
遂に平成27年の幕が開け、日本経済においても新たな1年の門出となりました。私の仕事である相続コンサルティングの世界でいえば、ご多分に漏れず、「相続大増税」の到来です。
目次
相続税増税に関する勘違い
タイトルを見ると、「遂に来てしまった…」や「間に合わなかった…」等という声も聞こえてきそうですが、皆様の中には、大きな勘違いをしていらっしゃる方が多いようです。
冒頭の通り、本年より、相続税は増税となりますが、これはあくまで、故人がいつ亡くなったのか…が大きなターニングポイントとなるので、あって、相続対策自体を昨年(平成26年)迄に行わないといけないということではありません。
相続税は、被相続人(故人)がいつお亡くなりになったかで判断します。平成26年12月31日の23時59分59秒迄にお亡くなりになった場合は、従前の基礎控除額、及び税率が適用となりますが、僅か1秒違いで平成27年1月1日0時00分00秒にお亡くなりになった場合は、所謂増税の対象となります。
某、相続特集を組んだビジネス雑誌では、病院でお医者さんが死亡時刻の確認するシーンにおいて、ご家族(相続人)の方々が、このタイミングを必死に、眉間にシワを寄せながら見守る…というパロディもありました。
最も大切なのは「節税対策」ではなく「遺産分割対策」
さて、新聞やビジネス雑誌、報道、webニュース等でも、非常に多くの「相続」特集が組まれていますが、その対象は、圧倒的に「節税対策」です。ちなみに、私の相続コラムも昨年末に、これまでに類を見ないくらいに、アクセスいただき、同時に、facebook等経由等で、非常に多くの方より、メッセージ等でお問合せを頂きました。
以前より相続対策の順序について説明していますが、相続対策には、「遺産(分割)対策」、「納税対策」、「節税対策」の3本柱があり、対策を行うべき順序は、列挙した順序です。どんなに完璧な節税対策をしようと、それは遺産分割が円滑にいくことを想定した上での対策なので、実際に揉めてしまい、遺産分割協議が整わず、納税期限に間に合わなければ、せっかく完璧な節税対策をしても、絵に描いた餅で終わる可能性が高いです。
また、納税対策も然りで、現状のシミュレーションで、節税対策の限界を感じ、やむを得ず、納税される方がいるわけですが、その納税資金の確保にあたっても、原則は、遺産分割が円滑にいくことを想定されているはずです。せっかく、納税用に残していたはずの土地も、いざ、遺産分割協議をすると、相続人間で異論を唱える方が出てきて、結果的に、納税期間迄に遺産分割協議も整わず、納税することができないという方も珍しくありません。
このような遺産分割の重要性については、どちらかというと、富裕層の方々の方が、「揉めたら厄介だな…」と思われる方が多く、また、ご説明差し上げるタイミングがあれば、きちんと耳を傾けていただけますが、要注意なのは、今まで、相続税の対象とならなかった、所謂、サラリーマン世帯です。
多くのサラリーマン世帯は、増税により、「もしかして相続税がかかるかも…」と節税には興味はありますが、結果的に、様々な控除や特例を利用することにより「どうにか、納税しなくて良さそうだ…うちは大した資産もないし、子供達も仲が良いから後は大丈夫…」等と、税金に対しての興味は湧くものの、遺産分割についての興味が湧かない方がほとんどです。
ところが、統計では、相続財産の半分以上(51%)は不動産(土地・建物)です。よく考えてみれば、すぐわかることです。まずは、ご自身の資産内容を一覧にしてみましょう。手元の現金、預貯金、有価証券(株・投資信託)、不動産(土地・建物)、生命保険(団体信用生命保険は除く)、会員権、骨董本、金・銀・プラチナ・パラジウム…等、一覧を見てみると、特にサラリーマンの方々は、ご自身の資産のうち、不動産が占める割合がどの程度になっているでしょうか?
ちなみに、ここで勘違いしやすいのが、不動産の価値です。以前、こちらのコラムでも説明しましたが、不動産には様々な価格があります。相続税の計算をする際に用いるのは、財産評価基本通達に従い、都内であれば、相続税路線価が一般的であり、遺産分割を行うときの不動産の価格は、時価(市場流通価格・不動産鑑定価格)を用います。そして、都内でいえば、この相続税路線価と市場で流通する不動産価格の乖離が概ね30%強もあります。
ご自宅…奥様とお子さん1名であれば、あまり揉めませんが、お子さんが2人以上の場合、どうやって均分に分けますか? 相続人には、均分相続を受ける権利があります。
「譲る気持ち」をお持ちのお子さんに育て上げた方は、大丈夫かもしれませんが、このような厳しい日本経済において、多くの方は「譲る気持ち」をどれほどの方がお持ちか…普段の相続相談を受けている私としては、「10件に1人は、いらっしゃるか?」と聞かれると、首を縦に振ることはできません。
本来あるべき相続対策とは? ある素敵な相談事例より
昨年の年末にいただいたご相談で非常に素敵なご相談がありました。
簡単にご紹介すると、城南地域(目黒・世田谷・品川・大田)にお住まいの老夫婦でした。お二人とも、離婚歴があり、各々、お子さんがいらっしゃいました。訳合って、お二人とも、お子さんが幼い時に、離婚されており、各々前妻、前夫がお子さんをお引き取りになったようでした。
当時は、お二人とも奈落の底に落とされたような時に仕事場で出会われたとのこと。お二人とも、生きる望みを失うものの、精を出す対象は仕事のみのため、がむしゃらに働き、そのひたむきに働く互いを見合う内に、心惹かれ、ゴールインされたようです。
お二人は、ご結婚後、独立し、互いに励まし合いながら、それなりの財産を築かれ、設立された会社もそれなりに軌道に乗りかけていたようですが、ご主人が病に倒れ、入院生活が続き、少なからずも数名いた従業員も次々に退職され、最後は奥様1人が残されました。
幸いにも、これまでの貯蓄があったために、ご自宅だけは残すことができましたが、残った財産は、余生を送るには年金を合わせてもギリギリの預貯金のみでした。そんな中でのご相談でした。シミュレーションしたところ、相続税の申告は必要なものの、ギリギリ納税を必要とされない程度でしたが、ご主人より、「おしどり贈与」を利用したいという申し出がありました。
「おしどり贈与」とは、婚姻20年以上の夫婦間における居住用財産の取得のために行われる贈与については、暦年贈与と合算し、2,110万円迄は非課税で行うことができる贈与です。一見、贈与税が非課税な為、非常にお得に思われがちですが、「贈与」に起因する所有権の取得(移転)となるため、登記上の名義変更に要する登録免許税も高く、また不動産取得税等を要します。
遺言を作成し、ご主人が亡くなられた際に、遺言を執行し、奥様名義にされた方が、登録免許税も大幅に安く済み、不動産取得税も要しません。そのため、単に損得だけで考えれば、遺言を利用した方が、遺言の作成料等を踏まえても明らかにリーズナブルにすみます。
しかし、ご主人が決断されたのは、「今、贈与したい」、「今、この数十年間の感謝の想いとして贈与したい」、「確かに、生活は楽でなく、多少、金銭面で損かもしれないけれども、今、贈与したい」という強い想いを打ち明けられました。
上述にもありますが、お二人には、其々、お子さんがいらっしゃいます。コスト面では遺言を作成したほうが、安価ですが、遺言を用意していても、仮に、お子さんが、ご主人の財産を狙っていて、相続発生のタイミングを見計らって、遺言の執行の前に、法定相続分等で登記された・・・では敵いません。奥様にもそういった心配事をさせたくないので、今すぐ、奥様が安心して余生を送れるように・・・ということでした。
当然、私の方では、お子さんからの遺留分対策も講じましたし、万が一、奥様が先にお亡くなりになってしまった場合のための対策も講じましたが、このご相談に、物凄く、心を打たれました。
相続税とは多少、話が異なるかもしれませんが、少しでも「納税額を抑えたい」、少しでも「コストを抑えたい」という方が多い中、自分の大切な人のために、余計なコストが発生しても構わないというところに、『本来の相続対策のあるべき姿』を感じさせていただきました。(執筆者:佐藤 雄樹)