まず父の相続(一次相続)がありました。相続人は母と姉と私です。不動産は同居していた母と私で分けました。預金はすべて母です。姉にはハンコ代で話がまとまりました。姉に感謝です。問題は二次相続です。
お客さまに「相続は子にとって通常二回あり、父の相続(一次相続)では、いかに相続税を安くするかが問題になっても、遺産分割についてはうまくいくことが多いです。それは母が健在だからです。ところがです。一次相続で税金のことばかりに頭が行き他の兄弟姉妹の気持ちを考えていないと二次相続でとんだしっぺ返しが待っています。」なんて話していたものの実際のところ少々不安でした。
付き合いのあった信託銀行さんは遺言をすすめられました。しかし実際、母の死後、「実は遺言書があり、その内容で遺産分割をする」と姉に話したらどうなっていたでしょう。相続のプロである私が姉に遺言書を作らせたと思うはずです。事実はどうであれ、それは姉にとって面白くない話だと思うのです。
ひょっとしたら姉は「私は何もいらない。その代り、家と墓は守って下さい」と言うつもりだったかもしれません。とすると遺言書を作ることで私は姉の”譲る爽やかさ”を奪うことになったかもしれないのです。
私は遺言書を作れば姉の相続分は法定の半分である1/4(遺留分)におさまることを理解した上であえて遺言書を作りませんでした。
では、実際どうだったか。
土地については自宅以外は調整区域に農地しかなく、姉は要らないとのことでした。では預金はどうするか、いろいろ悩みましたが結局、初めに思った金額に上乗せすることとしました。
忘れもしません。母の亡くなった翌年の正月、仏壇のある部屋で姉に恐る恐る切り出したところ、「あんたそれで実家やっていけるの?」と聞いてくれました。
正直な話その言葉を聞きホッとしました。小さい時よく遊んでくれ学生時代には恋愛相談にも乗ってくれた姉です。嫌な思いはしたくありません。私の姉に対する思いが通じたと思いました。(執筆者:橋本 玄也)