「この度、おじいちゃんが亡くなったんだけど、思ったよりも葬儀やお墓のお金がかかって…。誰がそのお金を工面するか、親族でもめてしまって…」

こんな話が時々聞かれます。

葬儀費用については、最近は小規模の家族葬、あるいは直葬(火葬場で葬儀を行うこと)で済ませることもあります。

そこまで費用がかからないケースもあると思いますが、その他施設や病院の入院・治療費などがかなりかかる場合があります。

こういった亡くなった人についてかかったお金をどこから工面するかという問題が出てきます。

1番良いのは亡くなった方自身の財産から支出できるのが良いですが、今後相続の話がスムーズにいかない可能性がある場合、簡単に話が進まないことがあるでしょう。

そういった場合に使える制度として、2つの制度があります。

遺産分割前の「遺産からの引き出し」

仮分割の制度とは

預貯金についての権利が共同相続された場合には、当然に相続人間では分割されません。

そのため、遺産分割前は各相続人も、その全部または一部の払い戻しを受けることができないというのが筋になります。

しかし、これでは冒頭のようなケースで亡くなった方の葬儀費用や生前の医療費などの支払ができないため、結局遺産分割が成立するまで預貯金を引き出せない不都合が生じます

その不都合を回避するために利用できるのが仮分割の制度です。

ただ、この制度を使うには、前提として家庭裁判所への遺産分割調停や審判という手続きの申し立てを必ず行う必要があります

この手続きがあるのを前提に、緊急の対応の必要があるということで、預貯金債権について一部先取りでの払い戻しを求めることになります。

ですから、すべての相続人を相手に申立をする必要がありますし、実際に裁判所で先払いが必要と判断しないと利用できません

どういった必要性があるのかについては、具体的に特定することと裏付ける資料が必要です。

また、ほかの相続人の利益を害しないことが必要ですので、原則として遺産の総額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内での仮分割なら可能とされています。

ですから、実際のところは遺産分割調停申立の準備や仮分割の手続きを使うための準備が必要になる上に、金額的にはさほど認められる幅も大きくないので、手間な割には利用しにくい制度といえるかもしれません。

ただ、遺産分割調停や審判の手続きではこの先取り分は当然に考慮されず、いちから遺産分割の話し合いなどができるとなっています。

その分最終的な取り分に影響が出ないのがメリットといえます。

最終的な取り分に影響でるかでないか

一部払い戻しの制度とは

これは相続人は相続開始後遺産分割までの間に、相続開始時の遺産の預金額の1/3 × 法定相続分割合までを家庭裁判所の許可なく単独で払い戻すことができるというものです。

この場合は上記の仮払いとは違うため、家庭裁判所での手続きを取らずに行うことができます

なお、上記の預金額の1/3 × 法定相続分割合の上限は預金債権の個数ごとに考えることになります。

金融機関ごとに150万円の上限があり、同一の金融機関に複数口座があれば合算して考えますので、結局一金融機関あたり150万円になります。

ですから別に複数の金融機関の口座があるのであれば、上限が増えることになります。

この場合使途は問題とされませんので、こちらの方が仮分割より使いやすい制度といえるでしょう。

ただ、仮分割のようにいちから遺産分割の話合ができるというのではなく、こちらの方は遺産分割の手続きで先取りがあったものとして扱われることになります。

結局のところ払い戻しを受けた方の最終的な取り分が少なくなってしまうので注意が必要です。

両方とも一見似たような制度ですが、それぞれ手続きをとることのメリット・デメリットがありますのでその点を良く考えて利用する必要があるでしょう。(執筆者:弁護士 片島 由賀)