2019年2月19日、最高裁判所で「不倫相手に対する慰謝料請求が認められない」という判決が出ました。
この結果だけを見て
と疑問を持たれた方もおられるでしょう。
実はこの判決によっても不倫の慰謝料請求ができなくなることはありません。
今回は、「不倫相手に慰謝料請求ができない」と判断した最高裁の判決の意味と不倫で慰謝料請求できるケースについて、弁護士がわかりやすく解説します。

目次
今回の最高裁判決の内容
まずは今回の最高裁判決がどのような内容だったか整理します。
原告の妻は2009年頃から不倫していましたが、原告ら夫婦はすぐには離婚をせず、不倫開始から約16年後である2015年に離婚しました。(不倫は15年ほど前に関係解消)
離婚後、原告は不倫相手の男性に対しても「離婚慰謝料」の請求をしました。
ところが最高裁は、不倫相手には原則として「離婚慰謝料」を請求できないとして、原告の訴えを退けました。

高等裁判所は原告の訴えを認めて不倫相手の男性に200万円の支払義務を認めていましたが、これが破棄されて訴えが棄却されました。
なお最高裁も、全面的に請求を認めないわけではなく「特段の事情」があれば不倫相手への離婚慰謝料請求の余地があるけれども、今回についてはそういった事情は見られないと判断しています。
不倫に関する慰謝料の仕組み
今回の最高裁判決では、なぜ不倫相手への慰謝料請求が認められなかったのでしょうか?
それを理解するためには不倫に関する慰謝料の仕組みを理解しておく必要があります。
不倫されたら配偶者と不倫相手に慰謝料請求できる
民法上、不倫は違法行為です。
法律用語で肉体関係を伴う男女関係(いわゆる「不倫」のことです。)のことを「不貞」と言いますが、不貞は民法第770条第1項第1号の離婚事由にもなっています。
そして不倫されると被害者は精神的に大きく傷つくので、不倫した配偶者や不倫相手に慰謝料請求できます。それが不倫慰謝料です。
不倫は、不倫した配偶者と不倫相手が2人の行為なので「共同不法行為」となるため、不倫した夫(妻)と不倫相手の両方に対して慰謝料請求できます。
配偶者と不倫相手の責任
不倫相手に対する慰謝料請求は、不倫という「不法行為にもとづく損害賠償請求権」です。
配偶者に対するものも基本的には同じ「不倫慰謝料」です。
一方、配偶者と「離婚する」ときには、不倫慰謝料だけではなく「別の請求権」が加わってきます。
それは「離婚に伴う慰謝料請求権で、「離婚慰謝料」です。
配偶者の不倫によって離婚になってしまった場合、被害者は大きく傷つきます。
そこで夫婦関係を破綻させられたことに対する慰謝料としての「離婚慰謝料」が認められます。
離婚慰謝料は離婚によって発生するものですので、不倫によって発生する不倫慰謝料とは異なります。
金額的には、一般的に不倫慰謝料より高額になります。
今回の最高裁の判決を理解するには、これらの「不倫慰謝料」と「離婚慰謝料」の概念を理解しておく必要があります。
慰謝料と時効

もう1つ、今回の最高裁の判決を理解するために必要な知識が「時効」です。
慰謝料請求権などの不法行為にもとづく損害賠償請求権には、時効が適用されます。
「損害発生」と「加害者」を知ったときから3年以内に請求しないと時効によって権利が失われてしまいます。
不倫慰謝料の場合には、不倫の事実と不倫相手を知ったときから3年で時効消滅します。
そこで不倫から長期間が経過していると、もはや時効によって不倫慰謝料の請求をできなくなってしまいます。
一方離婚慰謝料は、「離婚時」が損害発生時ですので「離婚時から3年間」請求可能です。
不倫からは10年や15年が経過していても、そのことが原因で離婚に至ったと認定してもらえれば、離婚時に慰謝料請求できます。
今回認められなかったのは「不倫相手に対する離婚慰謝料」
今回の最高裁の判決で認められなかったのは不倫相手に対する「離婚慰謝料」請求です。「不倫慰謝料」ではありません。
不倫慰謝料は時効にかかっていた
今回のケースでは「不倫から15年以上が経過していた」特殊性があります。
原告は2010年頃には「不倫を認識していた」と言いますから、不倫相手の男性に対する慰謝料請求権は、その3年後の2013年頃に時効消滅してしまっています。
そのため、原告が不倫相手に慰謝料請求をするには、「離婚慰謝料」を請求するしかない状況でした。
離婚慰謝料は不倫相手に請求できない
ところが離婚慰謝料は、「離婚に至らされたことによる慰謝料」ですから、本来夫婦間において発生します。
そして、離婚するか否かは、当然のことですが、原則として夫婦間で決められるべきものです。
そのため、最高裁は「離婚慰謝料」を不倫相手に請求することはできないと判断し、原告の訴えを棄却しました。
不倫相手に離婚慰謝料を請求できる特段の事情とは?
ただし最高裁も「特段の事情」があれば、離婚慰謝料であっても不倫相手へ請求する余地を認めています。
ここに言う特段の事情とは、具体的にどういったことが想定されているのでしょうか?
最高裁は「離婚慰謝料は不倫相手が不当な干渉をした結果、やむを得ず離婚したなどの事情があるとき」と述べています。
たとえば以下のような場合には不倫相手にも慰謝料請求できる可能性があると言えるでしょう。
・ 不倫相手が被害配偶者へ嫌がらせを繰り返し、被害配偶者が耐えられなくなって離婚を余儀なくされた
今回の事件では不倫は15年ほど前に関係解消されており、不倫相手が離婚を強く働きかけたなどの事情もみられないので「特段の事情」は認定されませんでした。
不倫慰謝料は請求可能だが、早めに請求すべき

以上のように、今回の最高裁の判決で判断されたのは「不倫相手に離婚慰謝料を請求できない」という点です。
「不倫相手に不倫慰謝料を請求すること」は否定されていません。
「不倫されたのに、不倫相手に慰謝料請求できなくなる」という心配は不要です。
ただし不倫相手に対する「離婚慰謝料」の請求は基本的に認められませんので、不倫慰謝料の「時効」は重要なポイントです。
不倫慰謝料は「不倫の事実」と「不倫相手」を知ったときから3年で時効消滅します。
配偶者と離婚しない場合には、不倫慰謝料を請求しないで様子を見ることが多いのですが、そうこうしているうちに3年の経過によって請求権が封じられてしまうおそれがあります。
その後の離婚の際、配偶者には離婚慰謝料を請求できても不倫相手には請求できなくなるおそれがありますので、不倫相手へ請求するか否かは、3年の時効経過前によく検討し、後悔しないような判断をする必要があります。
もしも自分1人でどう対応して良いかわからなかったら、弁護士に相談する方法もあります。
配偶者に不倫されて困ったら、一人で悩まずに周囲のサポートを受けながら、後悔しないように適切に対応を進めていってください。(執筆者:安部 直子)