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「毎月分配型投信」はすべてダメ 金融機関が高齢者の「分配金ニーズ」をでっち上げるのは下劣な行為

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「毎月分配型投信」はすべてダメ 金融機関が高齢者の「分配金ニーズ」をでっち上げるのは下劣な行為
多分配型の投資信託商品のどこがダメなのか

毎月分配型投資信託の残高のピークは2015年5月で約43兆円だったが、今年7月末の時点で約25兆9千億円に迄減少した。

これは、金融庁が森信親前長官時代に、毎月分配型投信を問題視して、金融機関による販売を抑制するべく働きかけた投信行政の「成果」である。

理由は後述するが、

現存する毎月分配型投信の商品は、「全て」投資家にとって好ましくない商品

だと筆者は考えている。


大変結構なことだ。

しかし、金融機関の投信販売にとって、毎月分配型への依存度合いは相当に大きかった。

この間、個人の家計が保有する投資信託全体の資産残高も10兆円以上減少することとなった。

さて、「7月の長官交代人事を機に」と金融業界の誰かが明言した訳ではないが、毎月分配型、あるいは隔月に分配金を支払うような「多分配型」の投資信託を復活させようと画策する動きが、金融業界関係者ないし業界寄りの官僚やメディアの間にあるように見受けられる。

はっきり言って、こうした動きは有害だし、彼らが売ろうとしている商品は「ろくなものではない」と筆者は思う。

一方、彼らの言い分は、

「高齢者には、資産を運用しながらも計画的に取り崩したいニーズがある」

というものだ。

これは、真面目に耳を傾けるに値する意見なのだろうか。

先ず、「今さら」という気もするが、多分配型の投資信託商品のどこがダメなのかを確認しておこう。

多分配型の投資信託商品がダメな理由

多分配型の投資信託商品がダメな理由

理由は、主に3つある。

(1) 年一回の分配と比較して、より早い時点で分配金を支払うために、収益から分配する場合には課税時点が早まる分不利になる。

(収益がマイナスなら課税上の不利はないが、そもそもそのような商品で運用する意味がない。)

(2) 大きな分配金を支払うので複利運用の効果が減殺される。

(3) 現実の商品の大半の手数料が高すぎる。

(最近導入されているものも運用管理費用だけで年率1%前後になる。これだけでも止めた方がいい。)

何れも、反対の余地のない明白な損だ。

しかし、それでも、多分配型の投資信託がよく売れていたのは、分配金を強調したセールスを行う事によって、主力の客層である高齢者が分配金を好むことにつけ込み、分配金に注意を集中させる事でファンドの運用が安定しているものであるかのような印象を与える事に成功していたからだろう。

加えて、「高齢になると、利子・配当・分配金のようなインカム・ゲインを目指した運用を中心にするといい」という考えは、例によって外国から輸入されたものだが、現在では通用しない、古い誤った通念だ。

しかし、投信販売の現場ではこの通念の存在を存分に利用している。

退職金から2,000万円投資したらどうなるか

ここのところ、金融機関が売ろうとしている商品は、次のようなものだ。

「内外の株式・債券・REIT(不動産投信)に投資して、3%程度のリターン獲得を目指し、年金が支払われれない奇数月に分配金を支払う。運用管理費用は年率1%前後。販売手数料は2%程度の場合が多い。」

仮に、この商品性格を真に受けて、例えば

退職金の中から2,000万円投資したらどうなるか

を考えてみよう。

退職金から2,000万円投資したらどうなるか

運用会社・販売会社は「3%程度のリターンがあれば、取り崩しながらも『資産寿命』が延びる」というのだが、「3%」というリターン水準は、そう気楽に目指せるものではない。

運用の収益には約2割の税金が掛かるから、投資家に提供する商品の利回りは3.75%必要となる計算であり、さらに運用管理費用を1%取るのだから、ファンド内の運用利回りは4.75%を目指さねばならない。

年金基金などの機関投資家が、内外の株式に対して想定する期待リターンは概ね5%だ。

「リスク資産」を内外株式で運用する場合、リスク資産の組み入れ率は95%にもなる。

投資家が負担するリスクの大きさは相当のものになるし、そうしない場合には、元本を削って行う分配が増えるだろう。

2,000万円の運用に対して投資家が支払う手数料はいかほどか。

毎年支払う運用管理費用だけで20万円になり、販売手数料が例えば2%あれば、当初に40万円もの手数料を支払う事になる。

内外株式のインデックスファンドで行うとどうなるか。

内外株式のインデックスファンドで行うとどうなるか。

それでは、

同じ運用を内外の株式のインデックスファンドで行うとどうなるか。

現在、インデックスファンドは内外株式共にノーロード(販売手数料ゼロ)で運用管理費用が年率0.2%未満のものが利用可能だ。

運用管理費用を仮に0.2%とすると、費用差し引き後に3.75%必要なのだとすると、目指すリターンは3.95%になる。

リスク資産への配分比率は79%と計算され、1,580万円ほど内外株式のインデックスファンドに投資するといいということだ。

年間に支払う手数料は3万1,600円だ。

同じ期待リターンの下で、リスクは、リスク資産95%から79%に明らかに低下した。

加えて、支払う手数料は、運用管理手数料だけで毎年20万円対3万1,600円のちがいがあり、この上販売手数料まで払うとその差はばかばかしいまでに拡がる。

後者の場合、「年金を補完する現金のニーズ」への対応は、そもそも普通預金に潤沢にお金が残るから、ここから支出するといいのだし、毎月なり、あるいは毎年なりに、計画的に投資を取り崩してもいい。

こうした資金繰りのためだけに、毎年十数万円余計に手数料を支払うのは愚かなことだ。

読者の親御さんがそうしようとしているなら、「止めた方がいい!」と思うにちがいない。

最後に

効率のいい運用方法とお金の管理の仕方を、親切を惜しまずに高齢者に教えてあげる

「資産寿命」を延ばすためだと称する運用と、資産の計画的「取り崩しニーズ」などと称して、高齢者に追加的なリスクを取らせる事と余計な手数料を巻き上げるビジネスを組み合わせるのは、底の割れた何とも下劣な行為だと言わざるを得ない。

リスクと手数料両面で効率のいい運用方法とお金の管理の仕方(単に計画的に換金して、預金から生活費をはらうだけのことだ)を、親切を惜しまずに高齢者に教えてあげるのが正しい人間の道ではないだろうか。

金融機関にとっても、顧客から長期的な信用を得るための「ベスト・ポリシー」となるように思う。(執筆者:山崎 元)

《山崎 元》
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山崎 元

山崎 元

経済評論家 株式会社マイベンチマーク 代表取締役 1958年北海道生まれ。1981年東京大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。その後、野村投信、住友生命保険、住友信託銀行、シュローダー投信、NBインベストメントテクノロジー、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一證券、第一勧業朝日投信投資顧問、明治生命保険、UFJ総合研究所に勤務。楽天証券経済研究所客員研究員、国家公務員共済組合連合会資産運用委員会委員。1994年東洋経済高橋亀吉記念賞優秀賞受賞。2005年1月に株式会社マイベンチマークを設立し代表取締役に就任。 寄稿者にメッセージを送る

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