病気や事故など、いつ何が身に降りかかるかわからない現在、またコロナ禍が続き、誰もが心のどこかで「死」を意識しなければいけない状況が続いています。
今回は住宅ローンを借りている人が死亡したら、残された人がどうすべきかについて、実際に手続きをしてきた銀行員が解説します。
※団体信用生命保険の種類や、金融機関によって契約内容、手続きは異なります。
ここで紹介するのは一般的な例なので、ご自身の取引している金融機関にかならず確認してください。
目次
住宅ローンの団体信用生命保険とは
住宅ローンで、ほぼすべての人が加入する団体信用生命保険は、銀行が債務者(住宅ローンを借りている人)に保険を掛けて、債務者が死亡した場合に死亡保険金を受け取ってローンの返済に充てます。
団体信用生命保険の仕組み

たとえば死亡保険なら
・ 保険契約者(保険を契約した人=掛け金を支払う人)は本人
・ 被保険者(保険をかけられた人)も本人
・ 保険金受取人(死亡保険金を受け取る人)はパートナーや子供など保険契約者が指定した人
このような関係がよくあるパターンです。
これが住宅ローンの団体信用生命保険になると、少し関係が変わってきます。
この保険は、銀行等金融機関またはノンバンク(以下、「金融機関等」といいます)を保険契約者および保険金受取人とします。
金融機関等からローンをお借入れになるお客さまを被保険者とし、被保険者が債務返済期間中に所定の支払事由に該当した場合に支払われる保険金を債務の返済に充当するしくみの団体保険です。
団体信用生命保険と一般の生命保険で最も違うところは、ローンを借りている人が保険料を支払っていく点です。
実際は毎月の返済額に保険料が含まれています。
生命保険では「被保険者」「保険契約者」など似たような用語が登場しますので、ここで整理してもらおうと、あえて上記を引用しました。
団体信用生命保険で保険金が支払われるとき
ローンの団体信用生命保険で保険金が支払われた場合は、自動的に住宅ローンを完済して終わりです。
銀行がお金を受け取るのではなく、また原則として保険金が余るようなことはないので、以後この記事では「保険金が支払われる → 住宅ローンが完済されてなくなる」とイメージしてください。
団体信用生命保険で保険金が支払われる(保険事故などとも呼びます)のは主に以下2つの場合です。
2. 債務者が所定の高度障害状態になったとき
※これは一般的な団体信用生命保険のケースです。ガン、特定疾病保障などの特約がある場合は対象となる事由がちがいますのでご注意ください。
1. 債務者が死亡したとき
病死、事故死など死亡した原因に関わらず、同様に死亡保険金が支払われます。
ただし死因によって注意点がありますが、こちらは後半で触れます。
2. 債務者が高度障害状態になったとき
「高度障害状態」とは主に以下のような状態になった場合を指します。
【別表1 高度障害保険金の支払対象となる高度障害状態】
①両眼の視力を全く永久に失ったもの
②言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
③中枢神経系または精神に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
④胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
⑤両上肢とも、手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
⑥両下肢とも、足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
⑦ 1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
⑧1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの 引用:auじぶん銀行(pdf)
団体信用生命保険の請求手続きからローン完済まで
団体信用生命保険の請求方法を、ローンを借りていた人が病死したケースで解説していきます。
※カッコ内の数字はおおよその所要日数です
1. 銀行へ連絡(なるべく早く)
銀行への連絡はなるべく早くしてください。
連絡が遅れると、団体信用生命保険の手続きも遅くなり、不都合も生じる可能性があるので注意が必要です。
死亡や高度障害になったことを連絡すれば、銀行は直ちに請求の手続きの準備に入ります。
大事なのは残された家族の人から申し出があったという点です。
当然ですが、死亡したことなど銀行が事前に知るようなことはなく(有名人や著名人の場合は報道で知る場合もあります)お客様側から連絡がない限り、保険金の請求はおこなわれません。
2. 提出書類の準備(数日から数週間)
保険金の請求に必要な書類は主に以下の通りです(一般的な団体信用生命保険の場合)
保険金の請求に必要な書類(一般的な団体信用生命保険の場合)
・ 死亡診断書、死体検案書、医師の診断書(高度障害の場合)
・ 死亡した人の住民票(死亡した記載があるもの、通常は世帯全員の「住民票謄本」)
・ 保険金の支払請求書(申込書、申請書など)*金融機関で準備します
ただし死亡診断書や死体検案書は、時間がかかる場合もあるので注意が必要です。
3. 請求手続き(1日)
銀行に必要書類を出し、当日数枚の書類に署名捺印するくらいなので、原則1日で終わります。
4. 保険金支払い(1週間から3週間)
銀行と保険会社の手続きです。
書類や死因に問題なければ事務的に進みますので、この段階で銀行から連絡がなければ、基本的にあとは待つだけです。
5. ローンが完済になったあと(準備が必要)
ローンがなくなったあとは、担保(抵当権)の抹消手続きが必要になります。
この手続きは、相続して不動産の名義が変わってからでなければできません。
担保がついていても、借金が残っていなければあまり不都合はありませんので、不動産の名義変更などの手続きと一緒に、司法書士に依頼するといいでしょう。
死亡診断書と死体検案書の違い
一般的に、病死や老衰など不審な点がない死に方(自然死などと言います)なら死亡診断書を医師が作成します。
いっぽう事故や自殺、あるいは事件など不審な点がある場合には「死体検案書」となります。
死亡診断書、死体検案書は両方とも重要書類なので、再発行には時間がかかりますので、手続きなどで必要になる場合など注意が必要です。
注意点
団体信用生命保険のしくみと請求手続きで、注意すべき2つの点を解説します。
1. 保険金が支払われない場合がある
「告知義務違反」が代表的な例です。
保険に加入するとき(団体信用生命保険では住宅ローンを借りたとき)に、健康状態や病気について記入しますが、このとき事実と違う内容を告知してしまうと、団体信用生命保険の保険金が支払われない可能性もあります。
死亡しても団体信用生命保険で住宅ローンが返せなくなるかも知れないので注意しましょう。
2. 請求の手続きは30日以内
被保険者が保険金の支払事由に該当されたときは、30日以内に保険契約者である金融機関等までご連絡を
お願いします。 ご連絡が遅れた場合、または、金融機関等へのローン返済が遅延している場合には、一部利
息等の支払いがされないことがあります。引用:auじぶん銀行(pdf)
団体信用生命保険では、手続きの申込期限などはありませんが、あまり時間が過ぎてしまうと、思わぬ損をすることもあります。
住宅ローンを借りている人が死亡しても、家族から連絡がなく、またいつも通りに返済ができていればまだいいのですが、問題は返済が遅れた場合です。
死亡したあとに返済が遅れて、そのあとで団体信用生命保険の請求手続きをした時、保険金でカバーしきれない利息を支払わなければいけないケースもあるのです。
目安としては「四十九日」(仏教形式の場合)法要、あるいはおおむね2週間を目安に、最低でも銀行に電話連絡だけはしておきましょう。
手続き後の運用は慎重に
団体信用生命保険の説明は、実際に住宅ローン手続きで私がお客様に説明している内容であり、死亡時など請求の説明も私が処理を受け対処してきたことばかりです。
銀行員は、住宅ローンの手続きで団体信用生命保険に加入させても個人の実績にはなりません。
これは死亡手続きも仕事の一部ですが、そのあとで保険金や相続した預金など、投資運用を提案して成約になれば、個人の成績となります。
30年も銀行員をしていると、こういったときこそ勧誘するチャンスだと私は知っています。
もし銀行員から運用の提案があっても、その場で即答はせず、慎重に考えてください。(執筆者:銀行員一筋30年 加藤 隆二)