NEETからSNEPへ

 NEET(ニート:Not in education,Employment or Training)という言葉が使われ始めてから15年近くが経ち、今では広く使われる言葉となりました。NEETとは、『15歳~34歳の専業主婦や学生を除く、求職活動に至っていない者』であり、いわゆる若年無業者です。

 日本の失業率は求職活動をしていることが前提となっていますので、NEETは失業率の統計にも現れてこない存在です。NEETはすでに社会問題となっています。しかし、最近NEETの枠に収まらない人、つまり今まではNEETに含まれていましたが、年齢が35歳を過ぎてNEETの定義から外れる人が増えてきています。

 そもそもNEETが増え始めた大きな要因は、就職氷河期と呼ばれる時代に就職できなかった人が、そのまま就職先が見つからず、現在に至っていることに寄ります。就職氷河期は1993年~2005年と定義されていますが、大手金融機関の破綻が相次いだ後の1999年や2000年、失業率が5.4%に達した年の翌年の2003年などは特に厳しいものでした。

 現役で大学に進学していた場合、1999年に就職した世代は今年38歳、2003年の就職世代は34歳になり、来年には就職氷河期の世代がNEETの枠から完全に外れてしまいます。

 そこで最近、新たな言葉が注目されています。SNEP(スネップ:Solitary Non-Employed Persons)という2012年に東京大学社会科学研究所の玄田有史教授が提唱した言葉です。

 SNEPの意味は『20歳以上59歳以下の学生を除く未婚の無業者で、ふだんずっと一人でいるか、一緒にいる人が家族以外にいない人』を指し、つまり孤立無業者です。SNEPの場合、NEETとは違い、求職活動の有無に関わらず「孤立状態」「無業者」ということに視点を置いた概念となります。

 NEETは厚生労働省の統計によると、2012年時点で約63万人とされていますが、SNEPは現在162万人(玄田有史著:日本経済新聞出版社「孤立無業(SNEP)」より)と推計されています。

 SNEPに陥る原因としは、就職難、学校や職場でのいじめ等による引きこもり、ブラック企業での過労働による心身の疲弊など様々な理由が考えられますが、仕事から離れることで社会との関係が希薄になり、孤立感を深めていくことにつながります。そして、SNEPは将来的には多くの無年金者や生活保護受給者を生み出すことにつながります。SNEPは社会的弱者に陥る手前であると言えます。

2つの財産

 財産というと、通常はいわゆる「金融資産」を思い浮かべると思いますが、経済学にはヒューマン・キャピタル(Human Capital)という「人的資本」という考え方があります。ヒューマン・キャピタルとは、人が持つ知識や技能を資本として考えるもので、働き収入を得るということも人生設計上では重要な財産となります。

 一般的に、高齢者は貯蓄や退職金等の金融資産を多く保有していますが、働き収入を得るという人的資本は少なくなっています。逆に若年層は、貯蓄等の金融資産は少ないですが、これから働きたくさんの収入を得るという人的資本が豊富であると言えます。NEETやSNEPは、貯蓄はもちろんほとんどありませんし、働き収入を得るという人的資本を活かすことができず、2つの財産を得る機会を同時に失ってしまっています。

 最新の統計によると、平成25年12月時点での完全失業率は3.7%であるのに対し、15~24歳の完全失業率は5.9%(男:6.4%、女:5.6%)、25~34歳の完全失業率は4.7%(男:4.7%、女:4.3%)と若年層の雇用状況はなかなか改善されていません。若年層の雇用状況の改善が遅れれば、NEETやSNEPが増え、社会との接点が少なくなり孤立していく人が増えていくことになります。

格差は拡大しているのか

 格差を考える上で参考になる指標としてジニ係数というものがあります。厚生労働省は3年ごとに「所得再分配調査」を実施しており、平成23年の調査結果が昨年10月に発表されました。ジニ係数は0~1の数値で示され、1に近づくほど格差が大きく、0になると完全平等社会ということになります。数値の目安として、0.4を超えると社会不安定による騒乱が多発する警戒ラインとされています。


 1993年以降の統計を見てみると、当初所得のジニ係数は1993年には0.4394だったのが2011年には0.5536まで上がり、速いペースで当初所得の格差が大きくなっていることがわかります。しかし、社会保障や税による所得再分配が行われた後の再分配所得のジニ係数を見てみると、1999年以降はおおむね0.38付近で推移しており、今のところ社会保障や税による所得再分配機能によって格差拡大の防止が図られていることがよくわかります。

 具体的に内訳を見てみると、税による格差の改善度は5%以下という低い水準で推移していますが、社会保障による格差の改善度は1993年の12.7%から2011年には28.3%まで急激に上昇しており、社会保障制度が格差拡大防止に大きな役割を果たしています。

 しかし、社会保障制度だけに頼った格差改善策はもはや限界に近づいてきています。団塊の世代が現役世代から高齢者側へと移りゆく中で、当初所得の格差は今後も広がっていくことが予想されます。

 しかし、現役世代から高齢者へのこれ以上の所得移転は現役世代を疲弊させるだけであり、現役世代の疲弊はさらなる少子化を加速させる可能性もあり、現役世代の負担と高齢者の給付のバランスを見直すことや、税による再分配機能を高めるなどの対策が必要で、税と社会保障の一体改革はまさに喫緊の課題であると言えます。

最後に

 昨年はアベノミクス効果により、少し明るい兆しが見えたかのような1年でした。しかし、2月5日に厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査」の平成25年分結果速報値によると、平均月間現金給与総額は314,150円で、現在の調査方法となった1990年以降で最低だった昨年と同水準でした。物価上昇分を含めた実質賃金では0.5%のマイナスとなり、所得は依然として伸び悩んでいます。

 春闘にて一部企業の賃上げが行われそうですが、多くの企業は賃上げを見送ることになりそうです。消費税の増税が4月から始まりますので、生活が苦しくなったと感じる人が増えるかもしれません。

 また、今年度60歳を迎える昭和28年4月2日以降生まれの人(男性)は、厚生年金保険の支給開始年齢の段階的引き上げで、初めて60~61歳の間に年金の空白ができるため、高齢者雇用継続法が改正され、希望する人全員を雇用継続しなければならなくなりました。60歳以降の雇用が確保されるという点では良い改正ですが、高齢者の雇用継続に伴い若者の新規採用者数が絞られるようなことがあってはなりません。

 現役世代と高齢者、高所得者と低所得者など2極化する傾向にありますが、お互いに少しずつ痛みを分け合って、暮らしやすい社会、将来の不安が少なくなる社会を築いていかなければなりません。(執筆者:野﨑 悟志)