桜が咲き、入学のシーズンとなりました。
かわいい我が子や孫のために、教育資金を援助してあげたいとお考えの方も多いのではないでしょうか。
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銀行から勧められて「教育資金の一括贈与の非課税制度」を活用し、信託を行った人も少なくありません。
ただ、内容によっては、オトクになるどころか、むしろもらった側の負担になる可能性もあります。
目次
教育資金の一括贈与の非課税制度とは
教育資金の一括贈与の非課税制度とは、子や孫への教育資金を最大1,500万円まで非課税で贈与できるという制度です。
平成27年9月末時点で契約数は14万件超、信託財産設定額は1兆円近くになっています。
非課税枠が大きいこともあり、教育投資に熱心な世帯を中心に関心が集まっているようです。
ただし、以下の条件をクリアしないと非課税にはなりません。
・ 金融機関に教育資金非課税申告書を提出する
・ 受贈者の子や孫の年齢は30歳未満
・ 入学金や授業料などの教育費用が発生した場合は、受贈者がまず支払い、領収書などを金融機関に提出し専用口座からの支払いを受ける(ここで贈与行為が成立)
・ 受贈者が30歳になった時点で専用口座に残額があった場合、その残額については贈与税(暦年課税)が課される
・ ピアノなどの学校以外の習いごとについては500万円が非課税上限額
こういった要件や贈与者と受贈者の関係性や置かれた環境、贈与する金額などを考えると、むしろ非課税制度を使わず暦年課税制度で贈与したほうがいい場合もあります。
こんな場合は「暦年課税制度」がオトク
「非課税の枠が1,500万円も」と聞くと「そんなメリットの大きい制度なら使わなくてはもったいない!」と思うのが人間というものです。
ただ、一度冷静になると現実が見えてきます。
それは
「まだ幼くて将来どうなるかも分からないのに贈与することに意味があるのだろうか」
という点です。
さらに、「一度受贈者で払い出しをしないと贈与が受けられない」という制限がつくため、受贈者の年収や資産状況にあまり余裕がないのならば、そもそもあまり教育にお金をかけられないという状況にもなります。
こういったことから、次のような場合では、暦年課税制度を使ったほうがメリットはあると言えます。
・ 受贈者である子や孫が将来を自分の意思で決めるには早すぎるほど幼い場合
・ 受贈者自身あるいは受贈者の親の年収や資産状況が高額な教育費を自己負担できるほどの余裕がない場合
「やり方によっては500万円前後も」と書きましたが、これは暦年課税の非課税110万円の枠内で少しずつ贈与する方法を指します。
ただし、毎年定期的に贈与を繰り返すと連年贈与とみなされます。
つまり、1年間当たりの贈与額ではなく贈与した全体の金額を受け取る権利が贈与されたとみなされ、全体の金額について贈与税が発生することになるのです。
この場合、贈与のその都度贈与契約書を作成し、公正証書にしておくことが望ましいでしょう。
こんな場合は「教育資金の一括贈与の非課税制度」がオトク
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逆に次のような場合では、教育資金の一括贈与の非課税制度を使ったほうがいいでしょう。
・ 受贈者である子や孫が自分の将来の進学先や職業をはっきりと定めていて、その目的を果たすために高額な教育費がかかることが確実な場合
・ 受贈者である子や孫が15~20歳あるいは20代の場合
・ 受贈者自身やその親の年収や資産状況から高額な教育費を自己負担するだけの余力がある場合
たとえば医学部進学や美術・音楽系の大学進学、大学院進学、海外留学などを子や孫が希望している場合は高額の教育費がかかることが確実です。
また、ある程度の年齢になっていると、毎年の贈与では追いつかない可能性があります。
確実に使いきれる金額を目安に非課税制度を活用するとよいでしょう。
最後に
余談ですが、扶養義務者である親や祖父母が子や孫に出す教育費で通常必要と認められるものについては、最初から贈与税は非課税です。
この「教育費で通常必要と認められるもの」の範囲は、教育資金の一括贈与の非課税制度の項目をカバーしています。
つまり、「扶養する」、「扶養される」関係で活用するとかえってムダな手間が増えることになります。
メリットが大きい制度だからこそ、安易に飛びつくのではなく、ご自身の世帯の状況などを見ながら慎重に節税方法を検討してくださいね。(執筆者:鈴木 まゆ子)