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養育費滞納で取り立てをあきらめないで! 財産の差押えを可能にする「第三者からの情報取得手続き」を弁護士が解説

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養育費滞納で取り立てをあきらめないで! 財産の差押えを可能にする「第三者からの情報取得手続き」を弁護士が解説

2019年5月10日、「民事執行法」という法律の改正案が国会で可決され、成立しました。

民事執行法は一般の方になじみがないかもしれませんが「養育費」にもかかわる重要な法律です。

今回の改正により、

「相手の銀行口座がわからない」

「勤務先がわからないから養育費の差押えはできない」

諦めていた方でも養育費の取り立てができるようになる可能性があります。

以下では、養育費をはじめとした債権の取り立てを容易にしてくれる「民事執行法」の改正内容について弁護士が解説します。

諦めていた養育費の取り立てを財産の差押えで可能にする法改正

1.改正民事執行法によって創設される「第三者からの情報取得手続き」とは

改正民事執行法によって新たに創設されるのは「第三者からの情報取得手続き」です。

これは銀行などの金融機関に照会をして相手の銀行口座を調べたり、年金事務所などを通じて相手の勤務先を明らかにしたりできる手続きです。

法務局に照会をして相手が所有している不動産を調べることも可能です。

従来でも、相手が養育費を滞納したときには、養育費調停や審判を申し立てて裁判所での「調停調書」、「審判書」を入手したり公正証書を使ったりすることにより、相手の預金や給料などを差し押さえることができました。

しかしその際、相手の銀行口座や勤務先は、債権者が特定しなければならなかったのです。

相手がどこの銀行の何支店に口座を持っているのか、また相手がどこの会社で働いているのかがわからない場合、公正証書や調停調書があっても差押えはできませんでした

現実には離婚した夫の預金口座や勤務先を知っている人はそう多くはありません。

結局は公正証書や調停調書があっても取り立てができず、「絵に描いた餅」状態になってしまっていた事例が多くあります。

このように、債務名義を取得しているのに差押え対象財産が見つからないために差押えができないことは、かねてから問題視されていました。

そこで今回民事執行法が改正されて「第三者からの情報取得手続き」が作られました

今まで「相手の銀行口座や勤務先が分からないから差押えはできない」と諦めていた方でも、今後はこの手続きを利用して、相手の銀行口座や勤務先の給与を差押えられるようになる可能性があります。

養育費を滞納されても 諦めないで!

2.第三者からの情報取得手続きの対象となる情報

第三者からの情報取得手続きにより、取得できるようになるのはどういった情報なのでしょうか。

1. 預金口座の詳細情報

相手が利用している金融機関名がわかれば、本店に照会することによって支店を明らかにできるようになります。

2. 勤務先に関する情報

相手の勤務先が不明でも、市町村や日本年金機構等に照会をすることで社名や所在地等の情報を取得できるようになります。

3. 不動産に関する情報

相手が不動産(土地・建物)を所有している場合、法務局に照会をしてどこのどのような不動産を所有しているのかを特定できるようになります。

4. 株式、投資信託に関する情報

相手が証券会社を通じて株式や投資信託などを保有している場合、証券保管振替機構へ照会をすることにより、相手の保有している資産の詳細を明らかにすることが可能です。

ただし「保険」は手続きの対象外です。

相手が解約返戻金のついた保険に加入していても、保険会社に照会をしてその情報を取得することはできません

3.第三者からの情報取得手続きを利用するために必要な債務名義

第三者からの情報取得手続きを利用するためには、相手の資産を差し押さえるための「債務名義」が必要です。

具体的には次のような書類を持っているケースにおいて手続きを利用できます

・ 強制執行認諾条項付きの公正証書
・ 調停調書
・ 審判書
・ 和解調書
・ 認諾調書
・ 判決書

上記のような書類がなく単なる口約束の状態や、当事者間で交わした合意書しかない場合には、情報取得の手続きを利用できません

まずは家庭裁判所で養育費調停をして権利を確定させる必要があります。

4. 相手の銀行口座や勤務先を調べる方法

預金口座、勤務先、不動産

第三者からの情報取得手続きを使って相手の銀行口座や勤務先を調べるとき、預金口座と勤務先とで手順が異なります

1. 預金口座の場合

預金口座の場合には、公正証書や調停調書などを持っていて相手が支払いを滞納していれば、すぐに「第三者からの情報取得手続き」を利用して銀行の本店へと口座情報を照会してもらうことが可能です。

2. 勤務先や不動産の場合

勤務先や不動産については「第三者からの情報開示手続き」を利用する前提として財産開示手続きの申立てを行い、「財産開示期日」を開く必要があります。

財産開示期日」とは、裁判所が債務者を呼び出し、勤務先や銀行口座などの財産状況を確認する手続きです。

債務者が出頭しない場合や虚偽を述べた場合には罰則も適用され、現行法では30万円以下の罰金ですが、改正法では6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰が科せられます。

財産開示手続きの申立てをするためには、債権者が既に知っている債務者の財産について強制執行を行ったとしても、完全な弁済を得ることができないことの疎明が必要です。

財産開示手続きを行っても相手の預金や勤務先などに関する情報を取得できない場合に、第三者からの情報開示手続きの申立てを行うことで、裁判所を通じて、市町村や年金事務所への照会が行われます。

5. 銀行の「本店」は調べる必要がある

第三者からの情報取得手続きを利用すれば、相手の金融機関の口座を調べることが可能です。

ただし「全国のすべての金融機関のどこかに口座があるから調べてほしい」といっても不可能なので注意が必要です。

債権者は「銀行の本店」を特定しなければならないからです。

たとえば「三菱東京UFJ銀行」、「りそな銀行」などの銀行名を特定する必要があります。

「どこの金融機関かさっぱりわからない」状態では、新法でも財産の特定は困難です。

6. 勤務先の特定後、転職されたらどうすればよいか

せっかく第三者からの情報取得手続きによって相手の勤務先を調べても、相手が転職してしまう可能性があります。

その場合、どうすればよいのでしょうか。

相手が転職して開示された情報に意味がなくなってしまった場合、あらためて財産開示期日を申し立てることにより、新しい勤務先に関する情報を取得することができます。

7. 第三者からの情報取得手続きを受けたら早めに差し押さえをする

情報を取得したら、即、差し押さえの申立てを

情報開示の手続きは、あくまで「相手の預金や勤務先の情報を取得するだけの手続き」です。

情報を取得しても、そのことによって相手の財産や給料を差し押さえたり支払いをしてもらえたりするわけではありません

開示された情報をもとにして、自分で差押えを行わねばならないのです。

せっかく預金口座や勤務先の情報を入手できても、その後に相手が預金を出金してしまったり転職してしまったりしたら、調べ直しが必要となって意味がありません。

そこで、

第三者からの情報開示手続きによって情報を取得したら、すぐに滞納している養育費などの差押えの申立て

をしましょう。

自分で申立手続をするとスムーズに進まず時間がかかって逃げられてしまう可能性があるので、確実にスピーディに差押えを進めるために弁護士に相談することをおすすめします。

8. 改正民事執行法の施行時期

上記の改正民事執行法は、法務局に対し債務者の不動産に関する情報を取得する手続きを除き(同手続きは公布の日から2年以内)、「公布の日から1年以内」に施行される予定です。

2019年5月17日に交付されているので、2020年5月には第三者からの情報取得手続きを利用できるようになります。

養育費を滞納されている方は要注目

今回は改正民事執行法によって創設された「第三者からの情報取得手続き」について解説しました。

養育費を滞納されてお困りの方は、注目しておいてください。(執筆者:安部 直子)

《安部 直子》
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安部 直子

弁護士法人法律事務所オーセンス 弁護士(東京弁護士会 所属)。東京(東京八重洲・新宿・六本木・北千住)、神奈川(横浜)、千葉、大阪に拠点を置く、弁護士法人法律事務所オーセンスにて勤務。離婚問題を数多く取り扱う。離婚問題を「家族にとっての再スタート」と考え、ご依頼者様とのコミュニケーションを大切にしながら、ご依頼者様やお子様が前を向いて再スタートを切れるような解決に努めている。弁護士としての信念は、「ドアは開くまで叩く」。 <保有資格>: 弁護士資格 寄稿者にメッセージを送る

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