いきなりですが、「NISAは悪法!」と言ってもいいですか?

  多くの金融機関が、CMやポスターで「うちで口座を作りませんか?」と躍起になっている、少額投資非課税制度=NISA(”NIHON” Individual Savings Account)。各社手練手管でキャッシュバックなんて特典で煽られてしまうと、ちょっと引いてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか?

  「税制のメリットを全身で享受しよう!」と、その波に乗るのもいいかも知れないですが、まだまだ完成されていない税制だけに、多くの”バグ”があることも確か。「向き合うにあたっては注意や覚悟が必要だ」という心あるプロフェッショナルの小さな声も聞こえて来る今、NISAが生まれた背景を探りながら、NISAがどこに向かうのかを見つめ、どんな心構えが必要なのかを忌憚なく語ってみたいと思います。

  第一回は「いきなりですが、「NISAは悪法!」と言ってもいいですか?」です。

NISAの概要 今一度NISAの背景を話してみよう

  今回、スタートするNISAを語り、しっかりと理解するためには、そのきっかけである2003年から10年間に渡って施行されてきた「証券優遇税制」について振り返ってみる必要があります。

  2013年末まで税金は、所得税、住民税合わせて、貯蓄は20%、投資は10%と、証券優遇税制により投資の方が減税優遇されています。これは、2003年から5年間の時限措置として実施されたものが延長されたもの。

  ただ、この税制には、基本部分にサラリーマンをはじめとする一般の人への投資啓蒙という目的もあったものの、当初から「株をたくさん持っていたり、投資信託をたくさん買える、お金持ちに対しての優遇ではないか?」という疑問や不満の声が存在し、そんな声が目立ち始めた事と、元々、時限立法だったという経緯もあり、遂に打ち切りとなります。

  この制度は、悪い状態の市場環境を改善しようという目的の時限立法。実際に、この時期、2003年から市場の状況は少し改善していたという背景があります。経済の波だったとも考えられるのですが、制度によるプラス効果があった感もあります。

  前述したように、「一部の人を優遇した制度ではないか?」という強い反感や気運は常にあったものの、証券界が反対したり、なかなか市場環境も上がってこないという中、打ち切りにするのはマズいのではないかということで、3年間、2年間という形でずっと延長されて、2013年末まで生き残ったわけです。

  「証券優遇税制」が打ち切りになるので、今回は疑問や不満に応える形で、資産の少ない人に向けて準備された。それが「少額投資非課税制度(NISA)」なのですが…

  ただ、この立法の裏には、「証券優遇制度」がなくなって、証券市場がそこで停滞するとあまり見栄えが良くないという部分への対応という色合いも感じさせます。国民としたら、証券市場が少しでも賑わっている方が、経済が回復しているという印象を受けるし、それは諸外国から見ても同様。

  例えば、消費税を上げる時に、他の減税処置を実施したりするのと同様に、今回「証券優遇税制」が終わるので、それに向けて何か証券市場を活性化させるような策はないかな? と考えたところにイギリスのISA(Individual Savings Account)というお手本があったということではないでしょうか?

気になるのは、今、巷に溢れ返る「資産形成」という言葉

  日本の閣議では、国内の経済再生に向けた緊急経済対策というテーマが延々話されています。その中に、日本の家計の安定的な資産形成の援助の為の法律を作りましょうということで「資産形成」という言葉が出て来ます。

  金融庁のホームページを見ていても「国民の資産形成を支援する観点から」云々とはじまって、「幅広い家計に国内外資産への長期分散投資による資産形成を行う機会を提供する観点から」とくくられ、何度もこの「資産形成」という表現が登場していますね。

  資産形成って何? 少し考えてみましょうね。

  例えば、30歳の人が50歳で家を持ちたければ、そのためにいくら必要なのか…目標を設定し、それに向けてお金を貯めて行くのですが、貯蓄では目標に到達できないから投資という選択肢になる。

  子供の教育資金でも同じ。0歳の子が18歳になると大学に通わせる教育資金にこれだけかかります。それに向けて、毎月2万円ずつしか貯められなかったら、200万円くらいしか貯まらない。その200万円で思ってるような教育が受けられないのなら、その2万円を投資するしかない。

  老後の資金でも、日銀は最近、4000万円くらいかかると言っていますが、今、自分が35歳で、ここから毎月いくら貯めて行けば4000万円になるのか… きっと毎月8万円以上貯めて行かないと達成できないので、それは現実的に無理でしょう。4万円しか貯められないのなら、その4万円を投資して行くしかないんです。こういった行動が資産形成なんですよ。

ここで、思い切って「NISAは悪法!」と言ってしまおう

  なぜ悪法と言うのか?

  まず、5年という期間が決まっている事。これは、『ロールオーバー』(※)という方法を取って10年まで延長できるのですが、こうして期限が決まっているということがひとつ。

  もう一つ『値洗い』(払い出される際にその時点での時価が買値になる仕組み)というのがあって、その有価証券が5年後に払い出される際に、その時の時価で選択されます

  例えば、100万円で買ったものが80万円に下がっていたら、80万円で買ったと見られます。今度それが100万円に戻って「やれやれ」と思っていると、80万円で買って20万円の利益が出たと見られる。NISAの口座ならば税金は取られないのですが、これが10年後に特定口座に戻ると、20%の税金=4万円の税金がかかります。元々は100万円以内だったのに、そんな結果になってしまう可能性がある。

  そういう出来事に対して多くの人はどういう行動をとるのか少し考えてみましょう。

  例えば、2014年に100万円で何か投資信託を買いました。それが、春に買って、夏から秋にかけて110万円になって10万円儲かっていたら、まず、売却をしますね。で、その売却したお金で翌年またNISA口座で100万円使うということになる。5年間これを繰り返して行くと、結局、国が考えていた、1年100万円を5年間、500万円までという形で運用して行く人が少なくなるのではないでしょうか?

  これは結果的に見て、明らかに、長期で資産形成という観点からかけ離れていて、短期投資をする人を増やすばかりではではないのかな? と思わざるを得ません。

  もともと金融庁や閣僚会議が言っている「長期投資」とか「分散投資」とか「資産形成」というところから、ものすごく離れた行動をとらせてしまいます。極端な表現をすると、短期投資家の数を増やす為の法律になってしまっているとも言えますよね。

  本気で、国民に対して資産形成を啓蒙しようと考えるなら、こんな法律は作るべきではない。

  同じ、500万円という非課税の枠を作るのならば、期限を設けないで、その500万円はNISA口座にいつ入金しても構わないし、いつ売却しても非課税にするべきです。

  老後の為に、40年という時間がある25歳の人が、その500万円を2000万円にしたいと思ったり、30歳の人が50歳で家を持ちたいと思えば、その500万円を頭金の1000万円にするために倍にするにはどうすれ良いのかと考えますよね。

  そういった具合に考えさせる環境を作って、それを援助する法律を作るべきではないのでしょうか。

  次回、第二回は『NISAの「投資しましょう」の声は「5年間博打しなさいよ」と響く』。NISAの迷走の核心に迫ります。

※ ロールオーバー… 先物取引やオプション取引などにおいて、当限のポジションが最終決済日をもって消滅してしまうことから、当限の取引最終日までに期先(次限月)以降のポジションに乗り換えることをいう。