1,000万円強必要なのは、「いま」の話

今後超高齢化社会になっていく日本において、誰もが不安に思う老後資金。一体いくらあれば足りるかについても様々なメディアで議論されています。

中でも、今のところ存在はしている国の年金制度や平均的な退職金などを加味すると、老後資金として1人1,000万円強を必要としているメディアが多いと感じます。

1,000万円強という数字が正しいとして、何か大事なことがすっぽり抜けているということです。それは、今の1,000万円と数十年後の1,000万円は同じ価値ではないということです。

つまり、物価の変動を一切考慮していないということです。物価変動の考慮までは、みなさんお気付きになった方も多いと思います。

私は現在38歳。マネーの達人の読者も私の世代は多いと思います。では、私が70歳まで現役を続けるとして、約30年後の物価はどのくらいか何か目安はお持ちでしょうか。

将来の物価は、今と比べて無視できる水準か

簡単な仮説を立ててみます。

ここ20年間物価が全く上がっていない日本ですが、日本銀行は2013年に実質物価上昇率の目標を2%と定めました。この2%を使っていきましょう。

毎年物価が2%ずつ上がっていった場合の計算式は

「(1+2%)の30乗」

計算結果は、30年後の物価はなんと今の約1.8倍

となると、30年後の老後資金は1,000万円強ではなく、1,800万円強必要という計算になります。1,000万円強を信じていたみなさんは、将来老後破綻を起こすかもしれませんね。

1.8倍という計算結果について、こんなにきれいに行くことはないと思いますが、一つの目安として1.5倍~2倍という見方は外せないでしょう。

生命保険のような割と安定した金融商品で積み立てた場合

預金利息が大して見込めない昨今では、老後資金を貯蓄型の生命保険で積み立てる方も多いと思います。

ここで大事なことは、

解約返戻金が1.5倍~2倍になるのは何年後になるか

ということです。

38歳の私の場合(厳密な計算ではないですが)、解約返戻金が30年前後で1.5倍~2倍になっていれば合格といえるのではないでしょうか。

通常、経過年数と解約返戻金の関係については、生命保険の設計書に書いてありますが、わからない場合は生命保険会社の担当者に聞いてみましょう。

「いま」と「将来」の話をごっちゃにしない


普段、会計事務所の傍ら生命保険の販売も行っていますが、「いま」と「将来」をごっちゃにされている方が多く見受けられます。

例えば、医療保険は不要という方がいます。理由として、保険診療の自己負担は3割だし高額療養費制度があるから、とのこと。

保険診療の自己負担が3割であることも、高額療養費制度があるのも「いま」の話であって、30年後もその制度が維持されている保証はどこにもありません

その他にも、老後必要なお金が1,000万円強であること、公的年金制度があることも「いま」の話に過ぎません。もらえる公的年金や医療費の自己負担割合など、「将来」は様々な要因によって変わってきます。将来の物価もその一例です。

よって、専門家の言う一般的な話を参考にする場合、

「専門家はこう言っているけど、将来はこうなんだろうな」

という予測も加えると、より将来の変動に応じたライフプランニングが可能かと思います。(執筆者:鄭 英哲)