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「知っておいて損はない」公認会計士による監査の視点 ~商品編~

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「知っておいて損はない」公認会計士による監査の視点 ~商品編~

 今回の「知っておいて損はない」公認会計士による監査の視点、4回目は「商品や製品(棚卸資産)編」です(前回までの一覧はこちらから)

 経験上、監査をやっていて粉飾が行われやすい項目は2つあります。何かというと、1つは、売上。(前回) もう1つが、この、商品製品です。

 商品や製品を持たない企業はありません。無形のサービスを売るサービス業なら話は別ですが、小売業・卸売業・製造業などほとんどの業種において、商品や製品が保有されています。

 ただ、世の中に商品や製品は無限にあれども、どんな商品や製品についても、決算書にのってくる金額というのは、以下の式になります。

棚卸資産 = 個数 × 単価 - 評価減

 まずは、この式をしっかりおさえて下さい。その上で、この式の項目それぞれが公認会計士にチェックされると考えれば分かりやすいかと思います。以下、順に見ていきましょう。

公認会計士がチェックするポイント

(1) 個数のチェック

 今の時期、そろそろ棚卸を計画される企業も多いのではないでしょうか。その棚卸に公認会計士も同行させてもらう、これを棚卸立会といいます。

 私は、冷凍食品を数えに極寒の冷蔵庫に入ったこと、石油の量を測りに石油タンクに登ったこと、宝石をカウントすべく煌めくお店の裏に入ったこと、ワインボトルの本数チェックにホテルの裏側に潜入したこと、もう例を挙げだすときりがないほどの商品を数えてきました。

 当然ですが、あるべきは、帳簿の数量=実際の数量のはずです。実際にその倉庫に100コしかないのに、帳簿の数量が150コだったらおかしいですよね。実際にはない商品があたかも存在しているかのように計上しているのは粉飾です。

 そこで公認会計士は、倉庫にある棚卸資産に対して、テストカウントを行います。公認会計士が倉庫を歩いて回り、サンプルで数えてみた商品の数量とその帳簿の数量との一致を確認するのです。

 もし、棚卸資産のうちの一部がその倉庫にはなく外部業者等に委託して保管している様な場合には、その外部業者等に対して確認状(公認会計士が相手に対して書面を発送し、当該書面に相手が把握している数量を記載してもらうという監査の手法)を発送することとなります。

(2) 単価のチェック

 たとえ(1)で見たような数量はあっていても、それに対応する単価が正確でないと、棚卸資産の金額は正しいものとはなりませんよね? そこで公認会計士は、棚卸資産の単価について、そもそも仕入を行った時に受け取っているはずの請求書や納品書をチェックします。請求書や納品書は、昔仕入れたものだからといって捨てずに、きちんと保管しておいてください。

(3) 評価減のチェック

 簡単に言うと、この棚卸資産「ほんとに売れるの?」という視点です。売れないものがあれば、その分金額を切り下げておいて下さい、ということです。

 業種にもよりますが、昨今特に商品や製品のモデルチェンジが早いです。携帯電話やカメラなどIT機器でもそうですし、アパレル業界なんかは季節ごとに商品がかわっていきます。

 そうすると、時期を過ぎた商品や製品は「売れなくなる」わけです。こういった売れ残りのものが倉庫にたまっていくような状況ですと、滞留在庫引当金を計上する必要が出てきます。

 そこで、公認会計士は、企業が今保有している棚卸資産がきちんと売れているものであるかどうかを、過去の売上実績データを見たり、当該商品の回転期間を計算することでチェックしています。回転期間とは、棚卸資産を平均月次売上で割って得られた数値であり、棚卸資産が売れるまでにかかるおおよその月数を意味します。

回転期間(か月)=(棚卸資産)÷(年間売上/12か月)

 例えば、決算日における棚卸資産の合計が300、年間売上が1,200なら、月次の平均売上は100なので、回転期間は300÷100=3ヶ月と計算できます。つまり、今持っている棚卸資産を全部売り切るのにだいたい3ヶ月がかかるということなのです。

 これが1ヵ月ごとにモデルチェンジがあるのが通例の業界なのに、その会社の回転期間が3ヶ月あったらどうしますか? この会社の商品は滞留してしまうんじゃないの? と判断するわけですね。

 滞留すること自体が粉飾なのではなく、その場合には販売できない棚卸資産の額を見積もって費用計上(滞留在庫引当金を計上)してもらえれば問題はありませんので、その点はご留意ください。

まとめ

 結局、棚卸資産をいかに普段から整理整頓しているか。これにつきます。めんどくさい棚卸が近づいてくるこの年の瀬の時期ですが、棚卸資産は企業の命といってもよいでしょう。これをきちんと整理整頓できるかは、企業の存続に直結する問題です。

 数量についても、月1程度のペースで棚卸をこまめに行っていれば、帳簿数量と実際数量が大幅にずれることはなくなりますし、単価についても、仕入れた時の請求書や納品書を整理して保存しておけばよいわけです。

 また、評価減についても、商品や製品のうちどれが売れてどれが売れないのかを営業担当者を交えてきちんと議論。その上で売れないものについては、売れるものと区別して倉庫の1か所に固めて置いておく、という管理方法が良いでしょう。適切な商品や製品の管理のマニュアルや棚卸の実施方法などノウハウは書き出すときりがありませんので、回を改めてまた具体化したいと思います。(執筆者:植田 有祐)

《植田 有祐》
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植田 有祐

植田 有祐

会計MVP/公認会計士事務所MVP 代表 同志社大学経済学部卒業。2008年に公認会計士試験に合格。監査法人での勤務、予備校の講師、関西大学会計専門職大学院の非常勤講師も務めながら、会計知識の取得や会計資格の合格を目指す方のための個別指導サービスや、企業や大学等でのセミナーの実施を行う、公認会計士によるプロ講師集団「会計MVP」の代表講師を務める。「会計を、もっと身近に、もっと分かりやすく」をモットーに、公認会計士事務所MVPとしても活動中。 <保有資格>:公認会計士、日商簿記検定1級 寄稿者にメッセージを送る

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