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透析患者批判問題の背後で政府が進めていた「自助努力」推進

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透析患者批判問題の背後で政府が進めていた「自助努力」推進

騒動を機に制度の動きを理解する

あるフリーアナウンサーがブログで、人工透析の患者に対して「自業自得の」とした上で、過激な表現で中傷したことで猛烈な批判を浴びることになり、出演していたテレビ番組を全て降板する事態にまで発展しました。

表現に十分気をつけないと自分の身に降りかかってくることは、執筆している我々も心得ておかねばと感じています。当人は謝罪しつつ、降板後も社会保障制度に対する持論にこだわっていましたが、これは近年の健康保険制度の動きと無関係ではありません。

騒動を機に制度の動きを理解し、どう向き合えばいいか考えていきましょう。


自業自得論に付帯していた自助努力推進が実現

この騒動で、現役閣僚(発言当時でも執筆時点でも)が平成25年に糖尿病患者に対して失言をしていたことも、一部では話題になりました。その当時、

「病院に通わなかった高齢者に10万円あげるのが金のかからない方法である」

と提言もしていました。

その後、健康保険制度の改革としてこの提言通りに物事が進んでしまいました。平成28年度から加入者個人(被保険者)が病気予防や健康増進の自助努力をするよう、保険者(健康保険組合や国保を運営する自治体)の事業として自助努力への支援が努力義務として追加されました。

この努力義務にもとづき、具体的には個人に対して保険者がポイントの付与や商品プレゼント、保険料の還付などを行う動きが見られます。

インセンティブ提供をめぐる政府の動き

高齢化社会に伴い医療費が膨らみ、医療費を抑制していくことは政府も課題にしておりました。

平成25年

この年に成立した社会保障制度改革プログラム法に基づいて政府が動くようになりました。

平成26年~27年

経済財政諮問会議・社会保障審議会・閣議等で、財政支出抑止のために自助努力推進をすすめる「インセンティブ改革」がたびたび議題とされ、平成27年に健康保険法等の法改正がありました。

平成28年4月

健康保険法等の法改正が施行されました。

平成28年5月

「個人の予防・健康づくりに向けたインセンティブを提供する取組に係るガイドライン」を厚生労働省が作成しており、この段階で健康ポイントや現金給付などの事例が紹介され、保険者が動きやすくなりました

なお、改正法案に対する付帯決議の段階で、受診を抑制して重症化することがないようと歯止めもかけており、ガイドラインにも報奨が目的化しないよう注意を呼びかけています。審議段階での慎重論者の意見が盛り込まれているわけです。

閣僚の失言から


透析患者の中傷問題が起きるまでに、自助努力をめぐってこうした動きがあるのです。穏健な自助努力をめぐってもアクセルとブレーキを両方かけるような事態になっていますから、急進的な自業自得論は波紋を広げるのも無理のないことです。

自助努力推進は公的医療保険の民間保険化

マネーの観点から気をつけるべきは、インセンティブ制度によって健康な人に現金給付が行われると、健康な人に対しては実質的な保険料引き下げにつながることです。

民間の生命保険では、病歴があると保険に加入できなかったり、引受基準緩和型や無選択型のような保険料が高くなるようなものにしか加入できなかったりします

当のアナ本人が公的保険を民間保険のようにせよと主張しているようですが、そういう動きの第一歩はすでに実現しているのです。これに対して懸念があるからこそ、公的保険の役割を再確認させるべく、ブレーキをかけるような注意も出ています。

この動きに対して考えたいこと

制度を受け入れて健康増進に努める方法もありますし、憲法違反だと主張して社会運動する方法も考えられますが、マネースキルの観点からも一点考えてみましょう。

公的保険と民間保険の違い


健康状態や疾病リスクによって保険料が変わるかどうかの他に、保険料を高く払う人に対して保障が厚くなるかどうかというのもあります。

民間保険は保険料を高く払えば手厚い保障を受けられますが、公的保険は逆に保険料を高く払えない低所得者に対する救済策が多いと言えます。高額療養費制度はそのいい例であり、この面では高所得者に負担を求める(福祉的な)傾向が今後も強くなると考えられます。

職場の健康保険は給与賞与で決まり、本人の意思で保険料の上げ下げをするのは難しいですが、国民健康保険の所得割は、確定申告の仕方によっても変わってきます。
(参照:国民健康保険料(税)のしくみから考える 申告制度で節約するコツ

問題になったブログで障害年金についても少し触れられていますが、国民健康保険に加入しているような方は、万が一の際に障害厚生年金がもらえず保障が薄くなる恐れもあります。公的保険の低所得者優遇の側面はうまく生かしていくべきと言えます。(執筆者:石谷 彰彦)

《石谷 彰彦》
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石谷 彰彦

石谷 彰彦

1977年生まれ。システム開発会社・税理士事務所に勤務し、税務にとどまらず保険・年金など幅広くマネーの知識を持つ必要性を感じFPの資格を取得。行政非常勤職員や個人投資家としての経験もあり、社会保障・確定申告・個人所得税関係を中心にライティングやソフト開発を行う。近年は個人の金融証券税制に重点的に取り組み、上場株式等課税方式有利選択ツールを公開。お得情報の誤解や無知でかえって損をする、そんな状況を変えていきたいと考えている。 <保有資格>AFP・2級FP技能士・日商簿記2級 寄稿者にメッセージを送る

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