2015年の相続税法改正以来、少子高齢化もあいまって相続税に関心を向ける人が増えました。
よく知られている相続税の制度のひとつが「相続開始前3年以内の贈与財産の取り扱い」です。
ただ、この制度はきちんと理解していないと痛い目に遭うことになりかねません。
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目次
相続開始前3年以内の贈与を相続財産に加算する「生前贈与加算」とは
相続開始前3年以内、つまり被相続人が亡くなった日からさかのぼって3年以内に行われた贈与で、贈与税の暦年課税制度の対象となる贈与は、相続税の申告の際、相続財産に加算しなくてはなりません。
この制度を「生前贈与加算」といいます。
生前贈与加算でいうところの「暦年課税制度の対象となる贈与」で混乱するかもしれませんが、相続時精算課税選択届出書を提出していなければ該当すると考えてOKです。
つまり、一般的な多くの贈与が該当します。
ここまでは相続税に関心のある多くの方が認識していることでしょう。
ただ、「税金が発生するもの = 申告書を提出するものについて注意が必要」というイメージが前提にあるためか、相続税や贈与税が発生しないケースでうっかりミスが発生するおそれがあります。
「生前贈与加算」で注意しておくべきポイント3つ
では、生前贈与加算でうっかり見落としやすいポイントとはどのようなものでしょうか。
大きく分けて次の3つです。
ポイント1. 贈与税額0円でも加算しないといけない
相続開始前3年以内の贈与というと、110万円を超えるような高額贈与がイメージされがちです。
しかし、「贈与税額0円」つまり1年間の贈与額が110万円以下であるような贈与についても加算対象です。
贈与税が発生しなくても贈与は意識しなくてはならないのです。
ただし、親から子への仕送りなど、扶養義務者が生活費や教育費として贈与された財産で日常生活に必要と認められるものは除きます。
ポイント2. 相続開始と同じ年であっても「贈与」として処理すること
さらに、相続開始の年つまり被相続人が亡くなった年に贈与された財産も加算対象です。
はダメなのです。
贈与財産として区別したうえで、相続財産に加算しなくてはなりません。
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ポイント3. 相続時精算課税制度の適用がある場合は2つ注意
生前贈与加算の対象となる財産はあくまでも暦年課税制度の対象となる贈与財産です。
相続時精算課税制度の適用を受けた贈与ももちろん相続財産に加算するのですが、別の処理が必要です。
また、以下の事例のように、今回の相続で取得した財産がなかったとしても、相続時精算課税制度の適用を受けた贈与財産がある場合には、生前贈与加算が必要です。
【相続開始日】2019年12月31日
【暦年贈与課税制度の適用を受けた贈与が行われた日と金額】2017年10月31日、100万円
【相続時精算課税制度の適用を受けた贈与が行われた日と金額】2018年11月30日、1000万円
【相続・遺贈で取得した財産】0円
この場合、一見相続税の対象外に見えますが、相続時精算課税制度の適用がある以上、1,000万円の贈与につき、相続税の申告書を提出しなくてはなりません。
この事例における生前贈与加算の対象期間は2016年12月31日から2019年12月30日までとなるため、2017年10月31日に贈与された100万円を加算することとなります。
加算対象外の贈与も把握しよう
なお、次の贈与は相続開始前3年以内であっても、相続財産への加算は必要ありません。
(1) 贈与税の配偶者控除の特例の対象となる贈与財産のうち、配偶者控除額に相当する金額
(2) 被相続人から生前贈与された住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
(3) 被相続人から一括で生前贈与された教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
(4) 被相続人から一括で生前贈与された結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額
細かい配慮が必要な「生前贈与加算」
単純そうにみえて実は細かい配慮が必要な「生前贈与加算」は、申告・納税という手間がかかっていないとなかなか意識されません。
相続税の申告時には注意したいところです。(執筆者:鈴木 まゆ子)