調整区域に居住している方の家で、よくある相続のパターン

自宅(宅地)     2.500万円
農地の相続税評価    2.500万円
預金          ゼロ

計(実質)      5,000万円

被相続人 父

相続人 母と長男と長女の3人

遺言書がない場合、相続人全員で協議し、自宅は母が相続し、農地は長男が相続する。

長女にも、農地を希望されれば、相続してもらうが、不要であれば、分割協議書にて、事実上の放棄をしてもらう

長男にしても、会社員で農地は維持管理するだけです。

現金を希望しても、葬儀代金を払ってしまい、実質ありません。

そこで、母が自身の「へそくり」の100万円を長女に贈与することで、円満相続とする。

農地を相続した長男は遺産の1/2に当たる2,500万円の相続をしたのでしょうか

ここが問題なのです。

「調整区域」に 居住している人の相続

調整区域の農地とは

原則、家が建てられない土地です

購入者にとって通常は、そこに家を建てて利用するために購入するわけですので、調整区域の農地=「売れない土地」というわけです。

例外として、分家で家を建てる場合等ありますが、条件があり、許可が必要です。

調整区域かどうかは、固定資産税の課税明細に記載されていない市区町村も多いですが、原則、固定資産税のみで都市計画税が課税されていない土地は、調整区域の土地です。

該当の市区町村の都市計画課にて確認できます。

相続税評価の農地

固定資産税の農地の評価は、平方メートルあたり100円前後です。

ですが、相続税評価はこの価格の40倍ぐらいです。

実際には、国税庁のHPの中に倍率表があり、地域により違います。

また、農業振興地域(純農地)かどうかでも倍率が違います

この区別は、市区町村の農務課です。そこで、相続税評価は判明します。

ただ、遺産分割での財産評価は、必ずしも、相続税評価ではありません

もし父が、前記のような内容で遺言を書いていたらどうなるか

父の遺言書

長女は、いきなり自分の相続分がないことに腹を立てて遺留分の請求をするでしょう。

それでも請求された長男は、「農地なら喜んであげる」と言うでしょう。

そもそも遺産分割は、「実際の遺産をどう分けるか」だからです。

遺産が農地と宅地しかなければ、現金を請求できなかったわけです。

今回の相続法改正(令和元年7月1日以降の相続)で遺留分が金銭請求になりました

長女は前記の例ですと 

5,000万円 × 1/2(遺留分割合)× 1/4(法定相続分)=625万円

の現金を請求できる訳です。

このことは前提として、農地が2,500万円で売れればこの金額は正しいのですが、農地を遺贈で取得した長男としては、農地を売ることもできず、草の管理、農事組合の一員としての仕事も何十年とやらなければならないかもしれないのです。

遺言の作成がベストの選択とは限らない

遺留分を請求する側にとっては、遺産が預金はなく負の不動産のみであれば、何ももらえない遺言書を書いてもらい、遺留分で現金請求したほうが、実は得かもしれない訳です。

反対に、遺言で不動産を取得することになった相続人は、遺留分侵害額の現金を用意しなければならなくなったのです。

法改正で、自筆証書遺言の方式は緩和され、また法務局にて保管もできるようになり(令和2年7月10日以降)ますが、「遺言書を作ればいい」わけではありません

個々の事情により何がベストなのか検討するのが大切です。(執筆者:一級FP技能士、CFP、宅地建物取引士、相続診断士 橋本 玄也)