最新手法 ~ 相続に見る「民事信託」~ への警笛!!

相続業界で今、最も脚光を浴びているものといえば、「民事信託(家族信託)」と異口同音に返ってきそうですが、正に、相続に携わる士業の先生や不動産、保険業界の方からも、同様にこの制度の名が挙げられると言っても過言ではありません。

民事信託については、僕自身も、こちらのコラムで何度か、その優位性やメリット等についても触れさせていただきましたが、今回は、敢えて「民事信託」への警笛ともいえるような内容について触れてみたいと思います。

「民事信託」とは

そもそも、この制度の名前である「民事信託」とは、信託銀行等の金融機関等の信託を「商事信託」という事に対して、一般の「民」が、業(営利目的)でなく、信託の受託者となるため、「民事信託」と呼ばれております。

その多くの類型が家族・親族の方が受託者となることから、「家族信託」等とも言われており、「民事信託」や「家族信託」等と区別されているように思われがちですが、呼び方の違いであって、中身は同じです。

私は、普段、「民事信託」と言っているものですから、意識していないと「家族信託」という名前が口からは出ませんが、そのあたりは、どちらでも良いので、大した議論ではないと思います。

安易な「民事信託」の活用に注意

冒頭で申し上げました通り、相続に携わる各種業界の専門家の中でも注目されており、毎日のように日本のどこかで、専門家向け、或いは、一般のお客様向けの「民事信託(家族信)」セミナーが開催されています。

一般のお客様向けセミナーについては、弁護士・司法書士・行政書士等の法律系の「士業」の先生や、税理士の先生が、一般の方がに対してセミナーを行うというのは、一般的でしょう。

しかし、その前に記載しているように「専門家向け」、つまり、一般のお客様にセミナーを開催するような「士業」の先生向けに開催される「セミナー」もあるということです。

もちろん、士業の先生方もお客様のために知識の習得(勉強)をすることは好ましいことですし、優秀な先生方は常に、知識の習得に出歩いているわけですが、実は、この民事信託についてもそうですが、やはり、新たな知識を習得すると、「人」は皆、「使ってみたい」という衝動に駆られます

つまり、せっかく民事信託という制度を学んだからには、その優位性も理解したので、自身のクライアントに対して活用してみて、広げたい!と思わるのですが、ここで重要なのは、単に「活用できるなら活用したい」と思うのか、或いは、「活用せざるを得ない場合には活用せねば」と思うか…がポイントです。

民事信託は、その性質上、非常に汎用性に富み、その内容は信託契約において、構造的にも、いかようにも造り込むことができます。

しかし、それは、裏を返すと、複雑以外の何物でもなく、そもそもの依頼者は、おそらく、何が何だか分かっていない状態に陥ることが多分にあり、中には、信託契約のサポートをすべき法律の専門家である先生方も、理解し切れていないケースがあります。

信託は、あくまで契約行為ですから、双方合意の上の契約です。

よく信託のメリットとして、契約行為によるものであるから、委託者や受託者、受益者の一方の意見・考えが変わっても、遺言のように一方的に撤回することはできない点が安心だ! 等と説明することもあります。

それは、見方を変えると、遺言のように、遺言者の一方的な想いによる「やっぱ、やーめた!」ができない、つまり、契約内容自体に行き詰った時をはじめ、契約を撤回(解除)したいと思った時、きちんとした撤回(解除)の方法が網羅されていなければ、永遠と信託し続けなければならない…という事になります

信託の実務経験者は希少

私自身は、一般社団法人東京都相続相談センターという社団法人に席を置かせていただきながら、自身にて「相続対策に特化した不動産コンサルティング会社」を経営しているわけですが、このようなご縁もあり、業界で注目されている民事信託についても両手で足りない位の件数の民事信託のお手伝いをしてきました。

中でも、一年程前には、民事信託を活用して信託財産となった不動産を、おそらく国内における最初の売却事例として売却までのクロージングを行ったわけですが、とりわけ、この時の気苦労は、なかなか体験できるものではありませんでした。実のところ、次から次への高い高い障壁が聳え立ち続けた訳です。

何よりも、世で民事信託のセミナー講師をされていらっしゃる先生方に、実務上、僕の目の前に聳え立つこれらの障壁をどう乗り越えるべきか等と意見を求めたものの、信託の設定迄しか実務をされたことがないという方が大半でした。

そう、つまり、多くの士業の方は、信託の設定迄が業務であり、信託が、信託としての機能をしている光景や、その機能を活かした実務については、ご存じ無いということです。

ましてや、民事信託のケーススタディの事例として最も挙げられる不動産の活用や、不動産の売却等はやはり経験が無いということと、そういった点から言えば、巷で繰り広げられる民事信託のセミナーの通りにされてしまうと、信託が止まってしまう(機能しなくなる)恐れもあります。

「民事信託」は最終手段として活用すべき

このように民事信託は、その契約内容に自由度が高いというメリットもありますが、複雑すぎるといった表裏一体の関係にあり、且つ、最終的な出口(売却や活用)迄を見据えたコンサルティングをできるプロが希少であるという実情もあります。

だからこそ、多くの専門家が、「是非、活用してみたい」と思うのですが、そこで不用意に活用せず、他の遺言や、生前贈与等の現行の民法上の制度で活用できる制度を利用し、現行の民法上の制度では、どうしても、叶えられない想いについてのみ、つまり、「民事信託を活用せざるを得ない」状況になって初めて活用すべきなのではないかと思います。

幸いにも私の周りには、多くの民事信託の実務家がいらっしゃいます。また、多くの専門家の方々から、民事信託の出口戦略をも見据えた、不動産業界における民事信託のパイオニアとして、ご相談いただきます。

そして、多くの実務家の方々に対し、上記のように、民事信託は不用意に活用すべきではなく、究極の相続対策は、シンプル・イズ・ベストであるということ、「民事信託」は「実務家である自身が活用したいから」ではなく、「お客様の想いを叶えるにあたり、それが唯一の手段であるから」こそ、活用すべきであるという答えを出します。

今回は、このようなコラムを掲載しましたが、決して、民事信託という制度について否定的なわけではありませんので、関係各社の方には、ご理解いただければと存じます。(執筆者:佐藤 雄樹)

この記事を書いた人

佐藤 雄樹 佐藤 雄樹»筆者の記事一覧 (41) http://www.tokyoto-souzoku.com/

一般社団法人東京都相続相談センター 理事
学習院大学卒業後、財閥系不動産会社にて6年半勤務。企業をはじめ、地主・富裕層へのコンサルティングに従事。平成19年以降、会社更生・民事再生・破産案件に対して法律事務所と一体となり企業再生業務に従事。平成23年に相続コンサルティングに特化した(株)brandsを設立。平成25年には相続の実務家と(一社)東京都相続相談センターを設立。法律・税金・不動産等の各専門分野における垣根を超えた相続コンサルティングは各士業から絶大な支持を得ている。
<保有資格>:NPO法人相続アドバイザー協議会 上級アドバイザー、公認不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士、不動産証券化協会 認定マスター、AFP、宅地建物取引士、貸金業務取扱主任者、土壌環境リスク管理者、賃貸不動産経営管理士、住宅ローンアドバイザー、終活カウンセラー
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