遺言書には一般に自筆証書遺言と公正証書遺言がありますが、自筆証書遺言は費用は安いし誰でも手軽に作成できるということで人気があります。ただ手軽であることの反面いくつかの注意点や落とし穴がありますので、ご説明したいと思います。
目次
1. 作成時に民法上の4つの要件を守らなければなりません
(1) 自筆で書くこと:
代筆・録音だけでなくワープロも不可です。
(2) 作成年月日を正確に書くこと:
平成26年〇月吉日のように日付けを正確に特定できないような文面は不可です。
(3) 署名すること:
自分の字で署名しなければなりません。
(4) 押印:
実印で押印して印鑑証明書を添付しておくのが紛争を避けるのに望ましいと言えますが、認印でも可です。
上記4つの要件のどれかが欠けても遺言書としての効力を失います。
2. 作成後は安全に保管しなければなりません
発見しやすい場所に保管するか、あるいは信頼できる人に預けておくことが必要です。遺言書は自分の死後に相続人に発見されなければ何の意味もありません。
誰かに見つけられても中身を見られたり、場合によっては破棄される場合があります。また長い時間が経過すると字が磨滅したり汚れて読めなくなることがあります。保管場所には十分注意しなくてはなりません。
3. 遺言発生後(遺言作成者の死後)は検認手続きが必要となります
相続発生後に相続人が遺言書を発見した場合は、家庭裁判所に検認という手続きを申し立てしなくてはなりません。検認手続きでやっかいなのは、遺言者の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本および相続人全員の戸籍謄本を取り寄せる必要があることです。相続人の人数が多いとか地方に分散しているような場合、取り寄せるだけで3か月も4か月もかかることもあります。
検認手続きが終了すると検認済証明書が渡されます。ただしこの検認手続きは遺言の記載内容や形状を確認するだけの形式的な手続きで、中身の有効・無効を判断するものではありません。
4. 名義書き換え手続きが煩雑な場合があります
金融機関で相続人が名義変更手続きをする場合、「相続人間での争いがないこと」の確認を求められる場合があります。金融機関によっては所定の用紙に、相続人全員の署名と実印が求められて不快な思いをする方もおります。
名義変更には1通しかない遺言書の原本が必要となります。不動産や金融機関の名義変更が数多くある場合には、かなりの手間と日数がかります。
5. 遺言書の有効性について訴えられて紛争のタネになることがあります
すべての要件を満たした自筆証書遺言であっても、不利な扱いを受けた相続人から有効性について訴えられる場合があります。
たとえば「作成時に遺言者は認知症で判断能力が落ちていたのだから誰かに無理やり書かされたものであり無効である」と訴えられるような場合です。公正証書遺言に比べると紛争になる可能性は高くなります。
自筆証書遺言を作成される方はこういった点に十分配慮しておくべきです。(執筆者:須原 國男)