目次
まず整理したいこと
「リアル相続」=どんな分け方でもよい。
「もめた時の相続」と「訳あり相続」=民法の法定相続分が基準
なのです。

遺産分割は、どうやって決めるのか
民法906条に
「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」
とあります。
民法で定める、法定相続分に縛られることはないのです。
つまり、相続人全員の合意さえ取れればどんな分割でもよいのです。
ましてや、法定相続分でない部分に贈与税がかかる訳でもありません。
ほとんどの「リアル相続で」では、相続人全員の合意で遺産分割が成立しています。
実際、20年近い私の実務経験で申告期限までに未分割だったのは、たった一件しかありません。
もっともストレスで痛風に悩みながらですが。
特殊事情のある相続とは
未成年の子がいる相続では、法定割合に縛られることがあります。
法定相続分に縛られ、困惑した相続案件
父が若くして亡くなり、相続人は母と子供二人でした。
子供の一人Aさんは19歳で未成年、もう一人の子Bさんは22歳でした。
未成年であるAさんは単独で法律行為ができません。
ですから、通常はAさんの親権者である母が法定代理人となる訳ですが、今回の相続では相続人である母と子Aが利益相反となり、第三者(特別代理人)を家庭裁判所に申し立てることとなりました。
申し立てには、遺産分割協議書(案)も必要です。
残された遺産は自宅の土地建物のみでした。
自宅の建物には住宅ローンがありましたが、幸いローンに付随していた生命保険にて完済できました。
家族で残された自宅を誰が相続するがいいか子供たちと話し合いましたが、二人の子の内どちらが家を継ぐかは決まりません。
そのため今回の相続ではとりあえず母が自宅を一人で相続する分割案を提出しました。

裁判所から連絡があり、「お子さんにまったく相続させないのはまずい」と言います。
もっともです。裁判所は未成年の子Aさんを守る立場です。
「でも、代償として渡す預金も母にはありません」と回答したところ、
「うーん、できれば法定割合に近いところにはしないと…」
と、ここで法定割合が出できたのです。
そうすると今回の場合、不動産を共有にするしか方法がなく、兄弟の共有は争族の原因になりやすく将来問題となる可能性があります。
何かよい方法はないか?
ふと、気づいたのが、1年待てば子が二人とも成人となり、特別代理人を立てなくても、遺産分割ができることに気づきました。
事案は、1年後、成人した子も含め全員の遺産分割協議で自宅は母が相続しました。
親から子へは、いずれ(通常はですが)流れます。
今回の民法改正は「配偶者の居住権」を保護するための方策として出されたとのことです。
週刊誌には「子供の相続分のために、住み慣れた家を売る必要がなくなった」とありますが、「ちょっと待った!」です。
もめてしまった場合には確かに「家を売る必要が」あったのですが、もめなければ、その心配はそもそもないのです。
まとめ
「もめていない相続」、「特殊事情のある相続」でなければ今回の改正は気にしなくてもよい話です。
実の母でなく(配偶者が再婚している等)、親と子でもめそうな場合です。
配偶者が認知症等で意思能力に問題がある場合(この可能性は誰にもあります)は裁判所に後見人等の申請する必要がでてきて、配偶者の居住権は活用できる制度となります。(執筆者:橋本 玄也)