IMF(国際通貨基金、International Monetary Fund)が、各国の政策が世界経済がどのように影響するかを分析したスピルオーバー(波及効果)報告書(2014 SPILLOVER REPORT)を公表しました。(※元レポートは最下部”外部参照”に掲載)

 世界経済の現状と今後のシナリオについて、IMFとしての見方がまとめられていますので、個人投資家にとっても重要そうなポイントを整理しておこうと思います。

IMFが想定する世界経済の最悪シナリオ

 IMFは世界40ヶ国のマクロ経済をシミュレーションするモデルを構築し、各国の景気動向や金融政策変更との影響を予測しています。ダウンサイドの最悪シナリオとして、以下のような想定をおいています。

・主要新興国の成長率が今後3年で0.5%ポイント鈍化
・米国や英国の早期利上げによって借り入れコストが世界的に上昇

 最悪シナリオが顕在化した場合の世界経済全体に与える影響としては、GDPが1.5~2.0%の下振れするリスクを予測しつつ、各国の長期金利/株式市場/為替レートに与える影響についても以下のような予測を出しています。

国タイプ  長期金利  株式市場  為替レート 
安全な先進国  ▲0.15% ▲5.5%
その他先進国  ▲0.10% ▲5% ▲0.5%
一般的な新興国  +0.10% ▲7% ▲2%
脆弱な新興国  +0.50% ▲8% ▲3%

 新興国の長期金利は上昇=債券価格は下落すると予測されています。特に、経済が脆弱な新興国、主な国としてはブラジル・インド・インドネシア・トルコ・ロシア・南アフリカ・トルコなどで、長期金利は大幅に上昇すると予想されています。

 一方で、先進国の長期金利は低下=債券価格は上昇すると予測されています。これは新興国債券や株式などのリスク資産から、安全資産である先進国債券へと資金がシフトするためです。

 株価は世界中で下落、特に新興国株式が大きく下落すると予測されています。

 通貨は、安全な先進国に対して、新興国通貨が下落すると予測されています。

 これらの予測を踏まえると、個人向け社債についても、安全な先進国通貨建てのものを選ぶことが、ダウンサイドシナリオに対する備えとして必要になります。なお、IMFが定義する安全な先進国というのは、以下の5ヶ国です。参考までに5年国債の利回り(2014年8月4日時点)を併記しておきます。

国  5年国債利回り
アメリカ  約1.64%
イギリス  約1.94%
ドイツ  約0.30%
スイス  約0.08%
日本  約0.15%

 金利水準から考えると、米ドル建てまたは英ポンド建ての個人向け社債で好条件のものがあれば、上記のダウンサイドシナリオに備えることにはなるかもしれません。 ただし、日本円も「安全資産」ですので、相対的に日本円が米ドルや英ポンドに対して強くなるリスクも存在しています。

IMFが懸念するウクライナ危機の影響

 IMFはウクライナ危機の金融セクターに対する影響についても言及しています。

As Russian and Ukrainian credit quality deteriorates, banks with credit exposures will be faced with increased risks of default.

 資産規模に比したロシアのクレジットに対するエクスポージャーが高い国として、オーストラリア・フランス・イタリア・スウェーデンの銀行が、大きなエクスポージャーを抱えていると指摘しています。

 IMFは個別の銀行を名指ししてはいませんが、ゴールドマンサックスのアナリストは、

・ライファイゼン・バンク・インターナショナル(オーストリア)
・ソシエテ・ジェネラル(フランス)
・ウニクレディト(イタリア)
・OTP銀行(ハンガリー)
・ノルデア・バンク(スウェーデン)

 の5行が最も影響を受けるのではないかと指摘しています。

 特にソシエテ・ジェネラルとノルデア銀行は、外貨建て個人向け社債の発行実績がありますので、今後要注意と言えます。

IMFが見通す日本経済の今後

 最後に、IMFは日本経済についてどのように見ているのでしょうか?

 まず、基本的にIMFは日本の財政・金融政策について好意的に評価しています。

If new policies in Japan aimed at strengthening growth and stabilizing inflation at 2 percent are successful, higher growth would lead to positive spillovers.

 消費税増税と日銀のインフレターゲットによって、2014年~2015年にデフレに陥るリスクはきわめて低いと評価されています。

 一方で、成長率を押し下げるリスク要因として、以下のようなシナリオが想定されています。

・名目賃金が上昇しないままインフレが進み、消費税の増税もあり実質賃金が減少。結果として個人消費が減少する
・世界的な金融不安の中で投資マネーが安全資産である円に一斉に向かって円が急騰する

 もしこうしたリスクシナリオが顕在化した場合には、日本のGDPは最大4%下振れすると予測されています。

 また、日本に関しては、新興国経済が減速した場合の影響の大きさが、先進国の中で最も大きいと試算されています。 新興国の経済成長が1%低下した場合、日本の経済成長は0.35%近く低下することになります。中でも、中国の影響度は大きく、中国の経済成長が1%鈍化しただけで、日本の経済成長は0.20%低下することになります。

IMFレポートを受けた個人向け社債投資での心構えは?

 IMFレポートが懸念しているように、今後予想されている米国およびイギリスの利上げは、世界経済にマイナスの影響を与える可能性があります。

 影響の現れ方として、リスク資産から安全資産への逃避が起こるということ、つまり先進国国債の価格が上昇し、新興国債券や株式が下落するということは、ある意味当たり前の現象かもしれません。IMFレポートの意義は、そうした感覚的には当たり前の現象を、ある仮定を置きながら定量的に分析していることにあると思います。

 もちろんIMFが想定しているシナリオは最悪シナリオですから、この通りになるかどうかはわかりません。しかし個人投資家としても、こうした最悪シナリオを想定した資産運用が求められる局面にあることは間違いありません。

 個人向け社債は、日本円/米ドル/英ポンドのように安全な通貨建ての個人向け社債もあれば、ブラジル/トルコ/南アフリカのような経済が脆弱な新興国の通貨建ての個人向け社債も存在しています。

 最悪シナリオが顕在化した時に、自分が投資している個人向け社債の価格や為替レートがどういった方向に進みうるのか、ある程度想定しておくようにしておく必要がありそうです。 (提供:社債投資まとめ!)

【外部参照】
IMF 2014 SPILLOVER REPORT(PDF)