来年からの相続税法改正(基礎控除額が現行の60%に改正他)にむけて、銀行、信託銀行、生保会社、建築会社、デベロッパー等々、個人の財産に絡んでくるあらゆる業種や業態の会社が、こぞって相続対策を売り文句とした営業戦略をたてているような感じがします。
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相続でもめるのは資産家ではなく、相続税がかからない人
相続税といえば一部の資産家の悩むものと思われがちですが、実際は税金に関係ない遺産分割での悩みが深刻なものとなってきます。兄弟間で親の遺した財産をめぐっての争いがおきた場合、その話し合いの収拾は困難を極めることとなってきます。
多くの財産があるからもめるのでしょうか? 実は、家庭裁判所への相続の調停申し込みは、相続財産5000万円以下の人の割合が70%を超えるといったデーターもあるように、相続税がかかってくる人のみが心配なのではなく、むしろ相続税がかかってこない人のほうが遺産分割が纏まらないといった結果となっています。
この要因としては、相続財産の内訳に占める割合として金融資産に比べて不動産の比率が高いことがあるかもしれません。国税庁の資料では、相続財産のうち不動産(土地+家屋)の占める割合は、約57%(平成21年)となっています。あくまで、これは、全国平均値さらには路線価ベースでの対比です。
これが、公示価格や実勢相場(路線価は公示価格の約80%で評価)で対比した場合、さらに東京や大阪といった都心部である場合は、その対比は70%をゆうに超えてくるものかもしれません。相続財産のうちに不動産の割合が多いということは、兄弟間で均等に分けるのが難しいからです。
実際に起きた事例 こんな風にならないようにしよう
昔は、均等に分筆して分けるのが困難な場合は、均等に共有持分で分割しているケースは多く見受けられました。そして、50年後には、その共有者は、30人をこえ、会ったことも見たことも無い遠い親族と共有している事となってしまいます。
現に、2世帯住居(建物は親との共有持分)を親の土地に建てて住んでいた長男が、母の2次相続で2世帯住宅の土地の分を含めた相続財産の均等分割を要求され、どうにもならずに2世帯住宅を売却して換価分割した例もあります。
また、相続税がかかってくるといった場合、その相続財産の殆どが不動産、相続税を支払える金融資産が無いといった場合、手持ちの不動産を売却して相続税を納める必要がでてきます。相続の開始後(被相続人の死亡を知った日の翌日)10カ月以内に相続税を計算して国に納付しなければなりません。その時に、すぐ、売却できる土地はなにかです。
貸家や賃貸マンションが建っている場合、新しければまだしも、老朽化していた場合は買手は更地での売買を希望するでしょう。賃借人がいると立退きの交渉が必要となってきます。そのまま、賃借人つき、オーナチェンジで購入してくれればいいですが、買手が新築前提で考えている場合、ありえない話でしょう。
急な相続でそんな局面に立たされた場合、売却できる土地はどれか…たまたま、一番条件のいい虎の子とも言うべき土地の賃貸借契約が完了し、すぐ売却できる状況であったため、その虎の子の土地を売却して相続税を支払ったというケースもあります。
上記のようにならないためには、あらかじめ、長男との2世帯住居を建てるときに遺言書を遺しておくこと、さらには、遺言書があっても遺留分の権利はありますので、不動産の実勢相場をきちんと把握して、遺留分相当額を長男が代償して支払える準備はしておくべきでしょう。
遺産分割での不動産の価格をどう想定しておくか
ここで、必要なのは、遺産分割での不動産の価格を、どう想定しておくかでしょう。実際の遺産分割では、相続人間でその価格を話会いで決めていきます。いま、売ったらいくらで売れるといった実勢相場から路線価や固定資産税評価額まで様々な価格があります。いわゆる一物四価と呼ばれるもので、(1) 固定資産税評価額、(2) 路線価、(3) 公示価格・基準地価格、(4) 実勢相場の4つです。(1) から(4) に行くに従って、高い水準の価格となってきます。
それぞれの価格を算出して、他の財産の価格も考慮しながら遺される方が自分で判断していくほかないでしょう。また、納税にあたっては、いつ、相続が発生しても慌てずに納税できる準備はしておくべきでしょう。そのためには、相続税のシミュレーションをして、いくら支払う予定なのかを把握して、手持ちの不動産のうち納税用に売却しても惜しくない不動産を選定しておくべきでしょう。
そして、すぐ、売れるように駐車場等にしておく等の対策が必要です。この場合は、手持ちの不動産の全てを改めて見直して、残すもの、売却してもいいもの、等に振り分けておくべきでしょう。相続に備えるために、とにもかくにも、まずは不動産を改めて見直してみてください。何か、思わぬ気付きやアイデアが思いつくかもしれません。(執筆者:荒木 達也)