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消費税が10%になった後に「年金受給」で得する人、損する人 施行予定の「年金生活者支援給付金」を解説します

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消費税が10%になった後に「年金受給」で得する人、損する人 施行予定の「年金生活者支援給付金」を解説します

政府は2018年6月15日に「経済財政運営と改革の基本方針2018(pdf)」、いわゆる「骨太方針2018」を閣議決定しました。

この「骨太方針2018」の中には、「2019年10月1日に予定されている消費税率の8%から10%への引上げを実現する必要がある」と、記載されております。

また「消費税率の2%の引上げによる5兆円強の税収のうち、従来は5分の1を社会保障の充実に使い、残り5分の4を財政再建に使うこととしていたが、これを変更し、教育負担の軽減・子育て層支援・介護人材の確保等と、財政再建とに、それぞれ概ね半分ずつ充当する」と、記載されております。

これらを読むと政府は消費税率の引上げを、かなり前向きに検討していると推測されますが、その引上げ分は従来よりも、国民に還元する方針のようです。

消費税が10%へ

例えば消費税率を引上げするタイミングに合わせて、介護職員の更なる処遇改善を進めると記載されております。

また3歳から5歳児の幼稚園、保育所、認定こども園の費用の無償化や、所得が低い家庭の子供に対する、高等教育(大学、高等専門学校など)の無償化を実現すると記載されております。

この他に以前から支給すると予告してきた、「年金生活者支援給付金」の記載もあるため、消費税率の引上げが実施されるタイミングで、いよいよ支給が始まりそうです。

低所得の年金受給者の生活支援を目的にした「年金生活者支援給付金」

年金生活者支援給付金」とは、所得の金額が一定の基準以下の、次のような公的年金の受給者に対して、月額で5,000円くらいの、それぞれの年金に応じた給付金を支給する制度です。

・老齢基礎年金の受給者 → 老齢年金生活者支援給付金

・障害基礎年金の受給者 → 障害年金生活者支援給付金

・遺族基礎年金の受給者 → 遺族年金生活者支援給付金

その他に、給付金の支給によって、所得の逆転が生じないように、上記の所得基準を上回る一定範囲の方に対して、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給されます。

それぞれの給付金の支給月は公的年金と同じように、2月、4月、6月、8月、10月、12月の年6回になります。

また給付金の支給対象になる方の所得基準は、政令(内閣が制定する命令)で定められることになっているため、現時点では具体的な基準ははっきりしておりません。

ただ年金生活者支援給付金は、低所得の年金受給者の生活支援を目的にした制度のため、所得が低いほど受給できる可能性が高くなります

なお、上記のように年金生活者支援給付金を受給できるのは、老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金の受給者になります。

そのため保険料の滞納を続けて、これらの年金を受給できなくなると、年金生活者支援給付金も受給できなくなるため、これまで以上に、保険料の納付や納付できない場合の免除申請が大切になってくるのです。

低所得の年金受給者の生活支援を目的にした「年金生活者支援給付金」

スライド調整率により年金額を調整する「マクロ経済スライド」

公的年金は、賃金や物価の変動率を元にして、新年度が始まる4月に金額を改定しているのです。

そのため原則として、賃金や物価が上昇すると、前年度より年金額が増え、また賃金や物価が下降すると、前年度より年金額が減ります。

この理由としては、例えば物価が上昇している時に、年金額が増えなかった場合、公的年金の実質的な価値が下がり、年金受給者の生活が苦しくなってしまうからです。

しかし、2004年に「マクロ経済スライド」が導入されてからは、例えば「物価の上昇率-スライド調整率」というように、賃金や物価の変動率から、現役世代の減少や平均余命の伸びを元に算出した「スライド調整率」を控除するようになりました。

この理由としては、2004年の法改正の際に、公的年金の保険料を一定の水準に固定し、その保険料で賄える範囲で、年金額を調整(実質的には減額)していくと決めたからであり、その調整のために活用されるのが、スライド調整率なのです。

ただ、このようなスライド調整率による年金額の調整は、永遠に続くわけではなく、年金財政が安定化する見通しが立ったら終了になります。

控除できなかったスライド調整率は、翌年度以降にキャリーオーバーへ

スライド調整率による年金額の調整は、例えば賃金や物価の変動率がマイナスの場合、いわゆるデフレの時には、実施しないルールになっているのです。

日本は長らくデフレが続いてきたため、スライド調整率の控除によって年金額が減ったのは、2015年度の1回だけであり、その時のスライド調整率は0.9%でした。

これではいつまで経っても、年金財政が安定化しないため、2018年度から控除できなかったスライド調整率を、翌年度以降にキャリーオーバー(繰り越し)する制度が導入されました。

つまり、賃金や物価の上昇率が大きかった年に、複数年分のスライド調整率を、まとめて控除できるようにしたのです。

キャリーオーバー制度が導入された2018年度は、賃金や物価の上昇率が低く、スライド調整率によって年金額を調整できなかったため、0.3%のキャリーオーバーが発生しております。

消費税率の引上げによって、キャリーオーバーが解消される

日本の景気は回復しておりますが、賃金や物価の上昇はゆるやかなため、日銀の黒田総裁が目標としている2%の物価上昇は、就任から5年経っても達成されておりません。

そのため、キャリーオーバーしたスライド調整率をまとめて控除できるだけの、大きな賃金や物価の上昇は、すぐには起きないだろうと考えておりました。

しかし、消費税率が8%から10%に引上げされると、その分だけ物価が上昇し、また政府関係者からの企業に対する賃上げ要請は、更に強くなると予想されます。

そうなると、賃金や物価の上昇率が大きくなるため、キャリーオーバーしたスライド調整率を、まとめて控除できる可能性が出てきます。

これは年金財政にとっては良い話かもしれませんが、個人にとっては公的年金の実質的な価値が以前よりも下がるため、生活が苦しくなってしまうのです。

物価上昇で価値が上がる金融商品を保有して、年金の減額に備える

このようにスライド調整率のキャリーオーバー制度が導入されたため、消費税率が10%に引上げされた後は、多くの年金受給者が損をする可能性があります。

しかし、一定の所得基準を満たす低所得者の方は、キャリーオーバー制度による年金の減額よりも、金額が大きい年金生活者支援給付金を受給できる場合があり、そうなると少しだけお得になります。

得する年金受給者、損する年金受給者

現在点では消費税率が引上げされるかはわかりませんが、引上げされたら、年金生活者支援給付金の支給対象者や請求手続きなどについて、すぐに調べた方が良いと思うのです。

またキャリーオーバー制度による年金の減額に備えるため、物価上昇で価値が上がる金融商品、たとえば、株式、不動産、コモディティ(金、銀、プラチナなど)などを、現在よりも多く保有しておきたいところです。(執筆者:木村 公司)

《木村 公司》
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執筆者:社会保険労務士 木村 公司 木村 公司

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。 【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種 寄稿者にメッセージを送る

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