目次
~はじめに~
「公認会計士による監査」、企業にお勤めの方なら1度は御社に公認会計士が数名のチームで入ってくるのを見た事があるのではないかと思います。いったい彼らは、突然やってきて、会社の何を見ているのか? 知りたくありませんか?
御社の会議室に閉じこもって何やら業務をしている様だけれども、守秘義務があるという理由でいつも会議室には鍵がかかっているし。しかも1~2週間程度滞在しただけで帰って行くけれども、果たして1年のうち1~2週間程度やって来ただけで、うちの会社の何が分かるって言うのか!?
そこで、会社役員の方、経理や財務の方、営業の方、それから4月から入社したばかりの新社会人の方、全ての方に、「知っておいて損はない、公認会計士による監査の視点」を、お届けしていきたいと思います。
営業でも就職活動でも、お客様や面接官がまずチェックするのは、“ネクタイの結び目と、履いている靴”、と言われます。そうすると、第一印象を良くするためには、“きちんとネクタイを結んでおこうとか、靴をきれいに磨いておこう”とか思いますよね。このコラムも同じです。公認会計士が“どこをどういう視点で監査しているか”を知ることが、“皆様の日頃の業務をより良くする事”ことにつながれば幸いです。
~その1 現金編~
今回は、現金編。現金に関する「公認会計士による監査の視点」です。会計において利益を水増しするとすれば、ほんとにはない資産をあるかの様に見せることが手っ取り早いですよね。そこで公認会計士は、現金預金をはじめ、資産科目の全てに対して、「実在性」=「ほんとにあるの?」という視点でチェックします。具体的に見ていきましょう。
(1) 現金の実査
現金の監査で必ずと言ってよい程行われるのが実査です。実査とは、公認会計士自ら、会社にある現金を数えるという監査の手法です。金庫にある札束、レジにある釣銭やコインロールはもちろん、その他の郵便切手・収入印紙など(これらはすぐに現金に換金可能なものであるため、現金同等物といいます)まで、全てを公認会計士自らがカウントします。
この時の公認会計士の視点としては、「実際にカウントした金額と、会計帳簿があっているか」、これはもちろんあります。まずはこれがズレていたら、話になりません。
しかしそれだけではなく、「現金の範囲が適切かどうか」、例えば郵便切手・収入印紙・ビール券・旅行券・プリペイドカード・タクシーチケット・新幹線チケット・図書券・商品券・優待券などの現金同等物をどう取り扱っているかといった視点でもチェックしています。これらの現金同等物は、会社の判断により現金と同様の扱いが出来るため、この扱いも重要になってくるのです。
(2) 現金の管理
ただし、複数の支店や店舗等にちらばって現金が保管されている場合、公認会計士が全ての支店や店舗に出向いて現金を数えて回ることは不可能です。公認会計士だって、忙しいのです(笑)
そこでどうするか?
現金の金額の大きい支店や店舗だけ、公認会計士自らが現金実査を行い、その他の支店や店舗においては、会社が行った現金実査の結果を利用させてもらうと事になります。授業に自分が出られなかった時だけ人のノートを貸して写させてもらう、大学なんかでよくあるアレです。
でも、そもそも現金の管理が出来ていない会社が行った現金実査の結果なんか、公認会計士としては全然信用して利用できませんよね?
そこで重要になってくるのが、「内部統制の視点」=「きちんと現金の管理をしているか?」という視点です。例えば、現金の実際の出金業務を行う人と会計帳簿に記録する業務を行う人が同一人物でないか?(職務分掌)や、現金実査を毎日しているのか? 週1なのか? それとも月1なのか?(実施の頻度)や、すぐに上席者の承認がなされているか?(承認の適時適切性)、がポイントになってきます。
また、現金は、私的流用や盗難などのリスクが高いものである上に、銀行振込の様に取引の記録が残らないため、不正に利用される可能性が大きい資産です。そこで、現金はもちろん郵便切手・収入印紙などの現金同等物も、毎日金庫に入れて保管しているか?(保管の適切性)そして、その金庫の鍵は適切な職階の人間が管理しているか?(管理の適切性)、もポイントとなってきます。
これらが全てきちんとしていれば、公認会計士としてはその会社の内部統制が整っているとみなし、会社が行った現金実査の結果を安心して利用できる事となる訳です。
(3) まとめ
以上、現金について、公認会計士の視点を述べましたが、そもそも理由もなく多額の現金を社内に保有している会社はとてもリスクが高いと言えます。実際、会社も現金はリスクが高いということを重々承知しているため、通常現金を社内に保有しておくことは必要最低限にとどめ、残りは銀行口座に入れておくことが一般的です。そこで、公認会計士による監査の視点、次回は、預金編でお会いしましょう。(執筆者:植田 有祐)