五輪のエンブレムに端を発し、話題の人となっている佐野研二郎氏。サントリーのトートバックに使われている「素材」がインターネットから収集できる「素材」であることから、常習犯と評する人も。佐野研二郎氏は、この「事件」が勃発するまでどんな人か知らなかった。
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ポップ・アートの世界とは
彼の作風や考え方を知りたいと思い、ちょっとだけ、調べてみると、こんな発言が…。
「Macの画面上で「男」って漢字を倒したら『これはラグビーのアイコンになる』と思ったんです」
(出典:いずれも http://biz.toppan.co.jp/gainfo/cf/sano/p1.html)
もともとどこにでも転がっている「素材」をポンポンと配置するだけで、何かを表現しようとする作風とお見受けする。それゆえ、彼のデザインに使われている「素材」をネットで調べると、どこかに必ず存在するわけである。
この話を囲碁友達の先輩に話すと、
「そうなんだよな~。ぼくなんかマルセル・デュシャンのひっくり返った便座を初めて見たとき、中学生だったけどね。えらく感動した。あれって出来合いの便座を単にひっくり返しただけなんだよな~。ロイ・リキテンスタインのミッキーもいいね。」
とおっしゃる。
アンディ・ウォーホルくらいなら、僕だって、マリリンモンローの写真を(どれだけ並べれば気が済むんだみたいに)たくさん並べたのをさっと思い出すことはできますが、なにげにマルセル・デュシャンやロイ・リキテンスタインを引き合いに出すところが、この先輩のちょっと怜悧なところ。
the Roy Lichtenstein Foundationなんかを訪ねると、ネットが普及した世界に住んでいる幸せを感じます。
で、既存のものを組み合せたり、見る角度を変えたりする作法は、ポップ・アートの世界では許される範囲というより、まさにポップ・アートの技法そのもの。素材が出来合いのものだからといって、決して非難されるものではないと言っていいのです。
ポップ・アートに似ている税法の世界
ところで、税法の世界はどうなのか。これが、意外にポップ・アートに似ている。
なにしろ、税務署長は、税法の「課税要件に合致する事実」を確認するだけで、お金を容赦なく徴収することができる。芸術家がありきたりの素材を組合せてアートを作ってしまう世界と似ていなくもない世界。
この世界を形造っている「素材」は、法律や施行令、施行規則。加えて、意外にくせものなのが「通達」。
我々が接する通達は、法令解釈通達と言われるもので、国税庁長官が行った税法の解釈を示しているもの。通達は、本来、上級行政庁から下級行政庁に対する命令・指示を明らかにするもので、裁判所や納税者を拘束するものではないのですが、現実には、意外に拘束性があるのです。
たとえば、相続税の実務で、なくてならない財産評価通達。これについて裁判所はこんなことを言っているのです。
(大津地裁平成9年6月23日、東京地裁平成11年3月25日、東京地裁平成24年3月2日)。」
以上です。(執筆者:田中 耕司)