前回の記事で、同じカテゴリーの中の投資信託(ファンド)を選ぶ上で大事な点として、商品設計上の「投資対象」に注目することは大事と述べました。
今回は、同じカテゴリーの中の投資信託(ファンド)を選ぶ上で大事な点として、ある投資家から質問のあった「投資スタイル」について簡単に述べたいと思います。
最近、ある投資家の方とお話しした時に
と言われました。
その質問に対する答えは以下のとおりです。
例えば、日本株のトヨタ、日立などの大型株中心に投資するのか、コロプラなど中小型株中心に投資するのか、アジア株で言うなら、香港上場の業績成長が著しいギャラクシーなどマカオ関連株に投資するのか、それとも高成長は期待できないものの、配当利回りなどバリュエーション面で割安な中国の通信大手チャイナモバイルなどに投資するのかで、まったく異なります。
「投資スタイル」とは、ファンドの投資方針のことをあらわし、ファンドが投資対象としている「投資規模」と「投資手法」により分類されます。
例えば、「投資規模」に関していえば、大型株に投資するのか、中型株に投資するのか、小型株に投資するのかなどが挙げられます。「投資手法」に関しては、売上や利益など高い成長が期待される企業に投資するグロース(成長)投資、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)、配当利回りなどバリュエーション面で割安株に投資するバリュー(割安)投資が代表的です。
「投資規模」の例ですが、仮に、海外市場に不透明感が強まり、年金など外国人投資家の持ち株比率の高い日本の大型株が大きく調整する一方、外部環境に左右されず、底堅い内需の恩恵を享受できると思われる東証マザーズ市場やJASDAQなど中小型株が大きく上昇したら、どうなるのでしょうか?
もし、保有しているファンドが「日本の成長著しい中・小型株に主に投資します。もしくは、時価総額が1000億円を下回る企業に投資します」と商品設計上で示されていた場合、極端に言ってしまえば、ファンドマネージャーの能力・資質が劣っていたとしても、中小型株の株価が大きく上昇し、大型株は大きく下落しているわけですから、日本の大型株に主に投資しているファンドに対して、運用成績は大きく上回ることになります。
また、基準価額の推移も相対的に良くなるでしょう。逆に、保有ファンドが例えば、「日本を代表する大型株に主に投資します。もしくは、時価総額が1兆円を超える企業に投資します」と商品設計上で示されていた場合、仮にファンドマネージャーの能力・資質が優れていたとしても、ほとんどの場合、日本の中小型株に主に投資しているファンドに対して、運用成績で勝つことは難しいと思われます。また、基準価額の推移も相対的に悪くなることでしょう。
次は、「投資手法」の例ですが、仮にアジア株の中で、香港株に投資するファンドを保有していたとします。同じ「香港株ファンド」というカテゴリーの中でも、例えば、主に香港上場のグロース株に投資するのか、香港上場のバリュー株に投資するのかで、運用成績は異なります。
仮に、外部環境に不透明感が強まり、成長期待を背景に買われてきたグロース株が利益確定売りから大きく売られる一方、バリュエーション面で割安感があり、理論株価から判断し、下値余地は小さいと思われるバリュー株に資金が流入し、株価は底堅いもしくは上昇する動きになった場合、どうなるのでしょうか?
もし、保有しているファンドが「主にバリュー株に投資します。もしくは、PER、PBR、配当利回りなどから判断して割安と見込まれる企業中心に投資します」と商品設計上で示されていた場合、極端に言ってしまえば、ファンドマネージャーの能力・資質が劣っていたとしても、バリュー株は底堅い、もしくは上昇する一方、グロース株は大きく下落しているわけですから、香港上場のグロース株に主に投資しているファンドに対して、運用成績は大きく上回ることになります。基準価額の推移も相対的に良くなります。
逆に、保有ファンドが例えば、「主にグロース株に投資します。もしくは、将来的な売上成長や利益成長が高いと見込まれる企業中心に投資します」と商品設計上で示されていた場合、仮にファンドマネージャーの能力・資質が優れていたとしても、ほとんどの場合、香港上場のバリュー株に主に投資しているファンドに対して、運用成績で勝つことは難しいのが現状です。また、基準価額の推移も相対的に悪くなることでしょう。
つまり、同じカテゴリーの中でもファンドによって成績・ランキング、基準価額の推移が違う一つの理由として、商品上における「投資スタイル」の違いがあげられると思います。運用を担当しているファンドマネージャーは、その商品設計上で定められた「投資スタイル」の中で、個別銘柄の選別やウェイト付けに加え、業種別の比率や全体の株式組入比率の調整を通じて、少しでも成績をあげようと日々、努力を続けています。
ファンドマネージャーの能力・資質を図る一つの方法として、同じカテゴリー(例えば、日本株に投資するファンド)の中で、商品設計上の「投資規模」が同じファンド(例えば、日本の大型株中心に投資する)で、個別の銘柄や業種配分、組入比率などいかに自分の裁量を駆使して上位のランキング・成績をあげているかを調べることが大事だと考えます。
また、同じカテゴリー(例えば、香港株に投資するファンド)の中で、商品設計上の「投資手法」が同じファンド(例えば、バリュー株を中心に投資する)で、個別の銘柄や業種配分、組入比率などいかに自分の裁量を駆使して上位のランキング・成績をあげているかを調べることが大事だと考えます。
逆に、同じカテゴリーで上位の成績・ランキングであっても、商品設計上の「投資規模」「投資手法」が同じファンド内での成績・ランキングが下位になっていた場合には、その要因が一過性なものなのか、それともファンドマネージャーの能力・資質の構造的な問題なのかは注意深く見ていく必要があると考えます。
逆に言えば、同じカテゴリーの中で、ランキング・成績が下位にあったとしても、商品設計上の「投資規模」「投資手法」が同じファンド内でランキング・成績が上位であった場合は、ファンドマネージャーの能力・資質は高いと評価していいのではないかと考えます。
よって、表面的な同じカテゴリーのファンドのランキング・成績の良しあしや、表面的な基準価額の推移だけを見るのではなく、商品設計上の「投資規模」や「投資手法」はどうなっているのか、その「投資スタイル」別の市場・相場はどうなっているのか、また、「投資スタイル」が同じファンド内でのランキング・成績はどうなっているのか、それらをもたらした要因は一過性なものなのか、それともファンドマネージャーの裁量による構造的な能力・資質なのかを見ることが、そのファンドに投資する、もしくは継続して保有する点において、大事だと考えます。
*上記のコメントは筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する会社または組織の見解ではございません。また個別銘柄の推奨、商品の投資勧誘を目的としたものではありませんのでご理解賜りますようよろしくお願い申し上げます。(執筆者:中村 貴司)