FX投資は投機だ、またはFX投資そのものがギャンブルだと、様々な声があります。
ここでお話するのは、FX投資そのものがギャンブルか否かという話ではなく、FXの取引方法がギャンブル化しやすい傾向にある、という話です。
株投資にはないFX投資独特の「差金決済取引」について見ていきます。
目次
この記事の結論
差金決済取引という構造が投機行為を生み出す傾向にあります。投機行為を繰り返すと損失幅が広がる可能性がありますから、セルフコントロール術を培うことやスワップ運用に徹するなどの対策が重要です。
株式現物取引と違い、FXは差金決済取引

差金決済取引という言葉を聞いたことはあるでしょうか。FXは差金決済取引であり、株式現物取引における差金決済は金融商品取引法で禁じられています。
≪金融商品取引法第161条の2に規定する取引及びその保証金に関する内閣府令第10条≫
株式現物取引にはない、FX特有の取引方法「差金決済取引」とは何でしょうか。
差金決済取引とは、現物の授受を行なわずに、売買の差額で決済する取引のことです。
株式現物取引では、電子化された株券の授受によって取引が行なわれていますが、FX取引では外貨そのものの受け渡しはしません。外貨各レートを参照して売買を行ない、売りと買いの差額を決済しています。
たとえば、ドル円レートが119円のときに1万ドルを買い、120円のときに売ったとします。米ドルを1万ドル買いましたから取引額は119万円分で120万円分のドルを売ったことになり、売却益は1万円です。
しかし、実際には米ドル自体を売買したわけではなく、1ドル119円、120円というドル円レートに基づいてお金の受け渡しをしただけです。
ですから、FXでは資金さえあれば一日に何度でも取引を行なうことができ、取引対象が同一通貨であっても繰り返し売買することが可能です。
株式現物取引では、この差金決済取引が禁じられています。簡単にいうと、同一資金で同じ銘柄を重複して買うことができません。
たとえば、20万円の資金があり、A株を15万円で買ったあと同日内にA株を16万円で売りました。
証券口座の入金額は名目上21万円になっていますが(取引手数料等は考慮せず)、同日内にあらためてA株を買うことはできません。現物株の授受の関係上、同じA株を買えるのは3営業日後です。
ただし、21万円の資金で違う銘柄を買付けることはできます。まとめると、
○ A株を買う⇒A株を売る⇒B株を買う
資金範囲を超えて同一銘柄購入ができない株式現物取引ですが、同一資金で異なる銘柄を買うことはできます。
ちなみに、異なる銘柄に乗り換えて売買することをサーフィントレードと言います。ついでに覚えておきましょう。
差金決済取引が投機行為を生む心理

さて、株式現物取引では禁じられている差金決済取引が、FXではできます。端的に言うと、必要証拠金額がFX口座内に入っていれば、同一通貨を何度でも売買できます。
この「同一通貨を何度でも売買できる」というところに、投機行為を生む心理が隠れているのです。
たとえば、ドル円通貨ペアを取引したとします。ドル円レートが119円のときに1万米ドル買いましたが、新興国不安の影響で円が買われドル円レートは117円になってしまいました。
しかたなく117円のときに保有していた1万ドルを売却、損益は-2万円です。悔しい思いをしたものの、これ以上円高になることはないだろうと考え、あらためて米ドルを1万通貨買いなおしました。
その後ドル円レートは118円になり、獲得利益は1万円となりました。
米ドルを買い⇒米ドルを売り⇒米ドルを買い⇒米ドルを売り
以上のように、同一資金で同一通貨を対象とした取引ができるのがFXの特徴なのですが、もし損失を繰り返すと、「次こそは」 「次で挽回だ」と考えるのが人間の心理というものです。
損失を取り戻すことができれば良いのですが、往々にして損失を重ねます。興味深いデータがあるので、そちらを見てみましょう。
カブドットコム証券は2015年8月、自社のFX全口座を対象とした損益比率データを公表しています。

15年8月は中国発の世界同時株安と円高が発生したこともあり、損失を計上した投資家が多いことが関係していますが、それをふまえた損益結果はご覧の通り。
ドル円取引にいたっては、確定損失比率が30%以上に。次こそは損失を取り戻すと思っても、厳しい現実が待っていることを如実に表しています。
差金決済取引ができるFX。株式現物取引と比較して投資機会が多いことから、同一資金で同一通貨を何度でも取引できるのはメリットと言えます。しかし、「何度でも取引できる」というメリットが仇となり、損失幅を広げる可能性があるのです。
投資が投機に
株取引を含めた投資全般に言えることですが、投資対象商品を今買うべきかまたは売るべきか、何らかの根拠が必要です。テクニカル分析やファンダメンタル分析を行なうのはそのためです。
しかし、分析をろくに行なわず「次こそは利益を」という思い一心で投資をすると、いつの間にか投機的取引となってしまうのです。
株式現物取引ならば差金決済取引を禁止する規定があり、その規定が投機行為に歯止めをかける役割を担っています。しかし、上述したように、FXは差金決済取引そのものです。
差金決済取引という構造がデメリットとして作用してしまい、投機的取引を行なった結果、損失幅を広げてしまうことも。
セルフコントロールが欠かせない
FXを含めた差金決済取引を行なうとき、欠かせないのがセルフコントロールです。如何に自分を制御できるかが重要ポイントとなります。
具体的に言うと、客観的に取引行為を批評する能力や、自分の心理状態を冷静に判断する力が求められます。
一日内に何度も取引を繰り返すデイトレードは投機的取引に陥りやすい傾向にありますが、外貨を長期保有しスワップポイントをコツコツとためるスワップ運用ならば、腰を据えて “投資” ができます。
対策を立ててからFX取引を行ない、賢明・堅実な資産運用を心がけましょう。(執筆者:堀 聖人)