過去の日本は、妻を娶って子宝を授かった後は、家の一軒も持つのが男の甲斐性と言われてきました。冷静にしっかり目を凝らして今の日本を見渡すと、もうそんな過去の常識は、遠い昔に賞味期限が切れているのではないでしょうか。
前回のコラムで問題提議した「家は持つべきか持たざるべきか?」「50歳で家を買え!」というメッセージの根底には、今一度立ち止まって、自分の人生の計画(ライフプラン)をしっかりと考えてほしい… そんな私の願いがこめられています。
『人は、真摯にライフプランと向き合うと、その生き方、お金の使い方、所謂、人生全てが良き方向に変化を起こす』 私がコンサルで何千回とお話して来た大切な言葉です。
目次
若いうちに高い買い物をすると人生の変化に対応できなくなる
マンションの内覧会で驚くような光景を見た事があります。小さなお子さんを二人連れた若いご夫婦とおじいちゃんがマイホーム購入のために35年ローンの相談をされていました。契約が決まった瞬間の息子に向けたおじいちゃんの一言、「これでお前も一人前だな!」。抱っこしている子に3000万円、手を引いている子に3000万円、マンションのローンに4000万円かかるんですよ!!
未就園児 約85万円 ×3年=255万円
保育所・幼稚園児 約120万円 ×3年=360万円
小学生 約120万円 ×6年=780万円
中学生 約155万円 ×3年=465万円
子どもが中学生になるまでの費用 =1860万円
≪内閣府『インターネットによる子育て費用に関する調査報告書』(2010)より≫
高校から大学までの教育費 子ども一人当たり 1031万円
≪日本政策金融公庫『教育費負担の実態調査結果』(2012)より≫
【結果】
大学までの教育費、衣食住の費用も含めると、およそ子ども一人育てるのに3000万円ほどかかることになる
この総額1億円は借金同様ですから、この時点では「一人前」どころか実は「半人前」でさえないかも知れない。その借金を完済して、初めて「一人前」なのです。私ならこう言います「これから大変だね」と。
これは最も典型的な「わしらの時代」という「過去の常識」の呪縛から逃れられない、悲しい光景です。「わしらの時代」とは、高度成長という、人口も増え、給料も上がり、土地の値段も上昇した時代のお話しです。
こんなこともありました。事務所に結婚されたばかりの30代のご夫婦が来られました。「結婚したので、子供も欲しいし、家も持ちたいです。」とおっしゃるので「どうして家が欲しいのですか?」と尋ねると、「家を持つのが普通じゃないですか」というお答え。若い方にもまだまだ、過去の常識に縛られている方がいらっしゃるのを痛感しました。
いきなり、そんなに高い買い物をする必要があるのでしょうか?
「身の丈」という言葉がありますが、アメリカだったら、若いころに結婚したら、家を買うにしても、新築は買わないです。アメリカは中古売買がしっかりしているという環境の違いはありますが…
会社の近くに中古物件を買って、一生懸命に働いて、年齢を重ねていくと、郊外で家を持って車で通勤、リタイヤしたら年齢と生活に合った次の棲家を探すという文化ですね。凄く人生に対する計画性を感じますね。人生の計画生… すなわちライフプランを感じます。
ライフプランというのは、人生の中で目標やイベントを計画として考えて、それを達成する為の費用(必要額)を考えること。そして、その必要額をどうやって作っていくかを考えるのが、ファイナンシャルプランニングです。
日本では、最初に買った家にずっと住むのが前提。20代にも関わらず、立派な家を買ってしまうので、ローンに頼らざるを得ない。だからこそ、人生の中での変化に対応できなくなる可能性も高くなります。
絶対に転職は考えませんか? 勤務している会社はこの時代に30年間安泰と言えるでしょうか? あまり考えたくないですが、離婚という可能性は全くないですか?
「何とかなる」でローンを組んで家を買う人… そんな心構えでは「何とかならない」
30年や35年のローンで住宅購入する際に意識しておかなくてはならないことがもうひとつあります。日本では一軒家だったら、20年経つと住居部分の財産としての評価は「0」になるということをご存知ですか?
例えば、2000万円の土地に2000万円の家を建てて買うと、20年後の価値は2000万円になる。土地だけが残るということですね。これを「残存価額」といいます。日本の木造の家は、22年で価値が取得価額の1割になります。売買する時は残存価額だけとなります。(財団法人不動産流通近代化センター「木造建物の値づけ法」による)
35年のローンを一生懸命支払ってる間に、20年経ったら建物の財産価値は「0」、30年経ったら大々的なリフォームに約1200万円。「月々賃貸に10万円払ってるんだったら家が買えます」と言う言葉に魅せられたのに、月々10万円なんかで到底済まないし、何だか悲しいですよね。
先の事をあえて考えないで「何とかなる」とローンを始める人… そんな気持ちではきっと「何とかならない」はずです。
つまり自身の自分の人生の計画書=ライフプランをしっかり描くことが大切。自分自身の年齢と、結婚、子供の教育費、マイホーム購入、親の介護、老後の生活… 生きて行く上での数々のイベント(ライフイベント)に必要な資金と、その資金をそれまでにどれだけ準備できるかをしっかりと考えて行動してい欲しいと思います。
真摯にライフプランと向き合うと、その生き方、お金の使い方=人生が良き方向に変化する
50歳代になって、そのライフイベントが完遂したり、もう視野に入る段階になってから「家を買う」ことを考えてもよいと思います。
50歳になったら、大抵は若い頃より家にいる時間は長くなるし、そこそこ人生の行き先が見えてきてこそ衝動的でない長い目で見た本当の自分の好みが見えるというもの。そんな感性が選ぶ場所で暮らす方が素敵だと思いませんか? そして新築でも中古でも、まだ新しい家に暮らせるのです。
体面や親の言葉や過去の常識は、あなたのライフを無茶苦茶にするノイズかもしれませんよ。豪華なパンフレットの上手なコピー、飾り立てられたモデルルーム、営業マンの背中を押す言葉に、くれぐれも冷静さを失わないでくださいね。
『人は真摯にライフプランと向き合うと、その生き方、お金の使い方、所謂、人生全てが良き方向に変化を起こす』 一介のFP如きの持論かも知れませんが、これは人生の本質を突いた言葉だと思えます。(執筆者:平山 哲也)