「相続人が、いません」

ある相続の勉強会で、「自身が亡くなった場合に相続人が誰になるのか、やってみましょう」と参加者の方に促したところ、

「相続人がいません…」

と手を挙げられた方がありました。

当方は、正直なところ参加者の勘違いだろうと思ったのです。20年近く相続専門の部署にて働いていましたが、相続人のいない事案は1件のみだったからです。

参加者である渡辺(男性)さんは、「独身で、ひとりっ子」だとのことです。

正確に言えば、渡辺さんが

過去に認知した子もなく、離婚していても、その相手との間の子もなく、養子縁組をした子もなく、相続発生時には両親等(直系尊属)が先に亡くなっている

場合という前提です。

確かに、法定相続人はいないことになります。その方は正しかったのです。

法定相続人の範囲と相続順位

昭和と令和の相続の違い

昭和の時代には、4人くらいの兄弟姉妹がいました。平成には1.4人ほどです。そのうえ生涯独身の方も増加しています。

そのためか、当方が実際に経験したケースでは、子供のない方で相続人は故人の「兄弟姉妹」でしたが、その兄弟姉妹、甥・姪の方も全員先に亡くなられていたレアなケースでした。

令和の時代に入り少子化が進み、また、独身の方も増加すれば、今後はますます法定相続人がいないケースが増加するのではないかと思います。

法定相続人のいない場合の相続はどうなるのか

法定相続人がいなくても、遺言書で遺産をもらう人を指定しておけば、指定された方が遺産を相続できます

では、遺言書もない場合にはどうなるのでしょうか。

いきなり国庫に帰属するわけでもなく、まずは民法で定める特別縁故者がいれば、その方に遺産が行くことになります。

特別縁故者と主張される方から分与の申立てを家庭裁判所に行い、裁判所が相続財産の種類や金額など一切の事情を考慮して決定します。

そのため、特別縁故者であっても裁判所に手を挙げない限りは財産分与を受けられません。なかなか条件は厳しそうです。民法では次のように定めています。

前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。

民法 第九百五十八条の三(特別縁故者に対する相続財産の分与)

遺産は預貯金と現金だけだはありません

遺産は預貯金と現金だけだはありません

国も、遺産が簡単に現金化できるものだけであれば、「国に帰属」となればありがたいというだけです。ところが、現実には遺産が古い空き家のみでした。

古い空き家の場合には家屋を取り壊さないと土地も売れず、土地代金よりも家屋の取り壊し費用のほうが高く結果的にはマイナスになる、そもそも調整区域の土地で売却が思うようにいかない物件も多いのです。

独身、子供のいない方は遺言書の前に財産を総点検

子供のいない方は残された配偶者のために、独身の方は兄弟姉妹、甥・姪に遺産がスムーズに流れるように、遺言書を作成することは大切です。

また、相続人がいない方の場合には、生前に遺言書を作成しておけば自分の死後に好きな人に財産を引き継ぐことが可能です。

ただし、その遺産を死後に利用、活用、売却できる財産であることが前提です。

そのためにも、まずは財産を総点検して、誰に渡すのかを検討してください。(執筆者:1級FP、相続一筋20年 橋本 玄也)