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ネット検索で「銀行」と入力する

「銀行 金融商品」
「銀行 ノルマ」
といったワードが上位にヒットします。
これが何を意味しているのか、銀行員の私にはよくわかります。
「そもそもなぜ銀行が保険を販売するのか?」
今回はこうした疑問に、販売する側の銀行員としてお答えします。
「自分が販売する金融商品を、銀行員はどう思っているか?」といった点にも触れていきます。
銀行窓口で金融商品を勧誘された人、あるいはこれから勧誘されるかもしれないすべての人に参考になると思います。
銀行が金融商品を顧客にすすめる基準・優先順位とは?
低金利が続き預金と融資だけでは稼げなくなり、銀行はその活路を手数料収益に求めて、金融商品を積極的に販売するようになりました。
その結果として、元来銀行に安定・安心を求める顧客から、金融商品に関連した相談・苦情が相次ぐ事態になってしまいました。
現在、多種多様な金融商品がありますが、銀行はどんな基準・優先順位で商品を選んでいるかがポイントであり、現在銀行が抱えている問題も垣間見えてきます。
銀行員がすすめてくる金融商品は「銀行員の都合が優先」?
銀行員が販売する金融商品には「投資信託」、「個人年金(保険)」、「外貨預金」などがあります。
これらに共通するのは、価格や為替相場の変動により投資した元本(元金)も増減すると言う点です。
つまり「元本保証がない」ということで、ここが預金とは違うところです。
ただし預金もペイオフ対象外は保証されませんので、「元本保証がある」とは言い切れないところがあります。
元本保証がない金融商品を、なぜ銀行員はすすめてくるの?
どうして預金ではなく、金融商品なのでしょうか?
それは、
からです。
預金では利益を上げることができなくなった銀行、その社員である銀行員は、仕事として金融商品を販売しています。
銀行のために利益を上げること、それが個人の目標、すなわちノルマです。
銀行員1人のノルマは「半期で手数料を〇〇円獲得する」という内容が一般的ですが、何で手数料を稼ぐか…など細かい指定はされません。
なぜなら過度のノルマ至上主義が問題となっている金融業界では、
「半期で積立投資信託を100口座獲得しろ!」
といったように、金融商品販売をノルマにしてはいけないという自主ルールがあるからです。
もちろん、あくまで「明文化しない」というだけですが…そのいっぽうで銀行員に課せられるノルマは今も大きく、並大抵には達成できないのが現実です。
半期という限られた時間の中で、しかも非常に高い目標を達成するには、手っ取り早く少しでも手数料が高い商品を売る必要があります。
同じ手間と時間をかけるなら、銀行員が手数料の高い金融商品を選ぶのは必然でしょう。
課せられたノルマを消化するため、そしてプロセスは指図されないからこそ、銀行員は販売手数料の高い金融商品を選んで勧誘します。
銀行・銀行員の都合が優先され、顧客本位の営業体制とは程遠い実態が、そこには存在しています。
手数料が儲かる金融商品とはどんなもの?

全般的に金融商品は預金に比べて手数料率は高いものばかりです。
基本的にリスクが高いほど手数料率が高く「手数料が儲かる金融商品」と言えます。
「外貨建て」
「満期時に一括で貰わずに、年金形式で分割して受け取る」
商品の性質としては上のような種類、また一概には言い切れませんが投資信託より個人年金保険のほうが手数料は高い傾向があります。
金融商品の勧誘・説明で銀行員が「リスク」という言葉を使う時、この言葉は「変動」あるいは「可能性」という意味になります。
「投資対象には価格変動するものがあり、元本も増減する可能性がある。」これを銀行員風に表現すると → 「投資対象には価格変動リスクがあり、元本も増減するリスクがあります。」
さらに「お分かりいただけましたか? そうです、増えることもリスクなのです!」といった使い方もあります。
金融商品勧誘の大原則=適合性
銀行都合優先の勧誘がなぜ問題なのか? これを知るため、適合性の原則についてわかりやすく触れたいと思います。
金融商品には「顧客の意向と実情に適合しない勧誘をしてはならない」という大原則があり、これを適合性の原則と呼びます。
顧客保護のため金融商品取引法(略して金取法)や、金融商品販売法(金販法)といった法律で定められています。
顧客の意向「ニーズ」
定期預金を作りたい
顧客の「定期預金を作りたいという意向」場合、銀行は顧客の意向に沿って定期預金を作成すれば、顧客の意向に適合します。
「預金を作ろうとしたのに、いつのまにか投資信託を契約させられてしまい、その事実にも気づいていなかった」となれば、顧客の意向に適合しない勧誘です。
顧客の実情「事情」
子供の学費用として3年満期の定期預金を作りたい
顧客の「3年後に使うという実情」の場合、銀行は意向に沿って3年定期を作成すれば、顧客の実情に適合します。
「使う予定があると伝えたのに、10年満期の個人年金を契約していた。問い合わせたら、3年後に解約すると損をする、と言われた」となれば、顧客の実情に適合しない勧誘です。
金融商品販売のトラブルについて

金融商品と銀行をめぐる話題の説明をしてきましたが、「銀行で販売する金融商品は全部がダメなわけではない!」ということは強く申し上げたいです。
商品がたくさんあれば、その商品に合う=適合する人も必ずいます。
銀行で契約したが満足・納得している人もいるのです。
しかし銀行都合優先の勧誘、説明や対応に疑問を感じてしまうケースがあることも事実です。
私は銀行の金融商品を全否定するものではありません。
銀行で販売する金融商品は全部がダメではありません。
投資・運用は最終的に自己判断するものです。
そのことも念頭に置いたうえで、適合性の原則と銀行都合の「せめぎ合い」とも言えるトラブル事例をいくつか紹介します。
【事例1】元本保証で利率が良い商品と説明されて契約したが、一時払い終身保険だった
10日程前、銀行の窓口に出向いたら、担当者より「誕生日プレゼントを渡したい」と言われ、2階へ案内された。そこで別の担当者から「3年経過すれば利息が出て、しかも元本保証」という商品を勧められた。数年前に別の金融機関で勧められるまま投資信託の契約をし、損失を出した経験があり、預金以外は契約しないと窓口の担当者に何度も伝えていたので、預金のつもりで契約した。通帳を持っていないと言うと、通帳を取りに行くついでという理由で担当者が車で自宅まで送ってくれた。
自宅に保険証券が届き、初めて生命保険の契約だったとわかった。銀行で生命保険を勧誘するとは知らなかった。解約したい。
(2011年10月受付 2011年9月契約 契約者:70歳代 女性 家事従事者 石川県)【事例2】震災のためすぐに使えるお金が必要という消費者の意向とかけはなれた契約
今までの預金を定期にしようと銀行に出向いたところ、「こっちのほうが得」と5年過ぎると少し利息がつくという商品を勧められた。その時は定期預金の一つと思ったので、書類を書いて手続きした。
しばらくして届いた証書を見ると、一時払い終身保険契約であることがわかり、保険料を500万円分支払ったことになっていた。保険に入った覚えはなかったため、とても驚いた。震災で壊れた屋根の修理や病院代などすぐにお金が必要だったので、解約をしてほしいと銀行の担当者に伝えたが、「今解約すると20万円の損になる」と言われた。支払ったお金を全て返してほしい。
(2011年11月受付 2011年3月契約 契約者:80歳代 女性 無職 福島県) 独立行政法人国民生活センター
銀行員は自分で投資しないの? できないの?
「嫌われ者」は言い過ぎでしょうが、何かと世間の耳目を集めるのが銀行員です。
銀行員自身の資産運用はどうなっているのでしょう?
銀行で販売する金融商品については、
・ 本音ベースで「しない」
これが今の実態です。
規則で「できない」(してはいけない)
以下の2つの理由で禁止されているからです。
(1) 会社の規則で禁止されている
「銀行員たるもの貯蓄に励み、投機は厳に慎むべし」
これはある銀行に伝わる社訓のようなものです。
なにやら古めかしい文ですが、要するに銀行員は投機行為を禁止されていると言うことです。
株式投資や商品先物の損失を穴埋めするため顧客の預金を着服したり、不正融資に手を染めたり…投機を原因とした不祥事を防ぐという趣旨です。
ここでいう「投機」とは不確実なものを指し、株式・商品先物・不動産なども含まれます。
「預金以外すべて投機」
こうしたかなり強引な定義から、現実にほとんどの投資、運用を銀行員は禁止されています。
どれほど魅力的な金融商品でも銀行員は自分で投資ができません。
また家族名義での投資も禁止されています。
こちらは借名、贈与など別の問題にも発展しかねないので、そのように危ない橋を渡ってまで投資する銀行員はいません。
(2) 商品の規則で禁止されている
商品自体の「販売担当者は購入禁止」といった規則で禁止されています。
これはリスク商品の性格上、勧誘する側・される側の垣根を明確にすべきという考えから来ています。
また「構成員契約」(企業の力関係で圧力販売を防止する観点から、系列企業など密接な関係にある企業の従業員=構成員には販売を禁止している)の規制から、銀行員自身が構成員に該当するため保険第1分野の個人年金・生命保険は販売禁止となっています。
本音ベースで「しない」(したくない)
顧客にはリスクのある金融商品を販売していながら、銀行員の多くは資産運用に保守的です。
禁止されていることも理由の1つではありますが、それを別にしても銀行員は安全・確実を好みます。
本音では「投資したくない」人間が多数を占めているのです。
自分自身の貯蓄は定期や財形などの預金だけです。
制度上投信なども選択可能な401Kなど企業年金でさえ、元本保証の積立預金タイプを選ぶ人間がほとんどです。
投資が好きな銀行員はどうしているの?
禁止されているし、そもそも投資が嫌いな銀行員多いです。
しかし中には投資大好き人間もいます。
こうした銀行員はどのように資産運用しているのでしょうか?
サイトでは「銀行員は投資が好きで、アパートやマンションなどの不動産投資で資産を増やしている」などと書かれたものがありますが、私には理解できかねます。
規則で禁止されているので、勤務する銀行でローンを借りて不動産投資することなど、不可能です。
現金(キャッシュ)で物件購入しても、不動産賃貸収入を確定申告しなければならず、副業禁止が多い銀行にバレて、最悪解雇されてしまう危険性もあります。
勤務する銀行で融資して貰えないからと、ライバル銀行に融資相談をする銀行員がいます。
この場合は、丁重にお断わりします。
物件や、収入・返済能力といった審査以前に、自分が勤める会社の規則を破り、内緒でライバル銀行に借金を申込むような人間とは付き合いたくないからです。
もともと内緒で相談に来ているので、断わってもトラブルに発展することなどまずありません。
審査などせず、遠慮無く断わります。
銀行員にはノルマがあることを忘れずに!
「銀行で販売する金融商品は全部がダメなわけではない!」
相反する内容ですが、両方とも私は本気でこう考えています。
大事なことは、あなたが銀行で金融商品の勧誘を受けた時、その背景に何があるか? 今回の内容に思いをめぐらせて欲しいということです。
投資・運用は最終的に自己判断するものだからこそ決断するには慎重に慎重を重ねて、良く考えてください。
考えても結論が出せない時、あるいはもう断わって帰りたいと思った時に、銀行員を黙らせる必殺フレーズを、今回のまとめとして最後に教えます。
勧誘をうまく断わる ~銀行員を黙らせる必殺フレーズ~

迷っても結論が出ない時、あるいは断わっているのになかなか帰して貰えない時、
銀行員にこう聞いて下さい。
「じゃあ あなたはこれを買いますか?」
すると銀行員は逃げ口上で「私どもは規則で買うことができませんので」
と答えてきたら、こう切り返しましょう
「それなら、もし規則で禁止されていなかったら、買いますか?」
銀行員はきっと答えに詰まると思います。(執筆者:加藤 隆二)