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子どものいない夫婦の「相続手続き」

お互い初婚
2人の間に子供なし
75歳でこの世を去った夫が残した財産は田舎に買った家と土地ぐらいで、預貯金はそれほどないが田舎で生活するには年金だけでも十分だった。
妻は70歳でまだまだ元気で、1人の生活もやっと落ち着いた頃、葬儀で軽く挨拶をした程度だった夫の妹(73歳)から連絡があった。
妹は相続について詳しく調べている様子で、法定相続分がどうのとか、お金がなければ不動産を売却して用意して欲しいとか言っている。
妻には夫名義で買った田舎の家と土地それ以外にわずかな現金しかなかったが、夫の妹に財産を渡さなければいけないのだろうか?
見解
特に相続の対策をしていない状況であれば、被相続人である夫の財産は、配偶者である妻が3/4、夫の妹が1/4相続する権利があります。
これは民法でいう「法定相続分」という割合になります。
もちろん法定相続分があっても、妻と妹の間で「遺産分割協議」を行い双方納得すれば、妻が全財産を相続することも可能です。
通常は妻と妹の2人で遺産分割協議を行い「遺産分割協議書」を作成したのち、不動産の名義変更や銀行口座の解約などの手続きに移ります。
もし、妹が法定相続分の1/4にあたる金額を希望する場合、妻は不動産や預貯金の総額から1/4相当の財産を妹に手渡す必要があります。
状況によっては不動産を処分して工面する必要も出てくるかもしれません。
夫と2人の終の棲家と思い買った、思い出の土地や建物も手放す羽目になる可能性もあります。

対策:妻は生前にどうしたらよかったのか
1番の解決方法は、夫が「妻に全財産を相続させる」旨を記した「遺言書(ゆいごんしょ・いごんしょ)」を残して置くことです。
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」等の方式がありますが、いずれにしても被相続人(夫)の兄弟姉妹には「遺留分」という遺言書よりも優先して相続することの権利が認められていないため、遺言書に「妻へ全財産を相続させる」と書いておけば、夫の妹は遺産分割を主張できませんでした。
実際の場合では家庭裁判所等での手続きを踏まえたうえでの対応となります。
また、今回のケースで夫が亡くなった際に、夫の親が存命だった場合は、妻が2/3・夫の親が1/3となる法定相続分が決められています。
さらに被相続人(夫)の親には遺留分も認められているため、遺言書でも妻に全財産を相続させることはできず(ただし、親がその内容に納得した時は可能)、遺産分割協議の場で妻と夫の親が話し合いをして決めることとなります。
公正証書遺言の特徴
・ 本人が公証人の前で口述して公証人が遺言書を作成するので、内容が明確で証拠能力が高く、安全安心な遺言である。
・ 公証役場で保管されるため偽造の危険がなく、家庭裁判所での検認手続きが不要
【デメリット】
公証役場での手続きが必要なため、手続きが煩雑なこと
2人以上の証人が必要となること
公証人と証人が遺言の内容を知っているため、秘密漏洩の可能性があること
公証人の手数料が必要になること
などです。
公正証書遺言作成にかかる費用
基本的には、公証役場手数料+専門家報酬(弁護士等)です。
専門家を通さないで公証役場で手続きすることも可能ですが、公証人とのやり取りや証人の手配などが必要となります。
公証役場へ支払う手数料は、財産額と相続人の人数により変化しますが、数万~10数万円程度が多いかと思われます。
遺言作成業務の専門家報酬は弁護士で10~20万円、司法書士・行政書士で5~10万円ぐらいが相場かと思われます。
なお、遺言執行の業務は、別料金が必要になることがほとんどで、価格設定は財産総額の〇%のようになっていることが多いです。
自筆証書遺言の特徴
1人で、いつでもどこでも作成することができ、遺言した事実やその内容も秘密にできます。
費用は筆記用具程度ですみます。
【デメリット】
原則全文自筆が条件(パソコン・録画・代筆は不可で、本人が自筆で書き押印をする必要があります)
詐欺や脅迫、紛失や遺言書の存在に気が付かれない
変造や隠匿などの危険性がある
書き方に法律上の不備があって、遺言自体が無効になる可能性や、内容が不完全で紛争の原因になる可能性がある
相続開始後に、家庭裁判所での検認手続きが必要となります。
自筆証書遺言作成にかかる費用
基本的には筆記用具の費用だけです。
最近は書店で遺言書作成キットも販売されていますが、それでも数千円で購入できます。
また、自筆証書遺言の草案作成してくださる専門家(弁護士等)もいらっしゃいます。
その際の費用は、上記の公正証書遺言にかかる専門家報酬と同等か少し安い程度になります。
自筆証書遺言の保管制度

2020年7月10日から新たに自筆証書遺言保管制度が始まります。
概要だけお知らせいたします。
今まで自宅や貸し金庫で保管されることが多かった自筆証書遺言ですが、遺言書の紛失や亡失、改ざんや隠匿のおそれがありました。
これらの問題点を解決するために、これからは法務局で自筆証書遺言を保管するサービスが開始されます。
窓口で遺言の内容や書き方の相談は出来ませんが、以下のようなメリットが考えられます。
1. 法的に形式上の不備がないかを確認してもらえる。
2. 遺言書が安全に保管できる。被相続人の死後、相続人から確認の請求ができる。
3. 相続人の1人から確認の請求があった際は、その他の相続人全員に通知がなされる。
4. 家庭裁判所での検認が不要になる
保管にかかわる手数料は初回に3,900円のみになります。
その後、何年間保管しても費用は掛かりません。
子供のいない夫婦間で相続が発生した場合は遺産分割が複雑になり、親族間でのトラブルに発展する可能性もあります。
終活などを考えた際は、早めに専門家へ相談することをお勧めします。(執筆者:行政書士 風見 哲也)