6月中旬に世界的な格付け機関である「スタンダード・アンド・プアーズ」(通称「S&P」)が日本の格付け見通しの引き下げを行いました。
従来は「ポジティブ」とされていた見通しが「安定的」に引き下げられたことによって、市場への影響がどのようになってくるのかを気にされている方は多いのではないでしょうか。
そこで、今回の記事では格付け見通しの引き下げの背景と市場に与える影響を簡潔に解説していきます。

目次
「格下げ」ではない
まず注意してほしいのは、今回の格付け見通しの引き下げというのは「格下げ」ではないということです。
現在、スタンダード・アンド・プアーズが日本の長期債・短期債に付与している格付けはそれぞれ「A+」と「A1」です。
今回の引き下げはあくまで「格付け見通し」の引き下げです。
そのため、格下げが行われたと勘違いをしている方が一部にはいらっしゃいますが、間違わないよう注意しましょう。
引き下げの背景
格付け見通しの引き下げが行われた背景として、スタンダード・アンド・プアーズは「財政状況の悪化」を挙げています。
以下では、財政状況の悪化がなぜ格付け見通しの引き下げに繋がったのかを簡潔に解説していきます。
財政状況の悪化
見通しの引き下げが行われた理由は、「財政状況の悪化」です。
日本は従来の状況においても、政府債務の残高が非常に大きいことが格付けのマイナス要因として評価されていました。
そのような状況の中で新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本政府は非常に大規模な財政政策を行うことを表明しました。
その規模は過去に例を見ないほどに膨れあがり、第2次補正予算は全額が国債の新規発行によって賄われることが発表されました。
国債が新規に発行されるということは、国が抱える借金(=政府債務)が膨らむということです。
つまり、日本の財政状況が悪化するということに直結します。
また、日本は高齢化や長期にわたる低インフレを背景に、財政状況の飛躍的な改善が難しいとされています。
2020年度の純債務残高のGDP比率は昨年度から大幅に膨らむことが予想されているため、このことが今回の格付け見通しの引き下げに繋がりました。
今後の格下げは

格付け見通しの引き下げは「格下げ」ではないということは先ほど説明した通りです。
一方で、今後格下げが行われる可能性があるのか、このことについて少し考えてみたいと思います。
格付け引き下げの可能性について、スタンダード・アンド・プアーズの関係者がブルームバーグ社のインタビューに答えており、
と述べています。
日本の2020年の第1四半期の経済成長率は大幅なマイナス成長に転じており、第2四半期についてもマイナス成長が継続することが予想されます。
第3四半期以降に経済成長は急激に回復していくことが市場関係者の間では見込まれていますが、新型コロナウイルスの2次感染が拡大する事態になれば、この成長シナリオが崩れる可能性は十分にあります。
そのため、「経済成長トレンドが急激に鈍化」することで日本の格付けが引き下げられる危険性があるということは十分に留意しておく必要があるでしょう。
市場への影響
結論から書きますと、今回の格付け見通しの引き下げが金融市場に与える影響はほとんどありませんでした。
格付け見通しの引き下げを受けた株や為替、金利の変動幅はほとんどゼロであったと言っても過言ではないでしょう。
その理由は、あくまで見通しの引き下げであり、格付けの引き下げが行われたわけではないからです。
と考えても問題ないと思います。
ただし、先ほど述べたとおりの事態が発生して格下げが行われるような状況に陥ってしまった場合には、市場に大きな影響を与えることとなります。
「格下げ=日本の信用力が低下する」ということになりますから、日本の国債が売られる可能性が高くなります。
国債が売られるということは金利が上昇します。
金利が上昇すると円は買われることになるため、円高に推移してしまいます。
円高になると日本の輸出企業にとっては不利な条件となるため、株式市場の下落に繋がります。
つまり、格付けの引き下げが行われると以上の様なつながりが市場関係者の間で瞬間的に連想され、株式市場の大幅な下落に繋がる可能性は非常に高くなるのです。
「格付け見通し」の引き下げ自体に対して市場は大きな反応を見せませんでしたが、その先の「格付け」の引き下げが以上の様な事態を招くということは把握しておきましょう。
格付け引き下げのリスクに注意
以上、スタンダード・アンド・プアーズによって行われた格付け見通しの引き下げについて、市場に与える影響も含め解説しました。
結論としては、市場に与える影響はほとんどないというものでしたが、その先にある「格下げ」というリスクには十分注意を払っておくようにしてください。(執筆者:日本証券アナリスト協会認定アナリスト 草山 拓也)