日本銀行の総裁が黒田東彦氏になって初の金融政策決定会合は大きな注目を集めました。普段は経済や金融に関心の薄い方々でも報道で見聞きしたことでしょう。

  しかし「騒いでいるけれど何のことかよくわからない」という声も多く聞かれます。「資産運用をしない私には関係がないのでは?」という方すらいらっしゃいます。

  日銀の政策は、今後の日本の景気や財政に大きく影響し、誰にでも重要です。基本的な部分だけでも理解しておきましょう。

日銀が決定した「異次元金融緩和」とは?

  4月3~4日の金融政策決定会合では、主に以下のことが決まりました。

金融緩和策の具体的メニュー
(1)金融政策の目標を、無担保コール翌日物金利からマネタリーベースに変更
(2)マネタリーベースを2年で270兆円に2倍増
(3)日銀が買入れ対象とする国債の残存期間を長期化、および買入額の拡大
(4)ETF(上場型投資信託)、J-REIT(不動産投資信託)買入保有額2倍増

  (1)は、金融政策のかじ取り判断を、これまでの「金利の動向」から「お金の量」に変更するものです。金利の上下は、お金の量の増減と深く関係します。しかしこれまでも日銀は事実上「お金の量」を注意深く監視していたので、特に目新しくはありません。

  (2)はお金の量を増やす政策です。しかも270兆円という莫大な金額。お金の価値を下げ相対的に物価を上げようとしています。これは2001年3月から2006年3月まで採られていた「量的金融緩和」と同じ手法ですが、「次元が違う」ほどの巨額です。
 
  ここで「量的金融緩和」を復習しましょう。

  お金を、モノやサービスを買うための交換ツールと考えます。お金の価値が下がり、仮に1万円札を9,000円の価値しか認められなければ、1万円の商品は買えません。1万円の値札は変わりませんが、「相対的に物価が上昇した」のです。

  日銀は「世の中に出回るお金の量を増やす」政策を発表しました。世の中のお金が増えれば、お金のありがたみが薄れてお金の価値が下がるので、相対的に物価が上がります。モノやサービスの値段が上がると、人々は「預貯金をしている場合ではない、値上がりする前に買わなければ」と思うでしょう。こうして消費が活気づくのを狙います。

2%のインフレ目標と言うけれど

  しかし思惑通り物価が上がれば、いつか金融政策を転換する必要が出てきます。物価の上昇に見合うように金利を上げなければ、人々の生活が苦しくなるからです。買いたいものの値段が上がる一方で預貯金は微々たる金利、そして低金利と高齢化で老齢年金の支給額は心もとない金額で、働き手の収入も増えず、不況を招きます。

  物価が上がり続ければ、それと同じ程度に金利が上がる政策に変えなければなりません。このタイミングが非常に大事だと思われます。

このたび初耳の「質的金融緩和」とは?

  次に(3)を見てみましょう。日銀は、以前から民間金融機関が保有する国債や手形を買い取って資金を流していましたが、このたび買い取り枠を大幅に増やしました。

  これで金融機関にはより多くの国債の買付代金が渡り、お金が世の中に出回るようになります。同時に民間金融機関が保有する国債の残高が減り、ひいては市場に流通する国債の量が減るでしょう。通常、流通量が減れば価格は値上がりします。国債価格が上がれば国債利回りは下がります。(3)は世の中の金利を下げる方向の政策といえます。

  それだけでなく、買取り対象とする国債の種類を広げました。これまでよりリスクの高い国債まで買えます。債券は、満期までの年月が長いほど、額面が確実に償還される可能性が低くなります。「目先の国の財政は想像がついても、将来の財政状態までは判断できない」と考えれば期限とリスクの関係は明らかです。

  さらに(4)にある通り、日銀が保有するETF(上場株式投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)の金額を増やすこととしました。株式市場や不動産市場にテコ入れし、(2)のお金の流通量と併せ、経済を活発にしようという作戦です。

  これらが「質」で、前出の「お金の量」と併せて「質的・量的金融緩和」です。繰り返しますが、これらの政策で日銀が保有する資産のリスクは今までより高まります。

  金融政策以外の日銀の役割は、みなさんが良くご存じの「お札の発行」以外に、政府の資金管理をする「政府の銀行」、金融機関の資金管理と金融市場の調整をする「銀行の銀行」も担います。今後は、日銀がよりリスクを負う点を見逃してはいけません。

異次元金融緩和を踏みこんで理解する

  この先はもう少し踏み込んで考えてみましょう。本来、インフレ政策では相対的にお金の価値が下がり、長期金利が上昇するはずです。金利は時間の経過とともにお金につく付加価値です。貸したお金を返してもらう際には、通常、利子が上乗せされるでしょう。利子の分、お金の額面に価値が上乗せされると考えます。

  利子が低い状態は、お金の価値の上昇幅が小さいことを意味します。反対に、高金利はお金の価値が大きく上がることです。

  インフレが不況を呼ばないためには、物価上昇に対してお金の価値が追い付いていなければなりません。自然体のマーケットなら、インフレになれば金利は上がります。しかし(2)により低金利を促しています。金融決定会合直後の国債金利の乱高下は、投資家が緩和メニューをどう判断したら良いか迷った結果と伝えられていますが、正反対の結果をもたらす政策が並んでいたからではないでしょうか。

  簡単に金利と債券価格の関係を抑えておきましょう。国債の多くが固定金利です。日銀が(3)の政策により金融機関の国債を大量に買い、市場で流通する債券残高が減るとどうなるでしょうか。

  債券価格の上昇は、債券利回りの低下を意味します。基本的に債券は償還日に額面で返されます。債券の流通量が減り(=供給量の減少)、投資需要が同じならば、需要と供給の関係で債券価格は上がります。値上がりした債券に投資をすれば、債券の投資利回りは下がります。

  ここでみなさんは矛盾に気がつくでしょうか。国債の買い入れ増額で国債の利回りが低くなれば、インフレの影響で金利が上昇するのと反対です。この矛盾を同時に断行しようとしているため、債券相場に歪みが生じるのではないかと思うのです。

  また、本来、日銀が操作できる金利は短期金利のマーケットでしたが、日銀の大量保有によって10年物国債に代表される長期金利をも日銀が主導できるのではないかと思うのは考えすぎでしょうか。

  以前から「いくら世の中にお金を送りこんでも、そのお金を企業や家計が使わなければ景気は良くならない」と言われていました。今回はアベノミクスムードのおかげなのか、一向にこの論調が聞かれません。しかし私自身が周囲に目を向けてみると、羽振りよくお金を使おうという人にはまだお目にかかっていません。さて、皆さんの周りではいかがでしょうか。