確定申告を間近に控え、医療費控除の額を計算するために、高額介護サービス費、高額介護合算療養費の額をチェックしている方も少なくないかもしれません。
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「高額介護サービス費」と「高額介護合算療養費」
高額介護サービス費は、同じ月に負担した1割の使用者負担の合計額が自己負担限額を超えると超過分が申請により戻る制度。
高額介護合算療養費は、同一世帯で年間(8月~翌年7月)医療にかかった自己負担額+介護にかかった自己負担額が自己負担限度額を超えると超過分が申請により戻る制度です。いずれもお金が戻ってくる制度ですが、自己負担限度額の基準となるのが世帯の「所得」です。
高額介護サービス費における自己負担限度額は、生活保護受給世帯であれば15,000円、世帯全員が住民税非課税であれば24,600円、一般の世帯は37,200です。高額医療・高額介護合算制度の自己負担限度額は、年齢と所得区分によって細かく分かれていて、75歳以上では、現役並み所得者では67万円なのが、一番所得帯が低い区分では19万円となっています。
介護費用と「所得」の関係
では、この区分の基になっている所得とは何でしょうか。簡単にいうと申告対象になる所得の世帯合算額ということになります。これには二つの側面があります。個人でいえば、(1) どんなに資産家であろうと、また収入が多かろうと、所得とみなされるものが少なければ自己負担限度額は下がるということ。もう一つは、(2) 個人の所得がどんなに少なかろうが、世帯全体の所得が多ければ自己負担限度額は上がるということ。
(1) については、たとえば受け取っている年金額が同じでも、老齢年金であれば所得になりますが、遺族厚生年金は非課税なので所得とはみなされないので所得に差が出るということになります。
また、たとえば株式で大きな収益が出たとして、特定口座で「源泉徴収あり」を選択していれば源泉徴収で終わりなので所得としてカウントされませんが、「源泉徴収なし」を選択していれば所得としてカウントされてしまいます。(扶養から外れる、医療・介護保険の保険料が上がるなどのデメリットが発生する場合もあります)
特別養護老人ホームに入所した場合
所得は、高額介護サービス費や高額介護合算療養費の額に影響を与えるだけではありません。さらに影響が大きいのは、特別養護老人ホームに入所した場合の費用負担です。
特養は費用が安いため、入りたくてもなかなか入れない状況ですが、1ヵ月にかかる費用の目安は多床室の場合、約8万円ぐらいです。内訳としては、要介護度によって異なる介護サービスの1割負担分と、居住費320円、食費1,380円です。
実は、低所得者(3段階)には、居住費や食費の軽減措置があります。所得によってそれぞれ、居住費0円+食費300円、居住費320円+食費390円、居住費320円+食費650円と異なりますが、この軽減措置があるため、実際に支払う費用はかなり抑えられるわけですね。
現状では「所得」が基準になるので、預金や不動産のある資産家であっても、居住費や食費の軽減措置を受けられます。ただし今後は、厚生労働省も一定の預貯金や不動産を持っている人は対象から外す方針のようです。単身者では1千万円以上、夫婦では2千万円以上の預貯金がある高齢者が外れ、預貯金がなくても一定の評価額以上の不動産を持っていれば外れることになりそうです。
対策として、相続時精算課税制度などの利用で資産移転を図るということも考えられなくはないのですが、将来の医療費、介護費用が読めない段階では、安易に選択はではできないところです。
2015年8月からは、所得の多い高齢者(年間の年金収入が単身で280万円以上、夫婦で359万円以上)の介護費の自己負担割合が今の1割から2割に引き上げられます。高額介護サービス費の自己負担上限額も引き上げられ、現役並みの所得者は44,400円になります。「所得」の与える影響は、ますます大きくなるわけです。子が介護費用を負担している場合は、対策を考える必要がありそうです。
よく知られた裏ワザではありますが、親の世帯分離を行う方法もあります。同居、同一生計では難しい面もありますが、分離することによって親世帯が低所得者層になり、介護保険の自己負担額によってはお金が戻り、特養の居住費や食費も軽減されることになります。
世帯分離が難しいのなら、自分の所得で所得控除をというのはあるでしょう。医療費控除だけではなく、親の状態によっては、障害者控除を受けられる場合もあります。ただでさえ、肉体的、精神的な負担は大きいのです。せめて経済的な負担ぐらいはすこしでも軽くしたいものです。(執筆者:草薙 祐子)