ほんとうに気の合うかつ能力の高い専門家に出会うのは、ある意味、至難の業である。
たとえば、歯医者。
私は、高校の親友が(大学でも教えているほどの)有能な歯科医になっているので、彼に紹介してもらい事務所の近くの歯科医院に行ってみたことがある。
この歯科医、自費診療を旨とする。壁には英文の書状のようなものが貼ってあり、なるほど米国流なのか最初の面接で延々と自費診療の長所を説明してくれた。残念ながら、いま、まったく記憶に残っていないその洗脳(+友人の推薦)でとりあえず気前よく受診したのだが、結果は惨憺たるものでした。
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なにが間違っていたかといえば、私の歯茎が相当に痛んでいたのに、彼は美しい歯を作るのが専門らしく、歯列の矯正や綺麗なコーティングした歯を作りたがったこと。研究発表もあるのだろうか(患者からの濫訴の予防もあるのだろう。)、やたらに口の中の写真を撮る。
確かに治療を受けた歯は、見違えるほどきれいになるのだけれど、やがて強烈な歯茎の痛みに襲われ、なにしろ饂飩も噛めないような状態となった。この時になって、はじめて「これは失敗した」と気がついた。
それまで自費診療であるから、軽く数十万円を使ったろうか。この時ほど「混合診療」という言葉に魅力を感じたことはない。
で、結局どうしたかといえば、親友の歯科医に片道1時間かけて通っている。彼には、とにかく歯茎を何とかして欲しいことと(いわゆる歯周病の治療。)、物理的な歯そのものは、75歳くらいまで、騙し騙し持たせてくれればいいとお願いした。
それから、ほぼ毎月通っている。歯茎は疲労が蓄積する税務繁忙期に爆発しそうな気配を見せることはあったが、なんとか饂飩も噛めないような状態に陥らないようには維持されている。歯は、あちらこちら被せているものが外れたり、歯そのものが欠けてきたりしているが、抜本対策というよりは、手厚い応急処置のような治療で凌いでいる。これで、案外幸せなのである。
税理士はどうだろう。
今年になって、相続税の基礎控除が引き下げられたり、最高税率が引き上げられたりして、相続税の申告が必要な人(と言っても、相続人の数ではなく、亡くなった人の数)が5割増しになるという説が出回り、税理士業界を尻目に、なぜか広告業界や金融業界が張り切っている。
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某日刊紙は、一面広告で「相続税専門税理士20選」とか「50選」とか特集を組んでいる。ところが、どうみても税理士業界からみると「この事務所、ついこの間まで不動産の流動化とか法人税関係で有名だったけれど、『相続税の専門税理士事務所』というには、実力不足なんじゃないかな」というような事務所が50選どころか20選に臆面もなく堂々と顔を並べている。というより、相続税の専門税理士事務所の代表格と言われる事務所が複数漏れている。
選、選とあたかもなんらかの基準で有名な日刊紙が責任を持って選んだように見えるけれど、「要はお金さえ出せば、『専門税理士』として掲載してあげましょう」ということ。衆生を惑わすに限りがなく、広告業界のコンプライアンス地に堕ちたり、というのが昨今の広告業界のようです。(執筆者:田中 耕司)