戦後の法改正で家督相続の制度は廃止されましたが、「代々受け継がれてきた土地や財産は長男が引き継いで次の代に残していくもの」という意識は今もなくなったわけではありません。
実際の相続においては長男が全てあるいは大部分の遺産を相続することも少なくありません。傍から見れば長男が優遇されているように見えるかもしれませんが、必ずしもそうとは言えません。財産を引き継ぐ長男にも悩みや苦労があるのです。
たとえば広大な土地や山林、実家の家屋を相続しても、そこに住んだり、活用するわけでなければ、実際には得することはありません。もちろん代々受け継がれてきた土地や家を勝手に売却するわけにもいきません。そんなことをしたら親族やご近所から何を言われるか分かりません。
しかし、土地や家を維持していくためには、固定資産税、家屋の清掃やメンテナンス、庭の手入れや草木の処理など、膨大な手間と費用が掛かります。その苦労は大変なもので、財産を取得したといっても自分が自由にできるものではなく、引き継ぐのは「財産」よりもむしろ「責任」と言えます。
それなのに、長男は評価額が高い不動産を相続するからといって、現預金などの金融資産は弟や妹だけで相続するとどうでしょう。金融資産には先祖代々受け継がれてきた土地や家のような責任の重みはありません。相続税を支払ってしまえば費用も発生せず、自由に使うことができます。
資産価値という額面の上では長男が一番多く取得していたとしても、その長男が一番苦労と悩みを抱えることもあるのです。法定相続分や相続税の計算といった法律上のことは額面の数字で判断されますが、現実の相続においては、それだけではなく付随して発生する負担や責任・苦労といったことも考慮しておく必要があります。
そのためには残す側にも受け継ぐ側への配慮が必要で、周囲の理解が得られるようにあらかじめ家族で話し合いをしておく、遺言を残すといった事前の相続準備をしておくことが大切だと思います。(執筆者:長尾 真一)