コロナ禍がまだ当分続きそうな現在においては、昨日まで元気だった人が今日は病に倒れるかもしれないといった状況です。
もしも自分が急病になったら、あるいは急死してしまったら、残された家族はどうしたらよいのでしょうか。
やるべきことはいくつもありますが、その中からお金に関わることについて、銀行員が解説します。
あなたにこの記事が役に立つのは、つらく悲しいときかもしれません。
しかしながら、来てほしくはなくてもいつかかならず迎えるその日のために、少しでも参考になれば幸いです。
目次
「死後のマニュアル」とは

マニュアルといっても、専門の本やツールではありません。
自分しか知らないことで「家族に伝えておかないとまずい」そのようなことを書き出したものを私が勝手に「死後のマニュアル」と呼んでいるのです。
これと似たものに「遺言」がありますが、そこまで大げさにしたくはないので(遺言が必要なほど資産がないと言う理由もありますが)とりあえず紙にしてまとめてみたのです。
伝えることが多くてもまとめることが大事
たとえば、自分のキャッシュカードやクレジットカードの暗証番号、ネットバンキングのパスワードなど、考え出したらどんどん心配になってきました。
「でも、なんでもかんでも書いていたら、本当に伝えたいことが分からなくなるのでは?」
そのように感じた私は、大事なことを書き出しながら、どうしても最低限伝えたいことだけをまとめることにしました。
そして現在は、整理した内容をプリントアウトして奥さんに渡してあります。
前置きが長くなりましたが、ここからは銀行員が自分の経験から「自分にもしものときに、最低限これだけ伝えておけばなんとかなる」そのような内容を解説します。
なお、自分を例にするので家族構成を説明します。私は銀行員で、奥さんにはパートで働いてもらい、男女2人の子供がいます。
もしもの時に最低限必要な銀行取引に関わる「3つのこと」
銀行員の私が考える、もしものときに最低限必要な3つのことをまとめました。
2. 出るお金、入ってくるお金は伝えておく
3. 借金のある人が伝えておくべきこと
順に説明していきます。
1. 暗証番号やIDなどは紙で残しておく
生活費などの家計のメイン口座であれば、家計を預かる人(わが家では奥さん)が暗証番号も知っているので問題ないことでしょう。
ここでは、自分だけのプライベートな口座などのことです。
私の場合には副業でライターをしているので、執筆料の口座を別に持っています。
その他にもネットバンキングのIDやパスワードなど、紙に一覧表形式で書き出しました。
ちなみに、暗証番号などをパソコンにまとめて保存し、さらにそのファイルにもパスワードをかけて保護している場合には、自分で決めたパスワードを忘れてしまうと非常に苦労しますので注意してください(私の実体験です)。
2. 出るお金、入ってくるお金は伝えておく
前述と同じく家計をパートナーに任せていても、家計以外のお金の出入りは伝えておくべきでしょう。
私の場合には
・ 必要経費としてのレンタルサーバーやウイルスソフトなどの年払い
が該当します。
私のように副業の相手先がある場合などには、先方に迷惑をかけないように注意が必要です。
また、年払いの費用がクレジットカード引き落としになっていて、パートナーに伝わっていないと残高不足でカード代金が引き落とされなかったり、契約が失効してしまったりする恐れもあります。
3. 借金のある人が伝えておくべきこと
住宅ローンのある人のほとんどが団体信用生命保険に加入しています。
団体信用生命保険は、住宅ローンを借りている人が死亡または高度障害になった場合(保険によって対象となる事象は異なります)に、保険金でローンが返済される仕組みです。
しかし、この団体信用生命保険は一般的な生命保険と違い保険証券もなく、口座からの引き落としもない(実際には毎月払うローン返済に保険料が含まれています)ので、保険に加入している実感を持つ人は少なく、それと同様に死亡した際などの手続きを知っている人は一般的にはほとんどいません。
そこで、私が死亡した際などのために、団体信用生命保険の手続きについてマニュアル形式で残してあります(普段から仕事でお客さまに説明している内容をそのまま使っています)。
一方で、カードローンやキャッシングなどが残っている場合には、本人が死亡したした後の手続きが煩雑になってきます。
しかも、パートナーに内緒の借金は問題も多くなるので、いっそのことよい機会だととらえて打ち明けてみるのもよいのではないでしょうか。
死後のマニュアルは「プチ遺言」にもなる

ここまで説明してきた「死後のマニュアル」は、銀行取引以外にも自分が伝えたい事柄を自由に書いてよいと思います。
また、そのようにしてできた文章は
・ それらをどうして欲しいのか(死後のマニュアル)
が網羅されているので、内容的には遺言に通じるものがあります。
もちろん、遺言者は法律で定められた要件を備えていなければ有効ではありません。ここでは遺言のようなものとして「プチ遺言」(これも私が考えました)と表現しています。
実際に遺言が必要だと感じた人は、以下をご参照ください。
遺言書について
遺言書の種類には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言等があります。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、氏名を自筆で記載し捺印した遺言です。遺言書本体に貼付する財産目録はパソコンでの作成が認められています。
その際にはすべてのページに署名、捺印が必要です。
公正証書遺言
公正証書遺言は、文字通り公正証書による遺言で、証人2人以上の立ち会いのもとで遺言者が公証人に遺言内容を説明し、それに基いて公証人が文章にまとめます。
なお、原本は公証役場に保管されます。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が自らまたは第3者の書いた遺言書に署名および捺印し、遺言を封じ、遺言に捺印したものと同じ印鑑で封印したうえで、公証人および証人2人以上に遺言として提出し、公証人等に当該遺言が遺言者の遺言書であることを確認してもらうものです。
遺言者の内容が公証人等に確認されることはありません。
大事なのは「自分の死後にパートナーや家族が困らないよう、伝えておくべきことをしっかりと伝える」という点で、その方法は自由です。
自分のお金に関する手引書それが「死後のマニュアル」
銀行員という仕事柄、お客さまが急病になったり死亡され、残された家族がいろいろと困っている場面に遭遇してきました。
そうした困りごとに対処するなかで「明日、自分が急死しても、家族が困らない最低限の説明だけは残しておこう」と考えました。
私の作った死後のマニュアルは、家族への感謝や自分の思いは書いてありません。なぜなら、必要になって奥さんが見るかもしれず、そうなると照れくさいからです。
しかしながら、伝えたい思いはいつか口に出して伝えられるうちに伝えようと決めています。
自分にあった方法で大事な家族に自分の思いを伝え、残された大切な人がお金で困らないように備えてください。(執筆者:銀行員一筋30年 加藤 隆二)