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「知っておいて損はない」公認会計士による監査の視点 ~売上編~

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「知っておいて損はない」公認会計士による監査の視点 ~売上編~

 今回は、その3、売上 (売掛金・受取手形) 編です。売上 (売掛金・受取手形) に関する「公認会計士による監査の視点 (※)」です。

 (※) 前回までのプレイバックはこちら↓
 その1 現金編 (http://manetatsu.com/2014/04/30797/)
 その2 預金編 (http://manetatsu.com/2014/05/31627/)

 経験上、監査をやっていて粉飾が行われやすい項目はずばり、売上でしょう。

 大企業になると、業績を良く見せるために売上を過大計上しようというインセンティブが働きやすいですし、逆に、中小企業では、税金を少なくするために売上を過小計上しようというインセンティブが働く場合が見受けられます。

 そこで、これらの行為に対応すべく“公認会計士は、売上について特に念入りにチェックする”と思っていて下さい。

(1) 数字はウソをつかない!

 こちらは、この売上「ほんとにあるの?(実在性)」という視点です。

残高確認状

 公認会計士は、通常、決算日時点で会社が有する売掛金のうち多額な得意先に対して、この残高確認状を発送します。

 ここで残高確認状とは、公認会計士が得意先に対して書面を発送し、当該書面に得意先が把握している金額を記載してもらうという、監査の手法を言います。その2の預金編の監査でも用いました。

 架空伝票を切って売上を水増しした程度の粉飾では、得意先と通謀でもしていない限り、この残高確認状によりすぐに暴かれてしまします。売掛金・受取手形は、普段からきちんと得意先別に管理しておきましょう。

利益率分析、時系列分析、同業他社分析

 上記の残高確認状だけではなく、決算書を使った数字の分析も行います。これが現代的な手の込んだ粉飾決算に対抗する手段として非常に有効だと言われます。

売上利益率 = (売上高 - 売上原価) ÷ 売上高

 この売上利益率が、当社の過去の実績と比較して、または同業他社の率と比較して、著しく高かったらどう思いますか? 怪しいですよね。

 また、前年と当年の月次の売上利益率をそれぞれ比較してみて、当年の3月の決算月の率だけ異様に大きくなっていたらどう思いますか?怪しいですよね。公認会計士は、必ずこの利益率分析、時系列分析、同業他社分析を行い、決算書全体としての数字の関係性に目を光らせ、少しでもおかしな点があればより詳細に調査をすることとしています。そのため、もし、原価率の改訂などがあった場合には、その議事録も含め、きちんと文書化しておかれると良いでしょう。

(2) 決算日前後の売上には要注意!

 こちらは、この売上「いつのものなの? (期間帰属の妥当性)」という視点です。

 (1)で述べた様に架空伝票を切るのではなく、翌期に計上すべき売上を今期に早めに計上するという手法でも、売上を水増しすることが出来ます。決算間際に、得意先に対して翌期分まで商品を出荷しておいて、自社のほうではその全てを当年分の売上として計上するケースです。

 そもそも、どのタイミングで売上を計上するのかを明確に規定化しておきましょう。商品の出荷時に売上を計上するのか、それとも、商品が得意先に届いた日に売上を計上するのか。普段は商品が得意先に届いた日に売上を計上しているのに、決算間際だけ商品の出荷時に売上を計上するとか、ダメです。れっきとした粉飾です。

 公認会計士による監査によって期末日前後に売上を計上したものについては全て裏付けとなる証憑をチェックされると思っておき、証憑はきちんと整理しておきましょう。

(3) ちゃんと回収できていますか?

 こちらは、この売上「ちゃんと払ってもらえる?(評価の妥当性)」という視点です。

 公認会計士は、売掛金や受取手形がきちんと回収されているどうかを、回転期間を計算することでチェックしています。回転期間とは、売掛金と受取手形の合計を平均月次売上で割って得られた数値であり、売掛金と受取手形が回収されるまでにかかるおおよその月数を意味します。

回転期間(ヶ月) = (売掛金 + 受取手形) ÷ (年間売上 / 12ヶ月)

 まずはこの式を覚えてください。

 例えば、決算日における売掛金と受取手形の合計が100、年間売上が1,200なら、月次の平均売上は100なので、回転期間は1ヶ月と計算できます。つまり、売掛金と受取手形の回収にだいたい1ヶ月がかかるということなのです。

 この回転期間は、固定的であるはずです。たとえ売上高が増加しても回収条件が悪化しないかぎりは、回転期間は、どの事業年度も不変であるはずなのです。回転期間が著しく増加したり減少したりし続けるのは不自然なことなのです。粉飾をしている会社では、この不自然な増減がおこるため、公認会計士に粉飾を見抜かれてしまいますね。

 売掛金や受取手形の回収期限を売上の後1ヶ月以内としている会社の回転期間が、2ヶ月程あったらどうしますか? あれ? ちゃんと回収できていないんじゃない?と判断します。

 また、1ヵ月後に売掛金や受取手形が回収されるのが通例の業界なのに、その会社の回転期間が2ヶ月あったらどうしますか? あれ? この会社だけ回収期限が違うのか、それともちゃんと回収できていないかのどちらかだ!と判断します。

 その上で、もし回収できない売掛金や受取手形がある場合には、会社に将来回収できないと予想される額を見積もって費用計上(貸倒引当金を計上)してもらう、という対応になります。

 以上を踏まえ、会社としては、どの債権が回収できていないのかを明確に区別できるよう、売掛金や受取手形については得意先ごとに入金管理表を作成し、売掛金と受取手形が入金される都度、消込処理をきちんと行うようにしましょう。さらに、回収できない売掛金や受取手形については、適切に費用計上(貸倒引当金を計上)を行いましょう。

(4) まとめ

 公認会計士による監査の視点。これはいわば、「警察における捜査のノウハウ」の様なものです。あまり具体的に言い過ぎると我々の手の内をさらすことになり、両刃の剣になりかねません。

 それでもこのコラムではできるだけ具体的に監査の視点を説明しているつもりです。決して粉飾を斡旋しているなどではなく、ひとえに公認会計士のチェックポイントを皆さんに知ってもらうことによって、普段の業務の効率化に役立てて頂きたいという趣旨であります。次回も、ご期待ください。(執筆者:植田 有祐)

《植田 有祐》
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植田 有祐

植田 有祐

会計MVP/公認会計士事務所MVP 代表 同志社大学経済学部卒業。2008年に公認会計士試験に合格。監査法人での勤務、予備校の講師、関西大学会計専門職大学院の非常勤講師も務めながら、会計知識の取得や会計資格の合格を目指す方のための個別指導サービスや、企業や大学等でのセミナーの実施を行う、公認会計士によるプロ講師集団「会計MVP」の代表講師を務める。「会計を、もっと身近に、もっと分かりやすく」をモットーに、公認会計士事務所MVPとしても活動中。 <保有資格>:公認会計士、日商簿記検定1級 寄稿者にメッセージを送る

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