「国民年金基金」という言葉から、セカンドライフに向けた制度であることはイメージできますが、具体的にはどのような制度か知らないことが多いです。
「個人事業主はこの国民年金基金に加入すべき?」という部分も含めて、どのような制度かを見ていきましょう。
目次
国民年金基金は国民年金の任意の上乗せ制度
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国民年金基金は、国民年金第1号被保険者ならびに65歳未満の任意加入被保険者(※)などが対象です。
したがって、個人事業主・個人事業主の配偶者の方が中心となる制度です。
会社員・公務員、会社員・公務員の被扶養配偶者は対象外です。
個人事業主のセカンドライフの公的年金は、多くの場合は国民年金からの老齢基礎年金のみです。
それだけではセカンドライフの生活費を補うのが難しいため、国民年金の上乗せとして任意で加入する制度です。
加入手続きは全国国民年金基金の都道府県ごとの各支部が窓口です(職能型を除く)。
なお、国民年金第1号被保険者であっても、
・ 国民年金の保険料を免除(一部免除・学生納付特例・納付猶予を含む)されている方
・ 農業者年金の被保険者の方
は、国民年金基金に加入できません。
(※)任意加入被保険者:60歳までに老齢基礎年金の受給資格を満たしていない場合や、40年の納付済期間がないため老齢基礎年金を満額受給できない場合などで年金額の増額を希望した人は60歳以降でも国民年金に任意加入できる制度。
参照:国民年金基金(全国国民年金基金)
掛金は全額が社会保険料控除の対象
毎月支払った国民年金基金の掛金は国民年金保険料と同じように、掛金の全額が支払った年の社会保険料控除の対象となり、所得税や住民税が低くなります。
国民年金基金の掛金の上限額は月額6万8,000円です。
iDeCo(個人型・確定拠出年金)と併用して加入する場合でも、国民年金基金とiDeCoの掛金合計額はこの金額が上限です。
選択する将来受け取る年金の種類ですが、1口目は、終身年金A型またはB型のどちらかを必ず選択をする必要があります。
2口目以降は、終身年金A型、b型または確定年金*1型、2型、3型、4型、5型の7種類の中から自由に選択できますが、確定年金の受け取り年金額は、終身年金の受け取り年金額を超えることはできません。
したがって、国民年金基金は、将来受け取る年金をすべて終身年金(一生涯)にすることも可能です。
人生100年時代と言われるように長寿社会においては、心強い味方です。
また、掛金により将来の年金給付額は確定していますので、セカンドライフのライフプランを計画しやすいのも利点です。
*1型、2型、3型、4型、5型は、正式にはローマ数字で表記
国民年金基金のデメリットは何か?
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加入後は原則、途中で脱退ができない
国民年金基金の加入後は、下記の加入資格の喪失に該当しない限り、自分の都合で任意に脱退・中途解約はできません。
また、掛金として支払ったお金を引き出すこともできません。
なお、加入後も掛金の増額・減額をすることは可能です。
減額しても掛金の支払いが難しい場合には、掛金の払い込みを一時中断することも可能です。
加入後の国民年金基金の加入資格の喪失(主なもの)
・ 60歳になった時(国民年金に任意加入の場合は65歳になった時)
・ 会社員になった時など国民年金の第1号被保険者でなくなった場合
・ 該当する事業または業務に従事しなくなった時(職能型基金の場合)
・ 国民年金の保険料を免除(一部免除・納付猶予などを含む)された時 など
インフレに対応できない
国民年金基金の加入時の予定利率は、その後予定利率が変更になった時でも最後まで変更されません。
これは、もし、将来インフレなどで世の中の運用利回りが高くなった時でも変更されないことを意味します。
将来に受け取ることができる年金額は決まっていますが、もし、インフレや物価上昇になった場合でも同じ年金額ですので、結果として目減りします。
予定利率は以前よりも低下している
定期預金や個人年金など利率は以前よりも低下していますが、この国民年金基金も例外ではありません。
設立当初は5.5%あった予定利率は、現在では1.5%にまで低下しています。
したがって、以前よりも予定利率の面では魅力が薄れています。
国民年金基金はどのように活用するのか?
掛金は全額が所得控除の対象になることから、節税効果を理由に加入されている方も多いでしょう。
さらに、受け取る年金も終身年金を中心としており、長生きリスクに備えられます。
自分で運用するのが苦手または興味がないという場合には、選択の1つに挙げられます。
しかし、加入後は、自分の都合で任意に脱退・中途解約はできず、積立金を引き出せません。
もし、所得控除による節税効果にのみに目を奪われてしまうと、今回の新型コロナウイルスの感染拡大のように、事業への影響があった場合には資金繰りや事業の継続に影響が出てしまいます。
したがって、節税効果と手元に残しておく資金をバランスよくしておく必要があります。
また、給付額が確定していますが、インフレには対応できません。
そこで、インフレリスクに不安を持つ場合で、かつ自分で資産運用の経験や興味がある場合には、iDeCo(個人型・確定拠出年金)を選択するのも1つです。
なお、このiDeCoも積立金を途中で引き出せません。
セカンドライフの準備ももちろん大切ですが、60歳まで引き出せないなど、自分の金融資産の大部分に手錠をかけてしまうような行動は、目の前のもしもの時に資金計画を狂わせてしまうこともあります。
そこで、NISAやつみたてNISAと国民年金基金を併用することも考えられます。
NISAやつみたてNISAは収益が非課税となるだけで所得控除などの節税効果はありませんが、いつでも売却して換金できます。
それぞれの制度において、メリットとともにデメリットもありますので、1つの制度の一択ではなく、複数の制度を利用するのも、先が見えない時代だからこそ必要な考え方になっています。(執筆者:CFP、FP1級 岡田 佳久)