが重なり、株式を保有しながらも上がり過ぎを心配していた多くの市場参加者が利益確定売りを出した。そこにデリバティブの売りの仕掛けや損切り、金融機関の硬直的なシステム売買が売りサインを出したことが下落幅を大きくした。」このような長ったらしい答えになると思います。
一見、なるほどね、ともっともらしく聞こえますが、この回答は実にいい加減なものです。いい加減な点は、すべて後講釈であることです。前もって指摘してくれなければ防ぎようがありません。
そして、もう一つの点は、この回答からは、次にどう動くべきなのかの判断ができないことです。この文章を今後の投資に役立てることは至難の業です。
このため、当然のように(2) の問いかけが投げかけられます。が、この答えは簡単です。
(2) これは世界株安のきっかけ?それとも一時的なもの?
「もう少し様子を見なければ分かりません。」「今日や明日のニューヨーク、ロンドン、シンガポールの結果を待ちましょう。」これが答えです。
シンプルな解答ですが、もちろん、投資家の悩みが解決できるものではありません。納得してもらえるものでもありません。個人的な判断を加えることはできますが、単なる個人の意見が正解になるのかどうかは分かりません。そんな根拠に乏しいことを大切な人に伝えることはできません。
そこで、次の(3) の問いかけです。これに対する解答は、悩みの解決に結びつく、しっかりとしたものを準備することができます。
(3) 今持っている株は売った方が良いの?
「あなたは株式を使ったトレードのツールとして株式を買いましたか?それとも、投資として株式を買いましたか?」こうたずねることが必要ですが、前者であれば、「ここ数日は株価の乱高下があるでしょうから、トレーダーらしく常に市場を見つめ、その瞬間の市場の流れに沿った動きとして下さい。」が答えです。
「下落局面は売って、上昇局面はすぐに買いましょう。また下落するのであれば売ってくださいね。」となります。
一方、後者の投資として買っている場合には、23日のような急落があろうとなかろうと、常に判断基準が準備されています。
「株価が下がった理由は、企業業績が悪化したから、またはその徴候やニュースが流れたからですか?それとも、企業業績は悪くないが、市場が勝手にブレて乱高下しているのですか?」これが判断基準です。企業業績が原因であれば売ります。市場のブレが原因であればそんなもの無視をして持ち続けます。
これまで、業績は悪かったがアベノミクスに連れて買われてきた銘柄は、今後も下落し続けるきっかけとなる可能性が大きいため、この際売ってしまいましょう。しかし、業績が好調な企業は、原則通り売ることなど考える必要はありません。5年後に振り返ったとき、5月23日を覚えている方は少ないはずです。であれば、23日の急落は長期保有する場合には関係ないことなのです。長い歴史の一日に過ぎません。
なぜインデックスは難しいのか?
ここでようやく本題に入ります。なぜインデックスは難しいのか?への答えです。
賢明な読者であればもうお分かりかと思いますが、インデックスの話をした場合、答えがあってないような、(1) の質問、次に(2) の質問までは進むことができますが、(3) の質問には進むことができないからです。とくに投資として株式を保有している(3) の後半の質問は答えることができません。これは答えたくないのではなく、答えを導く根拠がないのです。
「市場全体のPERや一株利益が新聞に記載されていますよね。」と指摘されることでしょうが、あくまでも全体的な数値であるため、投資する際にこの数字を厳格に参考としているケースはほぼ皆無であると思われます。また、両方の数値が日々変動し、かつ比較的大きく変動する傾向があるため、おぼろげなイメージとしては参考にできますが、具体的な数値にはなりにくいのです。
「23日の急落がありましたが、急落前さえもPERは17.3倍程度であり、アベノミクスが始まった年初の17.5倍とほぼ変わらない。だから心配せずに持ち続けましょう。」と自信を持って言えないのです。一方、「一株利益が3月末の594が、急落前には903になっていたので、日本全体の利益はこのまま順調に伸びそうです。だから持ち続けましょう。」とも言えないのです。
PERも一株利益も、ともに日々変動するため、インデックスにおいて利益が悪化したから下落したのか?それとも市場の期待値がブレたから下落したのか?との単純明快な判断ができないのです。
(4) 今は割安?それとも既に割高?
ここで、別の問いかけ(4) も追加してみます。「今は割安ですか?もうすでに割高で買えない水準ですか?」
この回答のため、日経新聞から実際の数値(概数)を確認してみました。
一ヶ月前の4/22日、日経平均株価は13,568円。急落前日の5/22は15,627円と2,000円以上も値上がりしています。一方、PERは4/22が23.21倍、5/22が17.31倍。いずれの数値も短期間で大きく動いていますが、PERの利用法から見れば、4/22の13,568円は割高で売り推奨、5/22の15,627円は割安で買い推奨。と訳の分からない結果になってしまいます。
23日の急落は、割高・株価が急ピッチで上がり過ぎと考えていた投資家が利益確定売りの水準を探し求めていたことが、その原因ではなかったのか。その急落理由さえ、辻褄が合わないものとなってしまいます。
個別株ベースでは使い勝手の良い、一株利益とPERの関係から考える割高、割安の判断方法が市場全体の日経平均には利用できないことがお分かりでしょうか。あくまで参考にしかならないのです。
さらに、「日経平均は今後も成長する有望な市場ですか?」の問いかけ(5) にも答えることができません。もちろん個別株では、かなり明確に成長銘柄なのかどうか判断することができます。
市場全体に連動するインデックスは簡単どころか、現状を把握するための、そして今後の方針を決めるための複数の重要な問いかけに対して、明確な答えが何一つ準備できないのです。(1) 、(2) の問いかけには答えられても、株式投資にもっとも大切である(3) ~(5) の問いかけには答えられないのです。「掴み所がないので他力本願での上昇を待つしかありません!」としか言えません。
他力本願だから簡単!でよいのでしょうか。
他力本願は、投資判断の最終責任が投資家自身にあるとの認識が薄くなるという意味においては、気楽で、ある意味簡単な投資方法かも知れません。しかし、私は他力本願をオススメしません。「もし、市場全体の企業業績が40%上がれば株価は18,000円も夢ではないね。」一見真っ当な表現に見えますが、本当にこれでよいのでしょうか。「もし」に自分の大切な資産を任せてよいのでしょうか?
リスクがあるからこそ、より確率の高い資産を手に入れることが必要です。自分なりの判断を下さなければいけません。そのときに、明確な基準が準備できないインデックス投資は簡単な投資手法なのでしょうか?簡単だよと大切な人に伝えてもよいものなのでしょうか?インデックス投資は、資産形成を市場全体の成長に委ねることと引き換えに利用する価値のあるものなのでしょうか。
また「分かりやすい」とのキーワードもこれでよいのかと思います。「日経平均株価と連動するのでこのETF、このインデクス投資信託は大変分かりやすく、オススメの商品です。」何度も聞かされたセリフです。確かに運用状況は分かりやすいのですが、この分かりやすさにどれだけの価値があるのでしょうか?今割高なのか、割安なのかさえも分からないのに、値段が見えやすいことがオススメの理由になるのでしょうか。
5/23の急落に際して、改めて考えさせられました。みなさんは株式を使った運用についてどのようにお考えでしょうか。多くの方のご意見を聞きたいと思っています。