前回のコラム(投資家に求められる「行動心理;行動ファイナンス」とは)で、伝統的なファイナンス理論は、「常に合理的な行動をとる」という前提の下で成り立っているとお話しました。

  しかし、我々の普段の行動を考えてみると、常に合理的な行動をしているわけではなく、移ろいやすい感情に左右されることが多くあることがわかります。人の心理状況を軸に、「常に合理的な行動をとるとは限らない」という前提で成り立っているのが、比較的新しい分野の理論、行動ファイナンスです。

  この行動ファイナンスの理解を深めるため、重要なキーワードと具体的な事例を挙げて説明していくことにします。今回は具体的な事例として、コイン投げのゲームを行うこととします。10回コインを投げたときの事例として、3つのケースを挙げておきます。

ケース1:表・表・表・表・表・表・表・表・表・表(表が10回続く)
ケース2:表・裏・裏・表・表・裏・表・表・裏・表
ケース3:裏・表・表・裏・表・表・裏・表・表・裏

ギャンブラーの錯誤

  コイン投げのゲームはとても単純で、複雑な計算をするまでもなく、表と裏の出る確率はそれぞれ50%ずつです。1回目や2回目は特に迷うことなく、そのときの直感で予想する人が多いと思います。

  しかし、ケース1:表が10回連続で出た後の11回目のゲームでは何となく「そろそろ裏が出るのでは…。」と考えたくなるものです。このような偶然の出来事に過剰反応してしまうことをギャンブラーの錯誤(gambler’s fallacy)と言います。

  ケース1のように10回連続で表が出るとか、あるいはその逆の10回連続で裏が出るというような現象は、確率的には十分あり得ることなのですが、実際には、あまりにもシステマティックに揃いすぎており、心理的になかなか認められないものです。この心理的になかなか認められないという判断は、実に非合理的な判断ですが、多くの人が陥りやすい事例です。

ランダム系列の誤認知

  コイン投げのゲームは、表と裏が50%の確率で出るものです。しかしながら、勝負になると負けたくないのが人の心理です。(賭け事はダメですが)もし、お金を賭けていたならなおさら負けるわけにはいかないものです。

  この勝負を有利に進めようと考えるとき、多くの人はある行動をとります。それは「法則・規則性」を見つけようとすることです。

  ケース3の事例で考えてみましょう。ケース3をしばらく見ていると、実は「裏・表・表」の順番で出ていることに気がつきます。「裏・表・表」を3回繰り返し、10回目で裏が出ています。11回目は「裏・表・表」の流れに乗れば「表」が出るはず。このように考えた人も多いのではないでしょうか。

  繰り返し書きますが、表と裏はそれぞれ50%の確率で出ます。ケース1のように表が10回続く、ケース2のように一見ランダムな出方がしている場合も、ケース3のように「裏・表・表」のような法則がありそうな流れも、すべて確率は同じです。しかし、その中でなんとか規則性を見出そうとする。これが「ランダム系列の誤認知」とよばれるものです。

代表性ヒューリスティック(heuristic)

  
  ヒューリスティックとは、常に正解が得られるわけではないが、多くの場合、楽に早く正解を見つけられる簡便法(うまいやり方)のことです。例えば、飲食店の前にすごい行列が出来ていた。その状況から、きっとそのお店の料理はおいしいのだろうという答えを導き出すことです。
  
  ケース1のように10回連続で表が出た後の11回目のように「ギャンブラーの錯誤」に陥り、裏を予想したくなる心理とか、ケース3のように何の規則性も発生しないコイン投げというゲームの中で、何とかして一定の法則を見つけようとする「ランダム系列の誤認知」に陥る心理は、「代表性ヒューリスティック」とよばれます。

  冷静に考えれば誰にでも分かることなのですが、投資行動には当然「お金」が絡みます。利益を得ることもあれば、損をすることもあります。特に損失がだんだん大きくなってきたときは、熱くなってつい冷静さを欠いてしまうことがあります。

  こういった罠に陥る理由は、統計や確率に対する誤った考え方の結果にほかなりません。

  投資は決してギャンブルではありません。しかし、投資においても確率や統計は無視出来ないものです。私たちは投資を行う際に、確率とは異なる主観的な判断に基づいた投資行動を取りたくなりがちです。「流れ」とか「潮時」といった市場の雰囲気により、自分の考えが流されてしまうこともあります

  投資判断を行うあたっては、私たちの心の中にこういった罠が潜んでいることを常に忘れず、冷静に行動したいものです。