相続税が増税になった今でも、「死んだ後の話をするのは縁起が悪い」としてなかなか向き合おうとしません。
しかし、それでも事前に対策を取っておいたほうがよいものもあります。
特に、死後必要となるお墓や仏壇などは、被相続人候補者の生前に購入しておくことが望ましいのです。
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目次
お墓や仏壇は「祭祀財産」として相続税が非課税になる
民法第897条においては、祭祀財産は相続の対象にはならないとされています。
祭祀財産とは次のようなものを指します。
【祭具】 仏像や仏壇、位牌など祭祀に使う道具
【墳墓】 墓碑、墓石、墓地など
一方、相続税法では、原則として相続した財産のすべてに課税がされることになっていますが、祭祀財産については、非課税とされています。
朝晩のお参りや法事、お彼岸などでお参りする道具は、資産性云々以前に日常礼拝の対象としての性質を持ちます。
そのため、相続財産として課税対象とするのは国民感情を害するおそれがあるという配慮が非課税の背景です。
お墓の購入には主に永代使用料、墓石料、管理費などがあり、大抵100万円~200万円くらいかかります。
仏壇はピンキリで、安ければ1万円前後、高ければ3,000万円を超えます。
金額が低くないからこそ、相続税を節税するのには十分活用のしがいがあるのです。
非課税だからこそ注意したいポイント
ただし、非課税だからといって安易に考えてしまうと痛い目に遭うこともあります。
次のような点には注意した方がよいでしょう。
1. 被相続人の生きている間に現金で購入する
非課税のポイントは「被相続人が所有しているお墓や仏壇などには相続税がかからない」という点です。
つまり、被相続人の死亡後にあわてて相続人が被相続人用のお墓や仏壇を買っても非課税にはならないのです。
また、高額だからと言って安易にローンを組むのも注意です。
ローンの対象である仏壇やお墓事態が非課税なので、ローンは債務控除の対象にはなりません。
そのため、現金で一括購入するか、生前中に完済できるようにローンを検討するのが望ましいと言えます。
2. 投資対象や骨とう品、不当に高いお墓や仏壇は「課税対象」
また、投資の対象や骨董品としての性質が強いと見られれば課税対象とされます。
仏壇やお墓だから非課税なのではなく、そもそも日常礼拝の対象であって資産性が低いからこその非課税なのです。
見た目が宗教的であっても実態が利益目的や趣味であれば課税の対象となります。
また、利益目的や趣味対象でなくても、状況から判断してお墓や仏壇が不自然に高いとみられた場合も課税の対象になります。
「過度な節税」、「課税逃れ」としてみなされるためです。
地方在住の被相続人から受け継ぐ相続財産が3,000万円なのに、わざわざ青山霊園に400万円のお墓を買い、2,000万円の仏壇を購入したら、よほどの合理的な理由がない限りアヤシイと見られます。
その家で信奉している宗教が海外の宗教なのにわざわざ仏壇を購入している場合も「不自然」として判断される可能性があります。
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お墓や仏壇の生前購入が相続人の負担を減らす
「生前にお墓や仏壇を買っておいたほうがいい」理由には、節税以外もあります。
それは、「相続人たちの負担軽減」です。
相続というイベントは、仮に税金が発生しないとしても、現役世代として忙しくしている相続人たちに負担をかける作業です。
悲しむ間もないままに葬儀を出し、遺品を整理したり、役所に足を運んで相続財産を調べたり手続きを行ったり…という膨大な作業が待っています。
ここでお墓や仏壇の購入まで相続人任せにすればさらなる負担につながります。
あえて生前に被相続人候補が購入しておけば、その負担を減らすことができるのです。
最後に
日本人の感情として「死」というイベントを忌避したくなる気持ちは分かりますが、その気持ちに振り回されて向き合わないでいると子や孫に迷惑をかけることにもなりかねません。
冷静に考え、きちんと話し合ったり検討したりする方が、より子孫の幸せにつながりやすくなります。(執筆者:鈴木 まゆ子)