日本の大学生の2人に1人が利用しているという奨学金制度。
しかし返済の負担が大きいことから、生活苦に陥ってしまう人や進学自体を諦める人も少なくありません。
学びたいという思いさえあれば、誰にでも平等にその機会が与えられることはこの国の将来のためにも必要不可欠です。
今回はほかの国の授業料や奨学金制度などを比べながら、そのシステムについて考えていきたいと思います。
目次
オーストラリアの奨学金制度
オーストラリアで行われているのは所得に応じて学費を後払いにするシステム「高等教育拠出金制度(HECS)」。
卒業後に年収が約5万5千豪ドル(約480万円)を超えた場合、その額に応じて収入の4~8%を返済していくという制度で、年収が下回ると返済の必要がなくなります。
そのメリットは
・ 返済が大きな負担にならない
・ 保証人の必要がない
・ 徴税のシステムで納めるため、回収にかかるコストが低い
・ すべての学生が利用できる
オーストラリアではこのシステムを導入したことによって学生の数が倍以上に伸び、進学への意識も高くなったと言われています。
回収率も約8割と決して低くありません。
このシステムはイギリスやオランダ、ニュージーランドや韓国でも採用されており、教育の負担軽減策として日本政府も注目しているそうです。
学業を頑張ることが条件のオーストリア
大学(専門大学を除く)の授業料は無償となっていますが、標準修業年限(標準3~4年)を1年以上超えて在学している場合は有償となります。
社会経済的状況を主な理由とする給付型奨学金の制度はありますが、給付開始後1年間に一定の成績を修められない場合は返還義務が生じます。
授業料でも奨学金の面においても、しっかり勉強して一定の成績を修めることが求められるこのシステムは、学生の学業に対するモチベーションを上げ、それが大学の質を高めることにもつながっていくのではないでしょうか。
奨学金の受給率が100%のデンマーク
給付型奨学金受給率100%とされるデンマーク。98%が国公立、2%が公営私立に通っており、その授業料は無償となっています。
標準修業年限にプラス1年の期間を上限に奨学金が受給できるようになっています。
給付額は一人暮らしの場合が月額11万1,200円、実家などで親と同居の場合は世帯収入によって1万7,300~4万7,900円となっています。
さらに子どもを育てている学生や障害のある学生には追加給付の制度があります。
子育て中の学生には追加給付もあるスウェーデン
スウェーデンの授業料はEUに加盟する28か国やアイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタインの地域以外出身の留学生は有償ですが、基本的には国公立も公営私立も無償となっています。
社会経済的状況を要件とする給付型の奨学金があり、7割近い学生が利用しています。
上限額は月額4万3,600円で、取得単位数や学生自身の収入に応じて減額されます。
また18歳未満の子どもを育てている学生に対しては、子どもの数に応じた追加給付があります。
日本のこれから~自民教育再生実行本部の「出世払い」案
自民教育再生実行本部が2017年11月に出した案は、大学授業料を国が肩代わりし、卒業後に「出世払い」で返還してもらうというもの。
オーストラリアの「高等教育拠出金制度(HECS)」をモデルにしたものととなっています。
対象となるのは大学生、大学院生、専門学校生などで、国立大学の授業料に相当する約54万円/年と入学金の約28万円を補助します。
また私大に進学した場合の差額分は、無利子奨学金を追加で借りられるよう対応する予定です。
気になる返還方法ですが、卒業後に一定の年収に達すれば「高等教育貢献費」として返還していくという方法が取られることになりそうです。
この案では納付開始の年収として「250万円以上」、「300万円以上」などいくつかの案が示されています。
ただしこの制度をスタートさせるためには、2兆円という巨額な財源が必要となるため、実現までのハードルはまだまだ高いと言わざるを得ません。
学びたくても学べない人が多くなる日本のシステム
教育は全て社会が支えるという観点から税金によって授業料を賄う福祉国家型、教育を受けた本人が支払う個人型、親や家族が教育費を負担する家族型など、国や地域によってもそのシステムには大きな違いがあります。
しかし授業料が高い国でも給付型奨学金の制度が整っていて、その内容も日本ほど複雑ではなく多くの学生が利用しやすくなっています。
日本の現在のシステムでは、収入によって進学が左右され、学びたいと思う学生の意欲が救われないものとなってしまっています。
また奨学金の返済に大きな負担が生じ、生活苦に陥っている人も少なくないため、それが社会問題にもなっています。
日本学生支援機構によると貸与型奨学金返還猶予の理由のトップは「経済困難・失業中等」などによるものとなっており、病気や災害などの理由と異なり、年々その数が増えています。
安心して教育を受けられる仕組みへ
保護者の収入が減ったことで奨学金を借りながらバイトもしなければ生活できないという実態があります。
大学で学びたいという意欲があっても、生活費を稼ぐために本来の学業が満足にできなくなり、休学や中退をせざるを得ない状況に追い込まれる学生も少なくありません。
最近ではそれがマスコミに取り上げられる機会が多くなり、大きな社会問題として広く認識されるようになりました。
国の財政負担を抑えながら、授業料の支払いをどうするのか検討を急ぐ必要があります。
教育の裾野を広げ、有為の人材を確保していくことは、国の将来にとっても非常に有益な取り組みです。
これまでのシステムを変えるのは決して簡単なことではありませんが、先延ばしにせず早急に取り組む必要があると言えるでしょう。(執筆者:藤 なつき)