目次
消費税率引き上げ、わかっちゃいるけど腑に落ちない
10月1日、安倍首相は、予定通り2014年4月から消費税を8%にすると決めました。消費税を引き上げる代わりに5兆円規模の経済対策を打ち、景気への打撃を最小限に抑えようとしています。
そこで多くの生活者の方は、「財源を使って経済対策をするぐらいなら、消費税を上げなきゃいいのに」という思いを抱くのではないでしょうか。
確かに、個人の家計レベルでは、消費税率引き上げでお金の使い方を見直さなければなりません。しかし、みなさんも「ここで財政再建の道筋を作っておかないと、将来日本の財政が大変になる」とうすうす気づいています。
さらに「国民がそろってお財布のひもを固くすると、再び景気が落ち込む」ということも、多くの方が理解しています。「それでもやっぱり腑に落ちない」というのが皆さんの正直な気持ちでしょう。
財政再建だけではない、消費税率引き上げの背景
じつは、消費税率引き上げの理由は、財政再建だけではないのです。いまや経済の中心は貿易取引ではなく、金融取引の時代です。世界経済において、モノやサービスの売買よりも、資産価値の大小が幅を利かせるようになりました。
日本は、ご存知の通り、国債をたくさん発行しています。経済規模(GDP)の2倍以上(224%、2012年)、財政赤字で大騒ぎの米国ですら113%です。
この国債、言わずと知れた日本政府の借金です。お金の貸し手はほとんどが国内の金融機関です。「だからギリシャのようにはならない」と良く言われますが、国内の金融機関の体力を落としかねない「腫れもの」でもあるのです。
国債への信用性が低くなると(1)
もし国内の金融機関が連鎖的な金融危機になり、日本の金融システムがパニックになったら、どうしますか?
話が飛びすぎましたので、少し戻しましょう。日本の財政状態が悪くなれば、「国に貸したお金が返ってこないかも」という不安が膨らみます。国に貸したお金(=国債)に対する信用が低くなります。国債の信用低下は、市場において、国債価格が下がるという形で表わされます。
国債の価格が下がるとどのような事態になるでしょうか。国債をたくさん持っているのは、日本の金融機関でしたね。国債価格の下落は、日本の金融機関が持つ資産価値が下がることを意味します。
例えば預金者がお金をおろしに来るのに備えて、資産(国債)を現金に換えておこうとしても、値下がりしている国債からは十分な現金が用意できません。それに勘づき始めた預金者は、「自分のお金だけは守りたい」と、他の預金者より先に預金を引き出そうとするでしょう。預金の引き出しが急増すれば、マスコミも気づきます。その頃になってやっと気づいた人も、ATMに殺到します。いわば取り付け騒ぎです。
そうなのです。国債の価格が下がるのは、金融システムにとって大変恐ろしい事態を招くかもしれないのです。
ちなみに、「私は国債を買っていない」というあなたでも、預貯金や保険金、公的年金等を通じて、あなたのお金で国債を買っています。
国債への信用性が低くなると(2)
また、国債の信用度が低くなり国債価格が下落することで、国債投資が「一か八か」のハイリスクになります。国債の性格上、もしその国の財政が好転すれば額面通り償還(返済)できるので、この場合は暴落した国債が償還日に額面価格に戻り、ハイリターンとなります。
つまり国債がハイリスク・ハイリターンの金融商品になるのです。
なお、国債価格が下がると国債の最終利回りは上昇します。国債価格の上昇は利回りの低下を示します。国債の信用性は、金利の代表的な指標である長期国債利回り(新発10年物国債利回り)の推移で把握できます。長期金利が上昇する理由としては他にもいくつかあり、因果関係を特定するのは難しいのですが、とにかく、国債の信用性が低くなれば長期国債利回りは上昇します。
「借金返済対策の1つ」というアピール
さて、消費税率引き上げに話を戻します。
効果のほどは別として、消費増税の決定は、財政悪化に歯止めをかけるために「国が借金返済の対策を講じた」というアピールの1つにもなるのです。何も手を打たないのは国債の価格を下げる要因です。
とはいえ、消費増税分だけで日本の財政赤字が埋められるわけではありません。3%の消費増税分は1年当たり約8兆円の税収増と見られています。年間40兆円もの歳入不足の日本の財政で、5分の1程度の財源になる程度です。しかも、消費増税と引き換えに5兆円規模の経済対策……。
マーケットはそれほど頭が悪くありません。消費増税だけでは国債の信用度が保てるはずがありません。さらなる税収増加の見通しが立たなければ、国債価格を維持するのは難しいでしょう。そのためには、やはり、景気が良くなり企業の利益や個人の所得が増え、納税額が増えるのが大黒柱。
当面は、指標としての長期国債利回りから目が離せません。