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通貨が壊れるとき(タイ・バーツ編)

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通貨が壊れるとき(タイ・バーツ編)

固定相場制を採っていた1990年代初頭のアジア諸国


1990年代初頭のアジア諸国はほとんどの国が自国通貨と米ドルを一定の為替レートでの兌換を保証する、いわゆる固定相場制を採っていた。そして自国通貨の金利を高めに設定していた

こういう状態にしておくと為替の下落リスクがないうえに高いリターンを獲得する事が可能になるので、外貨とくにドル資産を保有している人の投資資金が集まりやすい

魅力的な投資対象地域だったタイ

中でもタイはその典型だった。当時年率9%を超える経済成長を見せていたタイは外国人投資家にとっては魅力的な投資対象地域だったのである。

1990年代中盤に差し掛かると天安門事件の経済制制裁を解かれた中国が安い労働力をテコに海外の投資を惹きつけるようになる。同時にアメリカがそれまでのドル安容認の態度を改め、一転「強いドル政策」を採るようになった

中国の台頭によって急速に輸出競争力を失った


タイはたちまちドルに連動した自国通貨バーツ高と廉価で豊富な労働力を背景とした中国の台頭により急速に輸出競争力を失っていったのである。

こうした場合、自国通貨が変動相場制であれば経済の低迷とともにその国への信認が減退するので通貨が売られ、通貨安になるのが普通だ。そうなればまた輸出競争力がついて経済が回復するチャンスもある。

ところがこのときのタイは経済状況が悪化しているにもかかわらずドルペッグ制を採用していたために強いドルに連動したバーツは高いままだった

過大評価されたタイバーツがヘッジファンドに目をつけられる

ところで、「固定相場制」というのは、ただ国が「ウチの通貨はドルと固定相場にします!」と宣言すれば達成できるものではない。

固定する相手の通貨と連動させるために中央銀行が自国通貨を売買して為替が一定になるように調整をしなければならない。景気の先行きが怪しいのに不自然に高く留め置かれてるバーツ。

この歪みに目をつけたのが、ジョージソロスをはじめとするヘッジファンドだった。ドルベッグ制のために実際の経済力と対比して過大評価されたタイバーツ。

タイの中央銀行は空売りを阻止しようとしたが…

「この矛盾はバーツの価値が下落することにより、いずれ解消する」こう判断したヘッジファンドは1997年5月中旬、バーツの空売りに踏み切った。目論み通りバーツが下落すれば、それを買い戻して巨額の利益を得る。

一方、この取引のリスクは思惑に反してバーツが上昇することだが、タイはドルペッグ制を採用しているのでその可能性はほぼない。ヘッジファンドにとっては、千載一遇のローリクスハイリターンの投資(投機)機会だった。

猛然と空売りをしかける投機筋に対してタイの中央銀行は手持ちの外貨準備を取り崩してバーツを買い支え、一方でバーツの金利を大幅に切り上げて、空売りを阻止しようとした。(※空売りはバーツを借り入れてから売るので、金利の引き上げはそれをやりにくくする効果がある。)


「ドルベッグ制」を放棄し、バーツは「変動相場制」に移行した

この措置により一旦は投機筋の売りが沈静化し、タイ首相も通貨アタックに対する勝利宣言をしたが再びヘッジファンンドの売り浴びせが始まり、7月2日ついにタイ政府はドルベッグ制を放棄してバーツは変動相場制に移行した。

本来、USD1=24.5バーツだった為替はその半年後には半分の50バーツになり、株式相場も下落を続け通貨危機の翌年にはタイ証券取引所の平均株価指数(SET指数)が史上最高値(1,753.73)のわずか11.8%である207.31にまで落ち込む事態となった。

急激に景気が悪化

タイの通貨危機に対する援助として、国際金融当局・機関が拠出した金額は、IMFが40億ドル、世界銀行が15億ドル、アジア開発銀行が12億ドル、日本をはじめとした二国間支援の総額は105億ドルに上った。

危機前まで好景気に湧いていたタイはIMFが課した緊縮財政や利上げによって景気が悪化し、急激な倒産と失業増に見舞われることとなった。(執筆者:玉利 将彦)

《玉利 将彦》
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玉利 将彦

玉利 将彦

Borderless Works Co.,Ltd. 代表 日本企業の海外駐在員として9年にわたる上海・香港勤務を経て2005年から現職。駐在員時代から17年に及び上海・香港を拠点におこなってきた金融や不動産投資の知識・経験を生かし、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)として活動。 香港における投資助言業(SFC)と保険代理業(PIBA)の免許を保有するエキスパートとして顧客のライフプランに即した投資計画の立案、資産運用商品・保険の仲介、海外金融機関の口座開設・運営のサポートをおこなっている。 寄稿者にメッセージを送る

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