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先日毎日新聞を読んでいたら厚生労働省が、平成26年に実施された「就業形態の多様化に関する総合実態調査」の、調査結果を発表したと記載されておりました。
平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況(厚生労働省HP)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keitai/14/index.html
これによると労働者全体に占める、パートやアルバイト、契約社員、派遣社員などの非正規社員の割合は、昭和62年に調査を開始してから初めて、4割に達したそうです。
就職終われハラスメント、いわゆる「オワハラ」という言葉が話題になり、企業が正社員の確保に苦労している中で、こういった調査結果が出てくるのは、かなり意外な感じがしますね。
この4割の方に意識調査を行なったところ、「自分の都合のよい時間に働けるから」と、前向きな理由で非正規社員を選んだ方が、37.9%おりました。
その一方で「正社員として働ける会社がなかったから」と、仕方なく非正規社員を選んだ方が、18.1%もおりました。
ただ、いずれであっても、非正規社員の待遇は正社員より悪く、例えば「就業形態の多様化に関する総合実態調査」に記載されていた、各種の保険の加入率は、次のようになっております。
健康保険の加入率:非正規社員54.7%、正社員99.3%
厚生年金保険の加入率:非正規社員52.0%、正社員99.1%
現在の日本は全ての国民が、何らかの公的年金の対象となる、「国民皆年金」の体制をとっておりますので、厚生年金保険に加入できない方は、国民年金に加入します。
しかし国民年金の保険料である15,590円(平成27年度額)を、20歳から60歳まで、1カ月も欠かすことなく納付しても、原則65歳から支給される老齢基礎年金は、780,100円(平成27年度額)にしかなりません。
つまり1カ月あたり65,000円くらいになりますが、保険料の未納期間があれば、更に少なくなります。また厚生年金保険の加入者のように、老齢基礎年金に上乗せして、老齢厚生年金は支給されません。
そうなると年金だけで生活していくことは難しくなり、老後も働き続ける必要があります。また病気やケガで働けなくなってしまったら、生活保護を受けるしかなくなります。
つまり労働者に占める非正規社員の割合の増加は、生活保護の予備群の増加とも考えられ、政府としても放置しておくことのできない問題なのです。
「106万の壁」は「69万6,000円の壁」へ
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政府としてはこの問題に対して、ただ手をこまねいているわけではなく、平成28年10月1日から、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の適用者を拡大します。
つまり次のような要件を満たしますと、本人の意思の有無にかかわらず、社会保険に加入する必要があるのです。
B:給与の月額が8万8,000円以上(年収に換算すると106万円以上)
C:勤務期間が1年以上
D:学生でないこと
E:社会保険の対象となっている従業員数が501人以上の企業に勤務していること
ただこの改正により新たに社会保険の加入者になるのは、約25万人と推定されており、決して大きな数字ではないのです。
厚生労働省が発表している、「平成25年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、平成25年度末の国民年金の加入者の人数は、次のようになっております。
配偶者の扶養となり保険料を納付しない第3号被保険者:945万人
これらの合計と比較すると約25万人というのは、1%程度にすぎませんから、ほとんどの方には何ら影響がないのです。
そのため平成26年9月に自民党や公明党は、このA~Eを見直して、更に社会保険の適用者を拡大する議論を開始しました。
まだ何も決定されておりませんが、その時には次のような2案が例示されました。
1つ目の案はA、C、Dの要件は見直しせず、B、Eを次のように変更するというものです。
B:給与の月額が5万8,000円以上(年収に換算すると69万6,000円以上)
E:従業員数が法人(株式会社など)なら常時1人以上、個人事業なら常時5人以上の事業所に勤務していること
(2)A、B、C、Eを見直し
2つ目の案はA、C、Eの要件を廃止して、つまり1週間の所定労働時間、勤務期間、従業員数がいくつであっても、社会保険に加入することにして、Bを次のように変更するというものです。
B:給与の月額が5万8,000円以上(年収に換算すると69万6,000円以上)
以上のようになりますが、これらはあくまで案であり、この通りになると決まったわけではありません。
ただ平成28年10月1日の適用拡大から「3年以内に検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講じる」と、法律に明記されているので、「106万の壁」は序章にすぎないと思うのです。
社会保険の適用拡大をマイナスに考えない
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老齢基礎年金の上乗せとなる老齢厚生年金が支給されるのは、原則として65歳からになります。
しかし厚生年金保険の加入期間が1年以上ある、昭和41年4月1日以前に生まれた女性は、60歳から65歳までの間に、特別支給の老齢厚生年金を受給できるのです。
そして厚生年金保険に加入して保険料を納付すれば、その分だけこの金額は増えていきます。
また厚生年金保険に加入していれば、一定の障害状態になった時に、障害基礎年金に上乗せして、障害厚生年金が支給されます。
こういったメリットがありますので、社会保険の適用が拡大されることを、あまりマイナスに考えない方が良いと思うのです。(執筆者:木村 公司)