お勤めしている会社が次のような企業年金を実施している、厚生年金保険の被保険者は、個人型の確定拠出年金に加入できません。
・企業型の確定拠出年金
・確定給付企業年金
また国民年金の第3号被保険者となり、保険料を納付する必要のない専業主婦や、公務員についても、個人型の確定拠出年金に加入できません。
これを改正して上記のような方でも、個人型の確定拠出年金に加入できるようにする案が、厚生労働省から提示されたのは、平成26年10月14日に開催された、社会保障審議会の企業年金部会になります。
そして平成27年4月3日に、この案を盛り込んだ「確定拠出年金法等の一部を改正する法律案」が、第189回の通常国会に提出されました。
しかし衆議院本会議において可決され、参議院へ送付された後に、国会が会期末を迎えてしまい、参議院で可決されることはありませんでした。
その後に開催された第190回の通常国会で、継続審議が行なわれておりますが、平成28年2月9日現在においても、まだ可決しておりません。
しかし可決は時間の問題であり、もし可決されれば平成29年1月1日から、現在は加入資格のない上記のような方でも、個人型の確定拠出年金に加入できるようになります。
入口ではメリットのない専業主婦
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正社員、パートやアルバイトなど、お勤めしている方の所得税は、大まかに表現すると、次のような手順で算出されます。
(B)「給与所得-所得控除=課税所得」
(C)「課税所得×所得税の税率=所得税」
確定拠出年金の掛金は、所得控除のひとつである「小規模企業共済等掛金控除」となり、(B)に記載されているように、その全額を給与所得から控除できます。
つまり確定拠出年金の掛金は、「配偶者控除」や「扶養控除」などの所得控除と、同様の取り扱いになりますので、わざわざ確定申告をする必要はなく、年末調整で控除を受けることができるのです。
具体的には「給与所得者の保険料控除申告書」の右下を見ると、「あなたが本年中に支払った掛金の金額」という欄があるので、そこに金額を記入します。
小規模企業共済等掛金控除により課税所得が少なくなれば、その分だけ節税につながります。
しかし例えば夫が配偶者控除を受けるため、年収を103万円以内に抑えている専業主婦の方には、このようなメリットはありません。
その理由として(A)で年収の103万円から、給与所得控除の65万円を控除し、(B)で誰でも受けられる所得控除の「基礎控除(38万円)」を控除すると、その時点で課税所得はゼロになります。
そのため小規模企業共済等掛金控除となる、確定拠出年金の掛金を拠出しても、それ以上は控除できないのです。
そうなると専業主婦の方は、確定拠出年金の掛金を拠出する段階、つまり入口においては、節税のメリットはないのです。
入口の段階で節税のメリットを受けるには、少なくとも妻の年収が103万円を超える必要がありますが、そうなると夫が配偶者控除を受けられなくなってしまいます。
なお夫が配偶者控除を受けられるか否かは、妻がパート収入のみの場合、(A)「1月~12月に支払われる給与の合計額-給与所得控除=給与所得」の給与所得が、38万円以下になるかで決まるのです。
そのため(B)「給与所得-所得控除=課税所得」の課税所得が、ゼロになるか否かは、妻が納付する所得税に影響を与えますが、夫が配偶者控除を受けられるか否かには、直接的には関係がありません。
例えば妻の年収が103万円を超えて、110万円になってしまった場合、妻が確定拠出年金の掛金を7万円拠出すれば、課税所得はゼロになり、それにより所得税もゼロになります。
しかし妻の給与所得は、「110万円-給与所得控除(65万円)」で45万円となり、38万円以下になりませんので、夫は配偶者控除を受けられなくなるのです。
また平成28年10月からは、年収が106万円以上になると、社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入する可能性が出てくるので、こういった点にも注意しなければなりません。
出口では税制面の優遇を受けられる
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拠出した掛金は確定拠出年金の加入者の選択により、例えば定期預金や投資信託などで、運用が行なわれます。
通常であれば定期預金の利子、投資信託の分配金や譲渡益には、20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)の、課税が行なわれるのです。
しかし確定拠出年金の掛金で運用した場合には、こういった課税は行われず、受取時に一括して課税されます。
ただ受取時に一括して課税されるといっても、次のような年齢になると請求できる「老齢給付金」を、一時金として受け取る場合には、「退職所得控除」が適用されます。
また年金として受け取る場合には、「公的年金等控除」が適用されるため、税制面で優遇されているのです。
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例えば65歳未満の方が年金で受け取った場合、公的年金と老齢給付金の合計が年間で、公的年金等控除(70万円)と、基礎控除(38万円)の合計である108万円以内に収まれば、課税は行なわれません。
また65歳以上の方が年金で受け取った場合、公的年金と老齢給付金の合計が年間で、公的年金等控除(120万円)と、基礎控除(38万円)の合計である158万円以内に収まれば、課税は行なわれません。
このように入口ではメリットのない専業主婦の方であっても、老齢給付金を受け取る段階、つまり出口においては、個人差はありますが、税制面の優遇を受けられます。(執筆者:木村 公司)